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ひとりぼっちの最終防衛線(ラストライン)  作者: 輝夜
第四章 ルナ・サクヤの揺りかご

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第七話:神の設計図と宇宙(そら)の掃除


月詠朔つくよみさく――ルナ・サクヤは、神域しんいきのメインコンソールに映し出される、地球の活況を満足げに眺めていた。

冒険者ギルドが設立され、まだ見ぬフロンティアに心を躍らせる人々が、懸命に訓練に励んでいる。その熱気は、地球全体に新たな活力を与えているようだった。

彼女にとって、それはまさに、壮大なゲームの「ローンチ前イベント」を眺めているかのようだった。


神域は、今や広大な司令室のようになっており、彼女はポップコーン(もちろん概念素材から錬成したものだ)を片手に、巨大なスクリーンに映し出される、各地のギルドの訓練風景を「実況中継」している。


「あーっ、もう! ケンジさん、今の連携はダメじゃない! タンク役が突っ込みすぎたら、後衛のヒーラーが狙われるって、教官も言ってたでしょ!」

「おっ、ソフィアさんたちのポーション研究、なかなか進んでるじゃない。でも、あの『月光草』の抽出方法、もう一段階効率化できるはずよ。ヒントくらい、こっそり落としてあげようかしら。にひひっ」

彼女は、まるでゲームの運営者のように、時には厳しく、時には優しく(?)、プレイヤーたちの成長を見守っていた。その姿は、全知全能の神というよりは、ただのゲーム好きな少女だった。


彼女は、時折、ほんの少しだけ「神の介入」を行うこともあった。

連携に悩むパーティの訓練場に、それとなく理想的な連携パターンを示す「古代の戦術書(もちろん彼女が昨晩デザインしたものだ)」を「偶然」発見させてみたり。

新素材の研究に行き詰まった天野陽菜のラボに、ヒントとなる数式を、夢の中でお告げのように囁いてみたり。

「ふふん、これで少しは開発が進むでしょ。感謝しなさいよね。まあ、これも全部、私がもっと面白いゲームを楽しむためなんだけど」

もちろん、その声は誰にも届かないが、彼女は一人悦に入っていた。


傍らを浮遊するシロが、冷静に報告する。

『ルナ・サクヤ。貴殿の介入により、人類の自律的成長における重要な試行錯誤の機会が、一部失われた可能性も否定できません』

「うるさいわね、シロ。これも運営の匙加減よ。プレイヤーが詰んでゲームを投げ出しちゃったら、元も子もないでしょ? たまには、運営からの『ヒント』があったっていいじゃない。その方が、ゲームも盛り上がるでしょ?」

ルナは、ポップコーンを一つ口に放り込みながら、意に介さない。


地球の「箱庭」は、彼女の設計通りに、いや、時には彼女の想像を超えて、新たな冒険の始まりへの期待感に満ち溢れていた。

人類は、滅亡の危機を乗り越え、新たな時代の黎明期を、自らの手で築き上げようとしている。


(…うん。これなら、私が少しの間、目を離しても大丈夫そうね。ファンタジーゾーンの開門まで、もうしばらく彼らの成長を見守るとしますか)

地球の運営が安定してきたことを見届けると、ルナ・サクヤの視線は、ふと、ホログラムの隅に表示されている、広大な天の川銀河の星図へと向けられた。

そこには、かつて「亜」が根を張っていた星系が、まだいくつも「要警戒」の赤いマーカーで示されている。地球への接続ハブは破壊したが、「亜」の残渣は、銀河のあちこちに「芋」や「球根」のように潜伏し、いつ再活性化してもおかしくない状態だった。


「システム」の観測網が、いくつかの星系から、微弱ながらも、不穏なエネルギーの揺らぎを感知し始めていた。

『報告。恒星系ベータ-7にて、「亜」の残渣エネルギーの再活性化の兆候を検知。周辺の惑星環境に、微細な次元の歪みが発生しています』

シロからの報告に、ルナはポップコーンを食べる手を止めた。


(……はぁ。やっぱり、完全に綺麗サッパリとはいかないわけね。まあ、予想はしてたけど。あの「亜」のしぶとさを考えれば、これくらいは想定の範囲内、かな。地球のお庭作りが本格的に始まる前に、そろそろ本格的に、銀河全体の『お掃除』に取り掛かるべきかしらね)

彼女の瞳が、ゲームの次のステージを見据えるように、キラリと輝いた。


(さて、と。地球の勇者さんたちがレベルアップするのを待つのもいいけど、私も、そろそろ本格的に『宇宙のお掃除』にでも出かけないといけないかな。あのしぶとい宇宙のゴキブリを、一匹残らず叩き潰しに)

月詠朔――ルナ・サクヤの口元に、新たな「ゲーム」の始まりを告げる、不敵で、そして最高に楽しそうな笑みが浮かんだ。

彼女の物語は、地球という「揺りかご」の管理と並行して、今、広大な銀河を舞台にした「害虫駆除」という、新たなフェーズへと移行しようとしていた。


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