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ひとりぼっちの最終防衛線(ラストライン)  作者: 輝夜
幕間 忠誠と秘密とケーキの箱

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見えざる侵食者と効率的な防衛者


宇宙の法則は、人間の矮小な認識を遥かに超えている。

高次元と呼ばれる、我々の時空とは異なる位相には、我々が「生命」と呼ぶものとは全く異なる原理で活動する、知性あるいは本能が存在する。


その一つが、地球の人類が、今まさにその脅威に晒されている「見えざる侵食者」だ。

それは、特定の姿形を持つ個体ではない。むしろ、より広大な高次元の「本体」から、無数の「エネルギー吸収ユニット」を、様々な宇宙の星々へと射出する、一種の現象に近い。

この「吸収ユニット」は、標的とした生命の存在する星の次元に微細な「穴」を開け、そこから星固有のエネルギー――地核の熱、大気の力、そして生命体が放つバイタルフォース――を効率的に吸い上げ、高次元の「本体」へと転送する。

一度、次元の「穴」が開けられ、エネルギーの道筋ルートが確立されると、その接続は繰り返されるたびに強固になり、より大量のエネルギーを、より迅速に吸い上げるようになる。そして、その過程で、接続口からは副産物として、あるいは積極的な防衛排除システムとして、「怪異」と呼ばれるエネルギー生命体が排出されるのだ。ラビットやファングキャットといった存在は、この「吸収ユニット」が生み出す、初期段階の尖兵に過ぎない。

宇宙には、この「見えざる侵食者」によって、すでに多くの星々がその活力を奪われ、冷たい抜け殻と化した例が、無数に観測されている(もちろん、それを観測できる知性にとっては、だが)。


そして、この「見えざる侵食者」の新たな「吸収ユニット」が、太陽系第三惑星――地球へと、その狙いを定めている。

地球人類が「第一次襲撃」と認識した現象は、この「吸収ユニット」が、地球の次元に最初の「穴」を開け、エネルギー吸収のテストを開始した瞬間だった。

そして、続く襲撃は、その「穴」が地球環境に適応し、接続がより安定し、そして、より厄介な「怪異」を排出するための、段階的なプロセスに他ならない。


この「見えざる侵食者」の活動に対し、同じく高次元に存在する、別の知的生命体群がいる。

彼らは、侵食者とは異なる原理で活動し、その最大の特徴は「極めて効率的かつシステマティックな判断と行動」にある。彼らは、宇宙全体のエネルギーバランス、あるいはもっと別の、人間には理解し得ない大局的な目的のために、「見えざる侵食者」の無秩序な活動を抑制、あるいは管理しようとしている。

地球の人類が「システム」と認識しているのは、この高次元の「防衛者」あるいは「調停者」の一端だ。

彼らは、侵食者とは直接的に武力衝突することはない。それは、おそらく彼らの活動原理に反するか、あるいは効率的ではないからだろう。

その代わり、彼らは、侵食の対象となった星の在来種の中に、その星を防衛しうる「特異な才能」を持つ個体を見つけ出し、限定的な情報とリソースを提供することで、その個体の「進化」を促し、代理防衛を行わせる。

月詠朔のような「能力者」の覚醒と、その後の異常なまでの成長は、まさにこの「防衛者」による、極めて効率的な「対侵食者戦略」の一環だった。


「防衛者」は、朔の持つ類稀なるエネルギー需給効率と、状況判断能力、そして何よりも「面倒事を最も効率的に排除しようとする」という彼女の性質を、極めて高く評価している。

彼らにとって、朔は理想的な「エージェント」であり、その成長と活動は、彼らの目的達成に大きく貢献するものと判断されている。

そのため、彼らは、朔が得た戦闘経験や、彼女が倒した「怪異」から回収されるエネルギーの大部分を、再び朔自身に還流させ、彼女のさらなる進化を積極的に支援している。それは、まるで「この星の防衛は、あなたに任せた方が効率が良さそうだ」とでも言うかのように。

そして、もし朔が、将来的に彼らと同じ高次元の存在へと至る道をたどるのであれば、彼らはそれを妨げるどころか、むしろ歓迎するだろう。その方が、より効率的に「宇宙のバランス」を維持できると判断するならば。


地球という星は、今まさに、この二つの高次元存在の、目に見えない綱引きの舞台となっている。

一方は、ただ星のエネルギーを強行に貪り尽くそうとする、冷徹で原始的な侵食システム。

もう一方は、それを効率的にそれを阻止(あるいは管理)しつつ、かつ効率よくエネルギーとして回収しようとする、超合理的な防衛システム。

そして、その最前線で戦うことを(半ば強制的に)選ばされた月詠朔つきよみさくは、まだその壮大な構図の全貌も、自分自身に託された(あるいは利用されている)役割の本当の意味も、深くは理解していない。


ただ、彼女は、自分の「快適な日常」を守るために、そして、ほんの少し芽生え始めた「誰かを守るのも悪くないかもしれない」という感情のために、今日もまた、六畳間でその力を研ぎ澄ます。

その先に、どんな未来が待っていようとも。そして、その戦いが、彼女の予想を遥かに超える短期間で、前代未聞の形で終結を迎える可能性を秘めていることなど、まだ「システム」ですら正確には予測できていないのかもしれない。


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