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ひとりぼっちの最終防衛線(ラストライン)  作者: 輝夜
天空のハルマゲドン、そして祝福の光

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第四話:夜明けの光と星々の後始末


月詠朔サクヤの、規格外れで想定外の「エネルギー直接吸収・変換能力」覚醒は、高次元における戦いの様相を一変させた。

先ほどまで彼女を数の力で圧倒しようとした「侵食因子(コードネーム:亜)」の防衛部隊は、今や、彼女にとって良質な「エネルギー源」でしかなかった。

黒い触手が踊るように空間を薙ぎ払い、捕らえられた怪異たちが、ミシミシ、ギシギシッと悲鳴のような軋みを上げながら圧縮され、そして、ズゥゥン…! ゴゥゥン…!という重低音と共に純粋なエネルギーへと変換、吸収されていく。

その様は、もはや戦闘というよりも、一方的な「捕食」あるいは「収穫」と呼ぶ方が相応しかった。


「……ふふっ。あなたたちが地球から吸い上げた分、きっちりお返ししてもらうんだから。利子もたっぷりつけて。」


朔の口元には、もはや狂気すらない、どこか楽しげで、自信に満ちた笑みが浮かんでいた。

彼女の力は、吸収したエネルギーを糧に、際限なく増大していく。

そしてついに、彼女は「亜」の地球接続ハブ――あの暗紫色の巨大なエネルギーの渦――の、まさに中心核までも到達した。


そこは、多くの星々から吸い上げられた膨大な原始の源とも言えるエネルギーと、高次元の歪んだ法則が複雑に絡み合う、混沌の坩堝だった。

だが、既に今の朔にとって、それはもはや脅威ではない。

極上の「ご馳走」でしかなかった。


「――メインディッシュの時間ね」


朔は、そのエネルギーの渦に向かって、再び無数の黒い触手を伸ばした。

触手は、渦の中心核に深々と食い込み、そして、まるで巨大なポンプのように、そのエネルギーを逆流させ始めた。

「亜」の本体へと滾々と送られていた生命力が、あらゆる物の源とも言えるエネルギーが、朔により徴収され、また、一部は地球に向けて還流され始める。いや、それだけではない。朔は、接続ハブそのものが持つ、高次元の歪んだエネルギーすらも、自らの力へと変換し、吸収し始めた。


その時、朔の意識の深奥に、まるで遠い星の記憶の断片が流れ込むかのような、微かな、しかし純粋な『光』の存在を感じとった。それは、膨大な『亜』の混沌たるエネルギーの奥底に、凍り付くように閉じ込められていた、無垢で、哀し気な『願い』の残滓だった。さくは、ほんの一瞬だけ、その光に意識を向けた。それは、彼女が地球で守りたいと願った子供たちの笑顔と、どこか重なるような、甘く、そして切ない響きを帯びていた。

(……これは……?)

だが、今は深掘りする余裕はない。さくは、その『光』を、他のエネルギーとは別に、自らの力の深奥に、そっと、しかし確実に隔離した。


その瞬間、「亜」は、初めての経験となる「収奪される」という感覚に、本能的な恐慌を示した。

ギヂギヂギヂィィィィッ!! という、金属が擦れ合うような、あるいは巨大な生命体が断末魔を上げるような、不快な異音が、高次元空間に響き渡る。

これまで、安全な高次元から一方的にエネルギーを搾取することしか知らなかった「亜」にとって、自らが「喰われる」という事態は、理解不能な恐怖そのものだった。

エネルギーの渦は、不規則に脈動し、暴走したかのようにエネルギーの奔流を周囲にまき散らし始める。それは、まるで塩をかけられたナメクジが、身をよじり、のたうち回り、意味もなく粘液をまき散らすような、無様で、そして哀れな抵抗だった。

何が起きているのか分からない。意味も分からない。だが、自分たちの「存在そのもの」が、急速に失われていくという明確な危機感だけが、その本能的なパニックを加速させていた。


しかし、そんな「亜」の足掻きも、今の月詠朔サクヤの前では、何の意味もなさなかった。

「今まで好き勝手してきたんだから。覚悟してくださいねっ。」

朔は、冷ややかに、しかしどこか楽しげに呟くと、黒い触手の力をさらに強めた。

さらに、得られた膨大なエネルギーにより、その黒い触手は無限に数を増し、暗紫色の巨大なエネルギーの渦を覆いつくすほどの様相を呈していた。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!!

