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ひとりぼっちの最終防衛線(ラストライン)  作者: 輝夜
天空のハルマゲドン、そして祝福の光

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第三話:覚醒と逆襲、そして焦る調停者


高次元の回廊に、月詠朔の荒い息遣いだけが響いていた。

先ほどの「次元斬」と「大太刀」による連続攻撃は、確かに地球へ向かおうとした怪異の第一波を殲滅したが、その代償は大きかった。右腕は力なく垂れ下がり、全身を凄まじい疲労感が襲う。そして何より、こじ開けた次元の隙間からは、依然として次なる敵の気配が漏れ出してきていた。


(……くっ…!キリがない…!このままじゃ、こっちが...先に尽きる…!)


絶体絶命。

だがしかし、ここで彼女の脳裏に浮かんだのは、諦めではなく、あまりにも大胆不敵な、そして彼女らしい「解決策」だった。


「……『システム』! 聞こえてるんでしょ! いつまで見てるつもり!?早く 手伝って!」

朔の意識が、半ば命令に近い形で、高次元の「調停者」へと届く。

『…当システムは、原則として直接的な戦闘介入は不許可となります。対象個体の自主的な…』

「あの残骸、エネルギーにして! 早くっ!それならできるでしょ!」

朔の、切羽詰まった、しかし有無を言わせぬ声が響く。彼女が指し示したのは、先ほど斬り刻んだ怪異の残骸だった。


まさに、使いっぱしり。

しかし、そのあまりにも理不尽な、しかし的を射た要求に、「システム」は、一瞬、計算を停止させたかのような沈黙の後、応えた。

『……例外措置として、戦闘領域内に残留する高濃度エネルギー体の回収、及び、対象個体への緊急転送プロトコルを起動します。これは一度限りの…』

「はやくっ!!」

朔は、システムの言葉を遮った。


次の瞬間、朔の周囲の残骸や、先ほど粉みじんにした怪異の残骸――光の粒子――が、まるで掃除機に吸い込まれるかのように一点に集まり始め、そして、凄まじい勢いで朔の体へと流れ込んできた。

ゴゴゴゴゴゴッ!!!!という、空間そのものが圧縮されるかのような、重く低い轟音と共に。

「システム」が、次元パイプのようなものを繋ぎ、文字通り「亜」から得られたエネルギーを、根こそぎ朔に献上し始めたのだ。

「おっひょ!!」

(...!!...変な声でちゃった...誰も聞いてないよね...思った以上だった…!でも、これなら右腕も…!いよっ!)


垂れ下がっていた右腕が、瞬時に再生し、全身に力がみなぎってくる。それどころか、以前よりも遥かに強大なパワーが、体の奥底から湧き上がってくるのを感じた。

そして、その過程で、朔の脳裏に、新たな閃きが生まれた。


(……あ...そうだ。何も、わざわざ斬り刻んでからシステムにエネルギーにしてもらう必要なんてないよね。もっと直接的に…抵抗するなら、私が力ずくで押しつぶして搾ったり、吸い出したりして、奪っちゃえば...!)


それは、発想の転換。

「亜」が地球からエネルギーを吸い上げる事が出来ているのなら、私も同じことが出来ないはずが無い。あ、いや、本来なら簡単なことでは無いのは間違いない。はずなのだが......

「亜」の怪異そのものを、その抵抗をねじ伏せて破壊し、その際に放出される膨大なエネルギーを、そのまま根こそぎ自分の力へと変換する。

そんな、あまりにも規格外でそして効率的な方法ではあるが、困難であるはずの方法を、彼女はこの土壇場で理論的に成立した技術として亜から学び取り、さらに大幅に改善した上で顕現させてしまった。


「.....にひひっ! そうだよね! これが、本当に『因果応報』だよっ! 手荒だけど、効率重視でいかせて貰うねっ!」


完全に吹っ切れたような、そしてどこか狂気すら感じさせる笑みを浮かべた朔は、再び次元の隙間の向こう側、地球へと雪崩れ込もうとする第二波、第三波の怪異の群れへと向き直った。

もはや彼女の手に、エネルギーの大太刀はない。

代わりに、彼女はただ、両手を広げた。


そして、宣言する。

「――喰らい尽くしてあげるわ。あなたたちの抵抗ごと、そのエネルギーも、その存在も、全部っ!」


次の瞬間、朔の全身から、暗黒物質ダークマターを凝縮したかのような、無数の黒い触手が、鞭のようにしなりながら伸び、周囲の空間ごと、怪異たちを捕らえ、そして文字通り「圧し潰し」始めた。

捕らえられた怪異たちは、激しく抵抗し、高次元エネルギーの火花を散らし、おぞましい断末魔のような咆哮を上げる。黒い触手は、その抵抗を力でねじ伏せ、ミシミシ、ギシギシッと、まるで巨大な万力で締め上げるかのように、怪異の体を瞬時に圧壊させていく。

ズゥゥン…! ゴゥゥン…! と、高次元空間そのものが震動し、何かが強大な力によって圧し折られ、砕け散っていくような、重く低い破壊音が連続して響き渡る。

そして、完全に破壊され、抵抗する力を失った怪異の残骸は、凝縮された純粋なエネルギーの塊へと姿を変え、黒い触手を通じて、まるで栄養を吸収するかのように、朔の元へと流れ込んでいく。

空間が歪み、次元が軋み、怪異たちは次々と、その存在そのものを、朔の力へと変換されていくのだ。


【地上:世界各地】


その頃、地上では、原因不明の、まるで地殻そのものが呻きを上げているかのような、重く低い振動と、ゴゴゴ…ゴ…ゴ……という、何かが連続して崩落していくような轟音が、世界中を叩きつけていた。

それは、雷鳴でも、地震でもない。もっと根源的な、世界の法則そのものが軋みを上げているかのような、恐ろしくも壮大な音だった。

人々は、空が裂けるのではないかと怯え、ただ祈るしかなかった。

彼らは知らない。それが、はるか高次元で繰り広げられている、一人の少女の「一方的な捕食」と、それに伴う次元の歪みの余波であることを。


【高次元知性体"システム":観測ステーション】


『……対象個体:TSUKIYOMI SAKUの戦闘パターン、急激に変化! 未知のエネルギー吸収・変換能力を確認! ......!?!?予測不能な進化! 対象は、敵性存在を直接エネルギー源として吸収を開始!?』

『警告! 警告!!対象個体のエネルギー放出量及び吸収量が、許容範囲を大幅に超過! 周辺次元構造に不可逆的な損傷が発生します!対処が必要!緊急に対処が必要!!』

『緊急プロトコル発動します! 次元補修個体、全機出動を要請! 隔壁展開部隊、多重防御フィールドを各々の判断で即時構築を要請!エネルギーの奔流を制御、......なんとしてでも拡散を阻止せよ! 最優先!! 世界が崩壊…現宇宙の法則が書き換わってしまう!緊急事態!全部隊、全個体、最善を尽くせ!』


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