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ひとりぼっちの最終防衛線(ラストライン)  作者: 輝夜
第五章 銀河の図書館と変化する主従

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第六話:宇宙の棘と砕けた万華鏡


月詠朔――ルナ・サクヤの「地球再デザイン計画」と、並行して進められていた「宇宙規模の害虫駆除作戦」は、当初、彼女の圧倒的な能力と、ほぼ完璧に近い情報収集・分析能力によって、順調に進んでいるかのように見えた。

地球担当の思考ユニット群(ルナナンバー1~100)は、小野寺拓海を通じて各国の指導者たちに指示を出し、ファンタジーゾーン創設の準備を着々と進めていた。各地のオアシスは安定し、アークラインは人々の生活を繋ぎ、新たな文化と経済が生まれつつあった。


一方、宇宙担当の思考ユニット群(ルナナンバー101~1000)は、銀河の各地で再活性化し始めた「侵食因子(コードネーム:亜)」の残渣――かつて「亜」が他の星々に植え付けた「芋」や「球根」のようなエネルギー吸収ユニット――の掃討作戦を展開していた。

ルナは、その並列思考能力を駆使し、同時に数十、数百の星系に意識を飛ばし、それぞれの状況に合わせて最適化された「お掃除部隊(エネルギー体や小型ドローンのようなもの)」を遠隔操作し、あるいは時には自らの力のほんの一部を「顕現」させ、効率的に「害虫」を駆除していく。

その様は、まさに神の采配。どんなに広大な宇宙であろうと、彼女の「目」と「手」からは逃れられない、そう思われた。


(……ふふん。まあ、こんなものよね。地球の片手間にやるには、ちょうどいいくらいの作業量だわ。それにしても、この星系の「亜の残渣」、妙に抵抗が激しいけど…まあ、ちょっと手こずらせてくれるくらいの方が、退屈しなくていいか。にひひっ)


ルナナンバー348号と名付けられた思考ユニットが、ある古びた恒星系で、特にしぶとく抵抗を続ける「亜の変異体」と交戦しながら、そんなことを考えていた。

その変異体は、その星の固有生物と融合し、予測不能な能力を獲得している厄介な相手だったが、それでも、ルナナンバー348号の卓越した戦術と、他の思考ユニットからのリアルタイムな情報支援があれば、いずれは制圧できるはずだった。

油断していたわけではない。だが、彼女(あるいは、その思考ユニット)は、ほんの少しだけ、「亜」という存在の、底知れない「しぶとさ」と「狡猾さ」を、見誤っていたのかもしれない。


その瞬間、だった。

ルナナンバー348号が感知していた「亜の変異体」のエネルギーパターンが、突如として、ありえないほど複雑かつ巨大なものへと変貌したのだ。

それは、まるで休眠していた火山が一斉に噴火したかのような、あるいは、宇宙そのものが悲鳴を上げたかのような、絶望的なエネルギーの奔流。


(なっ…!? この反応は…罠!?)


ルナナンバー348号が回避行動を取ろうとした時には、すでに遅かった。

変異体は、自らの存在そのものを「餌」として、さらに高次元に潜んでいた、より強大で、より悪質な「亜の捕食ユニット」を呼び寄せていたのだ。

それは、もはや「残渣」や「分身」などというレベルではない。純粋な破壊と汚染の本能に突き動かされる、宇宙の「悪性腫瘍」そのもの。


「――グギャアアアアアアアアアアアッッ!!!!」


思考ユニットに直接響く、魂を削り取るような絶叫。

次の瞬間、ルナナンバー348号の意識は、強烈な衝撃と共に、強制的に遮断された。

彼女の「視界」に最後に映ったのは、暗黒の宇宙空間を裂いて迫りくる、おぞましいあぎとと、そして、自らのエネルギー体が、まるで紙切れのように引き裂かれていく光景だった。


【月詠朔:神域(旧六畳間)】


「…………っ!!」

地球での「ファンタジーゾーン」の設計に没頭していた月詠朔の本体(メイン思考ユニット)が、突如として、鋭い痛みに似た感覚と共に、顔をしかめた。

並列思考の一部が、強制的にシャットダウンされた。それも、複数同時に。

ルナナンバー348号だけでなく、その周辺宙域を担当していた、十数の思考ユニットからのリンクが、一斉に途絶したのだ。


(……やられた…!? 私の思考ユニットが…!?)


それは、彼女が「神」へと覚醒して以来、初めて経験する「敗北」であり、「損失」だった。

油断していたつもりはない。常に最悪の事態を想定し、複数のバックアッププランを用意していたはずだ。

だが、敵は、そのさらに上を行っていた。


(……あの「亜」の残渣…ただの雑魚じゃなかった。あれは、巧妙に仕掛けられた罠…! 私の力を分散させ、そして、より強力な本体(あるいは別系統の捕食ユニット)を引きずり出すための…!)


朔の額に、冷たい汗が滲む。

初めて感じる、明確な「焦り」。

そして、自分の読みの甘さに対する、激しい自己嫌悪。

地球の「箱庭作り」に夢中になるあまり、宇宙の脅威に対する警戒心が、どこかで薄れていたのかもしれない。


(……舐めてたわね、宇宙を。そして、あの「亜」という存在を…!)


だが、いつまでも衝撃に浸っているわけにはいかない。

失われた思考ユニットは、確かに痛手だ。だが、まだ彼女には、圧倒的多数の思考ユニットと、そして何よりも、この「本体」が残っている。

そして、この「敗北」は、彼女に新たな「教訓」と、そして何よりも強烈な「怒り」を与えた。


「……いいでしょう。そこまでして私と遊びたいって言うなら、望み通り、本気で相手してあげるわよ。あなたたちが仕掛けた『ゲーム』、私が完全にクリアしてあげる。そして、その代償は…高くつくわよ?」


月詠朔――ルナ・サクヤの瞳に、これまでにないほど冷たく、そして燃えるような闘志の光が宿った。

砕けた万華鏡の破片は、しかし、それぞれがより鋭利な刃となって、反撃の狼煙を上げようとしていた。

彼女の「宇宙規模の害虫駆除」は、今、新たな、そしてより危険なフェーズへと突入する。


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