抵抗は、もはや抵抗にすらならず、ただ一方的に、その存在エネルギーが吸い上げられていく。

「亜」の接続ハブは、みるみるうちにその輝きを失い、まるで養分を吸い尽くされた枯れ木のように、急速に萎んでいく。

ヘロヘロの、スカスカの状態に。

そして......ついに抵抗を諦めたかのように......沈黙した。


【地上:世界各地】


その瞬間、地球を覆っていた不吉な暗紫色の空が、まるで薄紙を剥がすように消え去った。

代わりに、空には、これまで見たこともないほど清らかで、そして穏やかな光が満ち溢れ始めた。

それは、単なる太陽の光ではない。

もっと温かく、もっと優しく、全てを包み込み、そして祝福するかのような、黄金色の光の粒子が、キラキラと輝きながら、天から静かに舞い降りてくる。

その光に触れた人々は、傷ついた心が癒され、絶望が希望へと変わっていくような、不思議な感覚に包まれた。

大地を揺るがしていた不気味な振動も、耳をつんざくような轟音も、全てが嘘のように消え去り、世界には、ただ穏やかな静寂と、そして、この黄金色の光だけが満ちていた。

それは、まさに「夜明け」だった。

人類にとって、そして地球という星にとっての、新たな時代の始まりを告げる、荘厳な夜明け。


【高次元知性体"システム":観測ステーション】


『……侵食因子「亜」のセクター・ガイア接続ハブ、エネルギー活動の完全停止を確認。対象個体:TSUKIYOMI SAKUによる、根源的脅威の排除、成功と判断』

『……対象個体のエネルギー吸収量、及び、その後の余剰エネルギーの処理方法、依然として予測不能。引き続き、最大限の警戒を継続。…何をしている???』


冷静だったはずの管制AIの声が、初めて困惑と、そしてほんの少しの呆れを含んだような響きに変わった。

彼らが見守る中、月詠朔は、吸収しきれなかった膨大な高次元エネルギーと、そして「亜」の接続ハブの残骸を、まるで手慣れたシェフが食材を処理するかのように、手際よく「お掃除」し始めたのだ。


「――『システム』さん、ちょっと手伝ってくれる? このゴミ・・、まだ使えるエネルギーが結構残ってるみたいだから、効率よくリサイクルしないと勿体ないでしょ。あ、あと、そこの壊れた次元の壁とか、あちこちに残ってるエネルギーの澱とかも、ついでに綺麗にしておいてくれると助かるんだけど。

あー...出来れば地球に還元しておいてくれたら助かるんだけど...。私、これからちょっと忙しくなりそうだから」


さくの、どこか楽しげな、そして有無を言わせぬ「お願い」に、「システム」は、しばしの計算の後、応じた。

『……次元修復及びエネルギー再分配プロトコル、起動。回収された余剰エネルギーは、対象領域セクター・ガイアの環境回復、及び、生命エネルギーの補填に優先的に使用。実行します。』


かくして、「システム」の次元補修部隊と隔壁展開部隊(彼らは朔の規格外の戦いの間、ずっとハラハラしながら待機していた)は、今度は後始末部隊(お掃除担当)として、稼働を開始した。

破壊された次元の隔壁は修復され、高次元空間に残っていた「亜」の残滓は綺麗に浄化される。

そして、朔が「ゴミ」と称したエネルギーの塊は、「システム」によって丁寧に分解・精製され、そして、まるで天の恵みのように、地球上の、特にエネルギーを奪われて疲弊していた地域へと、ぽいぽいっと、効率的に、しかしどこか大雑把にも見える形で還元されていった。

それは、まさに「星々の後始末」とでも呼ぶべき、壮大で、そしてどこかユーモラスな光景だった。


地球に、真の静寂と、そして新たな希望の光が訪れた。

その全てが、たった一人の少女の、常識外れの戦いと、そしてほんの少しの「気まぐれ」によってもたらされたことを、まだ誰も知らない。

だが、空から舞い降りる黄金色の光の粒子は、確かに、全ての人々の心に、温かな何かを届けていた。


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