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番だからって無理して愛さなくていいです  作者: 千堂みくま@9/17芋令嬢comic2巻発売
第一章

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1の2 結局、逃げられない

しかしその甘い考えは、殿下の一言で儚く砕け散った。


「孤児院の事が心配なんだな。ではこちらで支援金を出そう。人手も確保しておく」


「………………え?」


いやいや、そうではなくて。

私がここにいたいという意思表示の話なのですが……。


(こ、この王子様……空気読んでくれない!)


やんわりと「番になるより、ここにいたいなぁ」という空気を作ったつもりだったが、殿下には微塵も伝わっていない様子だ。


「俺が死んだ後も、支援が永久に続くように予算を組もう。兄上にも進言して、国中の孤児院に支援すると約束する」


「え、ちょっ……」


(あなたの兄上って、国王陛下ですよね!?)


どこまで話が大きくなるのか。

全身から変な汗が出てきた頃、院長先生が「もう充分です」と叫んだ。


「ノア、これで安心したでしょう。あなたは殿下の誠意にこたえなければなりませんよ」


「うっ…………はぃ……」


そうですよね。ここまで言われたら、断れないですよね……。


内心のショックを表面上の微笑みで隠しながら、カイン殿下と院長先生の会話を聞いた。

ほとんど頭に入らなかったけど、しばらくして殿下は「そろそろ失礼する」と言って立ち上がった。


「お見送りしなさい」


院長先生に促されるままに、ふらふらとした足取りでカイン殿下とセラ君を門まで案内する。

門の外はひっそりとして馬車もなく、護衛もなく、不思議に思って殿下に尋ねた。


「歩いてここまで来られたんですか? 護衛とかは……」


「闘神の加護持ちに、護衛なんかいるわけないんだよなぁ。むしろ足手まといかも」


なぜかセラ君が答えてくれたけど、私を見てニヤニヤ笑っている。口調もさらに砕けている。


(院長先生の前では一応、かしこまってたのね。でもこっちのセラ君の方が話しやすくていいかも)


私はいきなり殿下の番になったものの、元はただの平民……しかも孤児だ。

丁寧な態度で接してもらっても、どう反応していいのか分からなくなるだろう。


カイン殿下はしばらく私をじっと見てから、「触れてもいいか?」と尋ねてきた。

いきなり抱きしめて拒否された事を気にしているのだろう。

私が頷くと、彼は私の手を取って甲にキスを落とした。


(ひゃあ……)


王子様がやるとすごく絵になる。ぽわぽわと気分が浮き立ってきたけど、精神力でグッと耐えた。


(勘違いしない。これは私が番だからやってくれただけよ……! 本来なら貴族のご令嬢が、殿下のお相手になっていたはず)


市場に行く道を歩いていると、たまに貴族の馬車が通りすぎる事がある。

中に乗っているのは綺麗に着飾ったご令嬢で、本来ならば彼女達のような人が殿下の花嫁になるべきなのだ。


この先何があろうと、自分は平民なのだとちゃんとわきまえておこう。


「明日の午後、きみを迎えにくるよ」


「はい」


(早っ……)


せめて二・三日は待ってもらえるかと思っていた。

でも孤児院の支援を約束していただいたのだから、もう観念するしかないだろう。


そう考えて反抗する素振りもなく返事をしたのに、カイン殿下はぐっと顔を近づけてきた。

もう鼻の先がくっついてしまうんじゃないかと思うくらい、近い。


「えっ、あの……で、殿下?」


殿下の瞳に、明らかに動揺している私の顔が映った。

恥ずかしさに耐えていると、彼は頼み込むような切ない表情で言った。


「絶対に来るから、どこにも行かないでくれ」


「は、はいっ……」


私はドキドキしながら、内心で殿下を気の毒に思った。


(ここまで心配になるほど、番の事が大切なんだ……。なんだか可哀相)


番を得た獣人は、相手以外の事はどうでもよくなるほど溺愛するらしい。

身分や立場を無視して、本人の意思も関係なく、ただ惹かれあうのだそうだ。


(私は何ともないけど、殿下は獣人と同じような状態になってるのかも。でもここまで溺愛全開の状態から、どうやってあの夢に繋がっていくのかな?)


門を出た殿下は、セラ君と一緒に夜道を歩いていく。

彼らの背中が見えなくなるまで見送ってから、ある事に気がついた。


「あのお告げの紙、私の名前は書いてなかった……よね」


カイン殿下は初対面の時、私を「ノア」と呼んだはずだ。

お告げにもない私の名を、どうやって知ったのだろう。


(あらかじめ調べてあったとか? ……無理よね。星が落ちてきたから、私を見つけられたんだろうし)


考えても分からなくて、疑問を頭から追い出した。

短時間に色んな出来事が起こりすぎて、とにかく疲れていた。




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