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ひとりぼっちの最終防衛線(ラストライン)  作者: 輝夜
第四章 ルナ・ドミニオンの地球(ほし)
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第四話:神の不在と凡人たちの奮闘


ルナ・ドミニオンが姿を消した後、白亜の会議場に残された世界各国の指導者たちは、しばしの呆然自失の後、すぐさま喧々囂々の議論を再開した。

議題は、もちろん、彼女が一方的に提示した「地球再生及び新秩序構築に関する基本方針」――コロニー構想、超高速物質転送ネットワーク、そして、あまりにも突飛な「ファンタジーゾーン」の創設についてだ。


「…コロニーへの集住は、現状の人類生存のためには不可避かもしれん。だが、その選定基準は? 運営権限は? そして、ファンタジーゾーンなどという、危険極まりないものを本当に受け入れるというのか!?」

「しかし、彼女は『コロニーの安全は保証する』と明言した。そして『不正は許さない』とも。ある意味、これまでの我々の腐敗した政治よりも、よほど公平で安全な世界が実現するのかもしれないぞ」

「だが、国民にどう説明するのだ!? 『神を名乗る正体不明の存在の命令で、故郷を捨ててコロニーに移住しろ』とでも言うのか? しかも、その神様がファンタジーゾーンの怪物の発生源については『話せない』制約をかけているなどと!」


賛成、反対、疑念、そしてわずかな希望。

それぞれの国の事情や、指導者たちの個人的な思惑が複雑に絡み合い、議論はどこまでも平行線を辿った。

彼らは皆、ルナ・ドミニオンの圧倒的な力を理解しつつも、そのあまりにも人間離れした計画と、そして何よりも、自分たちの権力や既得権益が脅かされることへの恐れを拭いきれずにいたのだ。


そんな中、唯一、ルナ・ドミニオンとの直接的なパイプを持つ男――小野寺拓海は、この国際的な混乱の渦中で、調整役として奔走することを余儀なくされていた。

彼は、日本政府の代表という立場を超え、もはや「ルナ・ドミニオンの代弁者(あるいは、ご機嫌取り?)」のような役割を担わされつつあった。


「小野寺さん、ルナ・ドミニオンは、本当にファンタジーゾーンの安全性をコントロールできるのかね? 我々の国民を、危険な実験のモルモットにするつもりではないだろうな?」

「ミスター・オノデラ、我が国としては、コロニーの選定において、もう少し有利な条件を引き出したいのだが、ルナ・ドミニオンへの仲介をお願いできないだろうか?」

各国の代表から、ひっきりなしに寄せられる質問、要望、そして時には恫喝に近い要求。

小野寺は、その一つ一つに誠実に対応しようと努めたが、彼自身もまた、ルナ・ドメイン(・・・)の真意を測りかねている部分が多かった。


(……本当に、あの方は何を考えているのだろうか…)


疲労困憊で自室に戻った小野寺が、思わずそんなため息をついた時。

彼の私用のスマートフォンに、例の特殊なメッセージアプリからの通知が届いた。

差出人は、もちろん「朔」――ルナ・ドミニオンの、もう一つの顔。


『小野寺さん、お疲れ様。なんか、みんな色々大変そうね。まあ、頑張って。

あ、そういえば、この前お土産にもらったケーキ、もうなくなっちゃったんだけど。

そろそろ、新しい「相談料」の催促してもいい頃合いかしら? にひひっ。

P.S. ファンタジーゾーンのモンスターデザイン、ちょっとだけ手伝ってあげてもいいけど? 面白そうだし。もちろん、これも別料金でね』


そのあまりにもマイペースで、そしてちゃっかりしたメッセージに、小野寺は思わず脱力し、そして、なぜか少しだけ笑ってしまった。

この少女(あるいは神)は、世界の指導者たちが頭を抱えて悩んでいることなど、まるで他人事のように、自分の興味と「おやつ」のことしか考えていないのかもしれない。

だが、その能天気さが、今の小野寺にとっては、ほんの少しだけ救いになっているのも確かだった。


「……分かりました、朔さん。ケーキの件、承知いたしました。それと、モンスターデザインの件も、非常に興味深いご提案です。つきましては、一度、その詳細についてもお話を伺えればと…」

小野寺は、苦笑しながらも、どこか楽しげに返信のメッセージを打ち始めた。

世界の運命は、依然としてこの掴みどころのない神の掌の上にある。

だが、少なくとも、その神様が美味しいケーキを気に入ってくれているうちは、まだ希望は捨てなくてもいいのかもしれない。

小野寺は、そんなことを考えながら、明日からの更なる激務に備えるのだった。

凡人たちの奮闘は、まだ始まったばかりだ。そして、その傍らには、いつも気まぐれな神様の、甘い誘惑(?)が寄り添っているのかもしれない。


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