表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
番だからって無理して愛さなくていいです  作者: 千堂みくま@9/17芋令嬢comic2巻発売
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/9

2の3 上位五神の加護持ち

「あなたの加護、なんだったかしら」


「あ、えぇと……癒しの神です。フォルトナという……」


証明するために腕の痣を見せたけど、ミレーナさんの眼差しは冷ややかだ。


「フォルトナ、ねえ。聞いた事もないわ」


私は驚いて、しばらく絶句した。


(加護持ちの人でも知らない神様なの!? 私、ちゃんと働けるのかな……)


元から少なかった自信が消し飛んで、私はがくりと肩を落として床を見つめた。

でもミレーナさんの追及は止まらない。


「どこの家の令嬢なの?」


(あぁ……聞かれるかも、とは思ってたけど……)


答えたくないけど、黙っていたところでいずれ知られてしまうだろう。

ぎゅっと手を握り、勇気を振り絞って顔を上げる。


「家は、ありません」


「……どういう意味かしら? 家を出たの?」


「いいえ。私は孤児なので、元から家はないんです」


私がやっとの思いで答えても、ミレーナさんは何も言わなかった。

心なしか顔が青ざめていて、手も震えているようだ。

やがて彼女が出した声は、地の底を這うような低い響きを帯びていた。


「こんな孤児の平民が……殿下の番になるなんて」


「ミレーナ様、さすがに言いすぎじゃ……」


「あなたは黙っていて! 下位のくせに、私に意見するんじゃないわよ!」


モニカさんに怒鳴ったミレーナさんは、隣の部屋に繋がるドアを開けて、一瞬だけ振り返った。


「私は十二歳で加護持ちになって、ずっと努力を続けてきた。……あなたなんか、絶対に認めないわ」


私を睨みながら言い、勢いよくドアを閉じた。

気まずい空気が流れてしばらく黙っていると、モニカさんが困ったように苦笑した。


「怒られちゃった」


「すみません……。私をかばってくれたせいで」


「庇いきれなかったけどね。ミレーナ様の気持ちは分かるけど、やっぱりちょっと失礼だなって思ったし……」


そう言うと机の方に行き、隣にあった棚から木箱を取り出した。

木箱には小さなガラス瓶が並んでいて、それにミレーナさんが作った薬を少しずつ注いでいく。


「ミレーナ様は偉そうだけど、ちゃんと上位の神様の加護持ちなんだよ。獣人の神は下位だから、私はあまり強く反論できないの」


合計でニ十本ほどの薬の瓶が完成した。

瓶にガラスの蓋をして、また木箱に並べる。私もそれを手伝いながら話しかけた。


「神様にも順位とかあるんですか? アイテール様だけ飛びぬけて偉いのかと思っていました」


この世界を作った神様が一番偉いのは分かるけど、それ以外の神族の事は聞いたことがない。


(きっと加護持ちの人なら、知っていて当然の知識なんだわ)


モニカさんが教えてくれる事を、何一つ漏らさずに頭に入れよう。


「アイテール様が最高神だよ。でもその下に、上位五神っていうのがあるの。地水火風と、闘神の五人だね」


「闘神……確かカイン様の」


「殿下は闘神レイトスの加護持ちだよね。だからこの国には、なんと上位のうち二人もいるって事なの。それには理由があるんだけど……」


木箱を棚に戻したモニカさんは、「案内しながら説明するよ」と言った。

二人で部屋を出て、お城の中を歩き出す。

長い螺旋階段を上ると見張り台のような高い場所に出て、モニカさんは遠くを指差した。


「きっとカイン殿下は、ノアさんをあの森に連れて行くと思うよ」


モニカさんの指の先には、私の部屋から見えた、小さな湖のある森が広がっていた。


「私達はあそこを、冥王の森って呼んでる。湖があるでしょ? あの湖の底は、冥界に通じてるの」


「冥界? アイテール様が創造したのは、天界と人界だけですよね?」


院長先生は確かにそう教えてくれたはずだ。

モニカさんは冥王の森から目を逸らさなかった。まるで森を敵と認識して、睨んでいるみたいだった。


「冥界は冥王が作った世界だよ。冥王が人界に穴を開けたせいで、冥界から魔獣が出てきて悪さをするの。そいつらを倒したり、怪我人を治したりするのが私達の仕事」


(だからカイン様は、ここに住んでいるのね)


