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ひとりぼっちの最終防衛線(ラストライン)  作者: 輝夜
第四章 ルナ・サクヤの揺りかご

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第六話:ギルドの胎動と、まだ見ぬ英雄譚


ルナ・サクヤが提示した「ファンタジーゾーン」という、あまりにも魅力的で、そして危険な未来。

その「神託」は、世界中の人々の心を捉え、彼らの日常に新たな熱狂を生み出した。まだ見ぬフロンティアへの扉は、固く閉ざされたままだ。だが、その扉の向こう側に広がるであろう冒険の世界に、人々は心を躍らせ、そして、来るべきその日に向けて、着々と準備を進め始めていた。


その中心となったのが、世界各地のオアシスで、ほぼ同時に設立された「冒険者ギルド」だった。

それは、ルナ・サクヤからの指示ではなく、人間たちが自発的に、そして必然的に生み出した組織だった。

ギルドは、ファンタジーゾーンへ挑むであろう「冒険者」たちの登録・管理、情報交換、そして何よりも、彼らの生存率を高めるための訓練や装備開発の拠点となりそうだった。


オアシス・トーキョー(仮称)のギルド本部では、元自衛隊の特殊部隊員たちが教官となり、能力者と非能力者が混成したパーティでの連携戦術の訓練が、連日連夜行われていた。

「いいか! ファンタジーゾーンでは、個人の力などたかが知れてるに違いない! 戦士は前衛で敵の攻撃を引きつけ、魔法使いは後方から広範囲攻撃、そしてヒーラーは常に仲間の状態に気を配れ! この連携が、お前たちの生命線になるんだ!」

教官の怒号が、模擬戦闘訓練場に響き渡る。

訓練に参加している者たちの顔は、真剣そのものだ。彼らは、まだ見ぬゴブリンやスライムを仮想敵として、必死に汗を流していた。


その訓練生の中に、ひときわ熱心な表情で剣を振るうケンジの姿があった。

彼は、パーティ「ハウリング・ブレイズ」を結成し、その圧倒的な身体能力と、復興作業で培った意外なほどのチームワークで、早くもギルド内の注目株となっていた。

「へっ、レイザーボアの模擬突進だぁ? 上等だ! 俺が真正面から受け止めてやる! お前らは、その隙に側面から叩け!」

彼は、仲間たちに指示を出しながら、自ら盾役となって仮想敵の猛攻を受け止める。その姿は、かつての無法者集団のリーダーではなく、仲間を守り、共に戦う、頼れる「戦士」の姿そのものだった。

この訓練の日々が、彼に「力」の本当の使い方と、仲間と背中を預け合うことの重要性を、教え込んでいた。


もちろん、冒険の準備は戦闘訓練だけではない。

聖女ソフィアの診療所は、今や「ヒーラーギルド」の様相を呈していた。彼女の元には、全国、いや世界中から、癒やしの力を持つ者たちが集まり、互いの能力を高め合い、そして、ルナから提供された「異世界の薬草図鑑」を元に、未知なるポーションの理論研究に没頭していた。

「この『月光草』と『太陽の雫』を組み合わせれば、あるいは…強力な再生効果を持つ霊薬が生まれるかもしれません…」

彼女たちの探求心は、この世界の医療を、新たな次元へと引き上げようとしていた。


ギルドの工房では、建築家の天野陽菜が、鍛冶師たちと共に、新たな装備の開発に取り組んでいた。

「ルナ様から頂いたデータによれば、『ミスリル』は魔力を帯びやすく、軽量で、かつ非常に頑丈だという…。もし、本当にそんな金属が手に入れば、魔法剣や、飛行能力を持つ鎧すらも夢ではない…!」

彼らは、まだ手に入らぬ幻の素材に思いを馳せながら、その特性を最大限に活かすための設計図を、夜を徹して描き続けていた。


人々は、まだ見ぬ冒険を夢想し、そのための準備に情熱を燃やす。

それは、地球という星を舞台にした、壮大なリアル・ファンタジーRPGの、まさに「キャラクターメイキング」と「チュートリアル」の期間だった。

まだ、本当の英雄は生まれていない。まだ、本当の冒険は始まっていない。

だが、ギルドに集う人々の瞳には、確かな英雄譚の「胎動」が、力強く宿っていた。

彼らは、その「試練」の扉が開かれる日を、今か今かと待ち望んでいる。そして、その扉の向こうで、自分たちが主役の物語を紡ぎ出すことを、固く心に誓っているのだ。


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