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ひとりぼっちの最終防衛線(ラストライン)  作者: 輝夜
幕間 静寂と喧騒の狭間で

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28/197

ユニオン・シールドの地下会議室にて

アルビオン連邦首都圏外縁部、統合防衛庁舎ユニオン・シールドの一室。


そこは、窓もなく、最新鋭のセキュリティシステムによって外部から完全に隔離された、地下深くの会議室だった。


中央の巨大な円卓には、軍の制服に身を包んだ将官たち、情報機関の幹部、そして政府の高官たちが、険しい表情で席に着いていた。


彼らは、連邦戦略フェデラル・ストラテジック安全保障評議会セキュリティ・カウンシル (FSSC)の緊急招集メンバーだ。


部屋の壁一面に設置された大型スクリーンには、第三次大襲撃「ファングキャット・パンデミック」によって荒廃した世界各地の衛星写真や、被害状況を示すデータが、めまぐるしく表示されている。

そのどれもが、絶望的な数字と映像ばかりだった。


「……以上が、現時点で把握できている全世界の被害状況だ。ご覧の通り、壊滅的と言わざるを得ない」

国防長官が、重々しい口調で報告を締めくくった。


室内に、重苦しい沈黙が広がる。


アルビオン連邦もまた、この未曾有の災害によって甚大な被害を被り、国内の混乱は未だ収束の兆しを見せていなかった。多くの都市が機能を停止し、軍は国内の治安維持と救助活動に追われ、疲弊しきっている。


「…しかし、長官。その中で、一つだけ、我々の理解を超えるデータが上がってきている。極東の島国、日本だ」

連邦戦略情報局(FSIA)長官が、厳しい表情で口を開いた。


スクリーンに、日本列島の地図と、いくつかの都市の被害状況を示す詳細なデータが映し出される。


その中で、ひときわ目立って被害が少ない、異常なまでに「安全」なエリアが存在していた。


〇〇市南々東エリア――今や世界中の情報機関が、その名を注視している場所だった。


「『奇跡の街』…か。現地のメディアはそう呼んでいるようだが、我々の分析では、これは奇跡などではない。何者かによる、極めて高度で、かつ大規模な『介入』の結果としか考えられない」


統合参謀本部議長が、レーザーポインターでスクリーン上の一点を指し示した。そこには、第二次、そして第三次襲撃時における、同エリアでの怪異の殲滅パターンが、時系列で表示されている。


「出現とほぼ同時に、あるいは出現する前にすら、脅威対象が『蒸発』している。我々の衛星でも、その瞬間を捉えることはできなかった。何らかのステルス技術か、あるいは我々の理解を超えた物理法則を操る兵器が使用された可能性が高い」


「そして、この『スカイフォール・スナイパー』…あるいは、ネット上では『ワールドランキングNo.1』とも噂されている、正体不明の能力者。日本政府ですら、その正体を掴めていないという」


国家情報長官が、苦虫を噛み潰したような顔で付け加えた。


「我が国の能力者の中にも、確かに強力な者は存在する。ランキング上位者も数名確認されている。だが、これほど広範囲を、これほど完璧に守り抜く個人の力は、今のところ確認されていない。もし、これが本当に一個人の仕業だとすれば…それは、もはや戦略兵器に匹敵する存在だ」


室内に、再び緊張した空気が流れる。


彼らは、自国が保有する能力者たちのデータを徹底的に洗い出し、育成プログラムを強化し、そして、彼らを国家の管理下に置くための法整備を急いでいた。


だが、その一方で、海の向こうの小さな島国で起きている「異常事態」は、彼らのこれまでの常識や戦略を大きく揺るがすものだった。


「この日本の『何か』…それが兵器なのか、個人なのか、あるいは未知の組織なのかは不明だが、我々はこの存在を最大限に警戒し、そして可能であれば…その力を分析し、我が国の利益に繋げなければならない」

首席戦略補佐官が、冷静な、しかし強い意志を込めた声で言った。

「日本政府との情報共有を密にしつつ、あらゆる手段を講じて、この『特異点』の正体を探れ。そして、それがコントロール可能なものなのか、あるいは排除すべき脅威なのかを、早急に見極める必要がある」


会議室のスクリーンには、依然として、〇〇市南々東エリアの、不気味なほど平穏な日常風景が映し出されている。


その静けさの裏に隠された、途方もない力。


統合防衛庁舎ユニオン・シールドの地下深くで、世界の覇権を握る大国の最高意思決定者たちは、その未知なる力への畏怖と警戒、そして、抑えきれないほどの強い興味を抱き始めていた。


彼らはまだ知らない。その力の源が、莫大な国家予算を投じた最新兵器でも、秘密裏に訓練された特殊部隊でもなく、たった一人の引きこもりの少女の、六畳間の「趣味」によってもたらされているということを。


そして、その少女が、今まさに、彼らの想像を遥かに超える速度で、さらなる「進化」を遂げているということも。


世界のパワーバランスは、静かに、しかし確実に、動き出そうとしていた。


そして、その中心には、常に「ひとりぼっちの最終防衛線」がいた。

「この作品はフィクションであり、実在の人物・団体・事件などとは一切関係ありません。また、特定の思想・信条を推奨するものでもありません。」

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