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ひとりぼっちの最終防衛線(ラストライン)  作者: 輝夜
第一章 孤独な戦域

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【Side Story】武皇の盾と血の誓い


第三次大襲撃、「ファングキャット・パンデミック」の嵐は、日本全土を文字通り血と悲鳴で塗り潰した。

その中で、月詠朔の守る〇〇市南々東エリアが奇跡のように平穏を保っていた一方、他の多くの能力者団体は、文字通り死力を尽くしてそれぞれの持ち場で戦い続けていた。


1.武闘派集団「武皇(ぶおう)」・臨時拠点


「押し返せ!これ以上、民間人に近づけるな!」

リーダーの鬼塚龍臣の怒号が、無人と化した商店街に響き渡る。

彼の眼前には、ファングキャットとラビット・ホーンの混成部隊が、波のように押し寄せていた。彼らは、規律正しく、しかし荒々しい動きで、鬼塚の門下生たちに襲いかかる。


「武皇」のメンバーは、剣術や格闘術に長けた者たちが多く、その連携は目覚ましいものだった。

一人がファングキャットの突進を受け止め、盾役となる。その隙に、別の二人が両脇から斬り込み、俊敏なラビット・ホーンを叩き潰す。さらに後衛の弓使いが、精密な射撃で敵の数を減らしていく。

彼らの能力は、単純な身体能力の強化や、武具の性能向上に留まる。朔の持つライフルやスーツのような、規格外の装備などない。

しかし、彼らは知恵と勇気、そして何よりも「仲間との絆」を武器に戦っていた。


「くそっ!キリがない!どこからこんな数が…!」

門下生の一人が、ファングキャットの鋭い爪で腕を切り裂かれ、呻き声を上げる。

「退がるな!ここは防衛ラインの要だ!ここを破られれば、避難所にいる子供たちが…!」

鬼塚は、自らも愛用の真剣でファングキャットの突進を受け止め、その喉元に一閃を叩き込んだ。

だが、一体を仕留める間に、別の三体が襲いかかってくる。


自衛隊や警察も、可能な限り彼らを支援しようとしていた。

後方から小銃や機関銃の援護射撃が続くが、ラビット・ホーンの群れやファングキャットの跳躍力の前には、その効果も限定的だった。

「武皇」のメンバーが怪異と肉弾戦を繰り広げるすぐそばで、自衛隊員が負傷し、警察官が市民の避難誘導に必死で声を枯らしている。

しかし、いくら連携しても、物量が違いすぎた。


「隊長!南側から新たな群れが確認されました!」

「何だと…!」

鬼塚の顔に、絶望の色が滲む。

このままでは、遅かれ早かれ防衛ラインは破られる。避難所にいる人々が、次々に蹂躙される光景が、脳裏をよぎった。


彼らの背後では、悲鳴を上げながら逃げ惑う市民の姿があった。

足の速い者は我先に逃げ、老人や子供、怪我人たちは取り残されていく。

「お母さん、待って!」「誰か、助けて!」

そんな悲痛な叫び声が、彼らの耳に届く。


「……くそっ!」

鬼塚は、唇を噛みしめた。彼らは、この混乱の中で、自らの命を顧みず人々を守ろうとしていた。それが「武皇」の掲げる「正義」だった。

だが、その正義は、圧倒的な物量と、無慈悲な怪異の猛威の前には、あまりにも脆く、そして無力だった。


「隊長!回復班ヒーラーはまだですか!?負傷者が…!」

「来ない!連絡が取れないんだ!」

政府が急遽編成した「災害派遣特殊部隊」からは、未だ有力な援軍は到着しない。

ヒーラーも、その多くは他の激戦区に駆り出されているか、あるいは「生命の光教団」のような団体に囲い込まれており、「武皇」のような、まだ政府に完全に服従していない団体には、優先的に派遣されることはなかった。

負傷者は地面に倒れ伏し、その傷口からは血が噴き出している。手当を施す間もなく、次の攻撃が襲い来る。


「…鬼塚さん!限界です!部隊が崩壊しかけています!」

自衛隊の小隊長が、血まみれの顔で叫ぶ。

その時、どこからか、遠くで奇妙な「閃光」のようなものが一瞬見えた気がした。

それは、彼らが戦っているエリアとは、かなり離れた方角だった。


「…なんだ、あれは…?」

田畑耕作巡査部長は、遠くの空に一瞬見えた光に目を凝らしたが、次の瞬間には、目前のファングキャットに意識を奪われた。

この地獄のような状況下で、彼らは「奇跡の街」で起きていたことなど知る由もなかった。

ただ、自分たちの牙が届かない、途方もない強大な何かが、どこかにいるのかもしれないという、漠然とした予感だけが、彼らの心に微かに残った。


鬼塚は、血塗られた剣を構え、迫りくるファングキャットの群れに再び身を投じた。

仲間の屍を乗り越えてでも、この防衛ラインだけは死守する。

それが、彼らに残された、最後の「誇り」だった。


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