【戯曲】嘉樹の胎動
この物語は、伝説の聖樹「嘉樹」の誕生をテーマにした戯曲です。
下町でやってる演劇のイメージと壮大さのバランスを大事にしつつ書いてみました。
X(旧Twitter)には、断片的ですが、この世界のことをいろいろ投稿していますので、興味あればぜひ覗いていってください。お待ちしております。
──塵常界に伝わる聖樹・嘉樹誕生の神聖劇──
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■登場人物
語り手 ……霄穹界の記録者。舞台全体を統括する声。
英雄 ……夙罹を討ち果たし、黎明の象徴とされた者。
十ノ同胞 ……英雄に仕えし十の神聖なる体現者たち。
(禺深羅・轟覇連・喚鏡吼・堅瑞縵・鼓命紘・澄幽綺・遊踏惟・穢喰禊・綾封主・幽嶺祀)
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【第一幕】黎火の終焉、そして訪い
(舞台中央に語り手が立ち、蝋燭の灯火が揺らめく中、沈静なる声で語り始める)
語り手(静かに頷きながら):
いにしえの刻、塵常を灼き尽くす夙罹の焔ありき。
されど、その紅蓮を鎮めしは、一柱の御霊──黎明の英雄なり。
彼に連なるは、選ばれし十の同胞。
神の象を負いし者ら、命なき定めをもって、戦を共にせり。
(薄明かりの戦いの終息を描く。十ノ同胞が静かに並び立つ)
喚鏡吼(眉をひそめて):
……火は鎮まり、空より音が消えた。
鼓命紘(拳を握りしめて):
されど我らは、種を残さぬ器──
命を伝うる道を持たず。
綾封主(静かに視線を伏せて):
終焉ののちに、次なる始まりを……
その道を指し示す者の許へ。
堅瑞縵(深く息を吐きながら):
あの御方を、我らが再び訪わん。
(十ノ同胞、蝋燭の灯火に背を染め、静かに退場)
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【以下略幕:第二〜第六幕】(割愛)
第二幕「灰の道標」
第三幕「声なき風の通い路」
第四幕「影と記憶の合間に」
第五幕「穢れの試し火」
第六幕「夢見の峠、語られざる契り」
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【第七幕】再会と願い
(舞台奥、朝靄のような淡き自然光の中に英雄が座す。十ノ同胞、ゆるやかに登場)
英雄(穏やかに微笑みながら):
……よくぞ参られた、我が友らよ。
禺深羅(冷静に視線を巡らせて):
御身の焔は、我らの道となりぬ。
澄幽綺(静謐な目でじっと見つめて):
その眼差し、いまも我が瞳にあり。
幽嶺祀(口元を引き締めて沈黙を保つ):
そして、次なる世の声が……我らを呼ぶ。
英雄(ゆっくりと頷きながら):
子を宿さぬ汝らが、未来を繋がんと欲すか。
轟覇連(豪快に胸を叩きつつ):
然り。命の門なき我らが、
いま一度、種火を賜らんとす。
英雄(決意を込めて拳を握る):
ならば、この身を捧げん。
脊柱をもって根と為し、大地に坐せ。
我が力、天と冥とを繋ぐ橋と為らん。
喚鏡吼(詩的に目を伏せて):
その御名を……嘉樹と謳おう。
(松明の灯火がゆらぎ、英雄の背より神秘の緑光がほのかに満ちて芽吹く象徴的演出)
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【以下略幕:第八〜第二十四幕】(割愛)
第八幕「水底の祈祷」
第九幕「流転の言葉、織られし絆」
第十幕「綾封主の沈黙」
第十一幕「堅瑞縵、護の儀」
第十二幕「蒼天より舞い降りし鳥」
第十三幕「遊踏惟、旅を選びし刻」
第十四幕「穢喰禊、贖いの触」
第十五幕「喚鏡吼、音を亡くす」
第十六幕「鼓命紘、陽の声」
第十七幕「澄幽綺、瞳を閉ざす」
第十八幕「禺深羅、真実と対峙す」
第十九幕「幽嶺祀、陰より召す者」
第二十幕「英雄、風となる夜」
第二十一幕「大地に撒かれし種火」
第二十二幕「風の檻、語られぬ子ら」
第二十三幕「霊域に立つ十影」
第二十四幕「還らぬ門、閉ざされし道」
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【第二十五幕】嘉樹、天に立つ
(舞台中央、巨大な嘉樹が風にそよぐ象徴的装置。夜の月明かりが静かに降り注ぐ)
語り手(穏やかに目を閉じて):
かくして、英雄は樹と化し、大地に根を下ろし給う。
その枝は塵常を覆い、根は冥幽を貫きて、
命の環を巡らす神柱となりぬ。
遊踏惟(風を感じて顔を上げる):
……風の響きが、変わった。
穢喰禊(静かに穢れを払うように手を翳す):
穢れさえ、命の糧となりて……
澄幽綺(柔らかく微笑んで):
あなたの願いは、確かに芽吹きました。
(全員、嘉樹に向かい、松明の炎を掲げて静かに頭を垂れる)
語り手(深い敬意を込めて):
嘉樹──それは、魂の寄る辺。
罪なき祈り。命なき者らの選びし未来。
その梢は今も塵常の空に触れ、
風の中、静かに揺れている。
──幕──
読んでくださってありがとうございました。
この話は「語り継がれる神話」のクライマックスを演じた劇調の文章になります。荘厳さを演じる滑稽さ、とでも言うでしょうか、そゆな様子を描ければと頑張ってみました。
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