王子様なのに、どうしてこんな国の端っこに住んでいるのかと不思議に思っていた。

きっとその魔獣を何とかするためにローゼンにいるのだろう。


(ミレーナさんがここにいるのも、怪我人が多く出るからって事ね。ここは戦場の前線なんだわ)


私が考えていると、モニカさんが視線を森から私に移して言った。


「闘神は魔獣と冥王を倒すために作られた、特別な神様なんだって。だからすごく強いし、闘神にだけ精霊が付いてるの」


(精霊……まさか)


なんとなくピンと来て、私はセラ君を頭に思い浮かべた。


「その精霊って、セラ君ですか?」


私が言うと、モニカさんが少し驚いた顔で「当たり」と笑った。


「セラ君は聖剣の精霊なんだよ。本当の姿は剣だけど、自由自在に姿を変えられるみたい」


(どうりで……)


王子様と従者にしては、言動がおかしいと思っていた。あれは精霊だからこその態度だったのだ。


(やっぱりあの夢に出てきた剣は、セラ君で確定ね)


不吉な未来が刻一刻と近づいてくるのを感じるけど、とりあえず自分の予想が当たっていてスッキリした。

セラ君が聖剣だろうと何だろうと、私は自分の仕事を頑張ろう。


「ミレーナ様は、カイン殿下のお妃様になるために頑張ってきたから……」


モニカさんが私を見ながら、気まずそうな表情になった。

私はその発言で色々と察して、曖昧に頷いた。


「だから私を認められないんですね……。でも当然だと思います」


私は平民で、加護持ちとしての知識も実績も、何もかも足りていない。

努力を続けてきた人からすれば、私は横からカイン様を奪い取った泥棒みたいなものだろう。

申し訳なく思っているとモニカさんは続けた。


「番が出ただけなら、ミレーナ様は諦めなかったと思うんだ。側妃っていう身分もあるからね」


部屋に戻るためにまた階段を下りて、廊下を歩いていく。


「王族ならお妃様が何人かいても、おかしくないですよね……」


(そうだわ、その可能性を忘れてた……)


自分で言っておきながら、少し胸が重くなる。

カイン様が私以外の女性を大切にしているところは……あまり見たくない気がする。


(ミレーナさんはこういう気持ちになってるんだろうな)


勝手に落ち込み始めた私に、モニカさんが意外な事を言った。


「カイン殿下にはノアさんだけだよ」


「……え?」


どういう意味だろう。

思わず足をとめた私にモニカさんが続けた。


「お告げがあってからすぐに、陛下が国中の貴族に通達を出したの。カイン殿下には番が現れるから、今後一切、彼への婚約の申し込みは禁止するって」


「ええ……!?」


(そこまでするの!?)


突然、重い荷物を背負ったような気分になった。


(そうか。カイン様の番になるって、つまりお妃様になるって事だわ。今さらだけど……。カイン様のお妃様が、私だけ……?)


嬉しいような、怖いような。

そもそもお妃様とは何をする人だろう。

番になって、いずれカイン様と夫婦になるのはなんとなく理解できた。でもお妃様となると……何の役目を背負うんだろう。


私の戸惑いと混乱を知ってか知らずか、モニカさんはにこやかに笑っている。


「陛下はカイン殿下に甘いって、貴族達の間では有名なんだよ。カイン殿下がここに来たのは八歳の時なんだって。だから心配で、何かしてあげたくてたまらないんだろうね」


二人の愛を邪魔する人はいないよ。

よかったね、ノアさん。

ニコニコしながら言われても、私の頭は混乱したままだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