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ひとりぼっちの最終防衛線(ラストライン)  作者: 輝夜
その後のエピソード
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宇宙一のクラスマッチ


高校に入学して、約一ヶ月。

新入生たちの間に、まだ残る緊張感をほぐし、クラスの団結を高めるための、一大イベント「クラスマッチ」の日がやってきた。

種目は、男女混合の「ドッジボール」。

シンプルなルールだからこそ、運動神経だけでなく、チームワークと、ちょっぴりの「運」が、勝敗を分ける。


2年B組の教室では、担任の先生が、出場選手を発表していた。

「――以上だ! みんな、クラスの代表として、優勝目指して頑張ってくれよ!」

男子チームのキャプテンには、運動神経抜群の朝日くんが、女子チームのキャプテンには、持ち前の明るさとリーダーシップで、すっかりクラスの人気者になった、夏川海が選ばれた。

そして、雫もまた、女子チームの一員として、選手に選ばれてしまっていた。

(うぅ…私、球技、苦手なのに…足を引っ張らないようにしないと…)


一方、ライバルとなる2年A組。

そちらの男子チームのキャプテンは、もちろん、あの新入生代表の、火神烈火だった。


【オペレーション・センター:体育館の、一番高いキャットウォークの上】


(三人の保護者たちの、それぞれの思惑と、コミカルなやり取りは、前回と同様とします。彼らの「お節介」計画は、変わらず進行中です)


【第一回戦:キャプテンの器】


試合が始まった。

キャプテンとして、コートに立つ朝日くんの姿は、いつもとは、少しだけ違っていた。

彼は、特定の誰かを守るのではない。コート全体を俯瞰し、クラス全員を守る「司令塔」として、的確に指示を飛ばし、自らも鉄壁の守備を見せる。

「海、右サイドが手薄だ! カバーに入れ!」

「翔、ナイスキャッチ! すぐにカウンターだ!」

「雫は、まだ無理して前に出るな! 内野の後ろで、全体の動きを見てろ!」


彼の、その冷静で、頼りになるリーダーシップに、2年B-組は、見事なチームワークを発揮し、順調に勝ち進んでいく。

雫は、そんな彼の背中を、少しだけ眩しそうに、そして、誇らしそうに見つめていた。

(すごいな、朝日くん…。みんなのこと、ちゃんと見てるんだ…)

守られている、というよりも、「信頼されている」という感覚が、彼女の心に、温かい勇気を灯していた。


【決勝戦:ライバルの激突】


試合は、白熱し、ついに、決勝戦。

相手は、もちろん、火神烈火率いる、2年A-組だ。

コートを挟んで、睨み合う、朝日くんと、烈火くん。

それは、個人のライバル心だけでなく、クラスの誇りを賭けた、キャプテン同士の、静かな戦いの始まりだった。


試合は、一進一退の、息をのむようなシーソーゲームとなった。

そして、試合終盤。

コートに残っているのは、男子は、朝日くんと烈火くん、ただ二人。

そして、女子は、雫と、数人だけ。


烈火くんが、ボールを手に、朝日くんと、そして、その仲間たちを、射抜くような視線で見つめた。

「…いいチームじゃないか、朝日。だが、最後は、エースの差で、決まる」

彼の、純粋な闘争心が、凝縮された言葉。

その言葉と共に、彼が投げたボールは、人間の動体視力を超えるほどの、凄まじい速さで、2年B組の、最後の砦である、朝日くんへと、襲いかかった!


「くっ…!」

朝日くんは、その、あまりにも速い一撃に、反応しきれない。

ボールは、彼の腕を弾き、その勢いのまま、彼の背後、コートの隅で、必死に仲間を応援していた、雫へと、一直線に、迫っていく!

誰もが、敗北を確信した、その瞬間。


【クライマックス:信じる心と、小さな勇気】


(――朝日くんが、負けるもんか!)


雫の体が、自分でも、信じられないほどの速さで、動いた。

彼女は、迫りくるボールを、避けるのではない。自らが、最後の「壁」となるために、そのボールの前に、飛び出したのだ。

そして、奇跡が起きた。

彼女が、両手で、正面から、がしっ!と、その豪速球を、受け止めてみせたのだ。

もちろん、それは、レイおば様が「今よ、雫! あなたの、隠されたる動体視力と、反射神経を、解放しなさい!」と、彼女の身体能力のリミッターを、ほんの少しだけ、外してあげた結果である。


体育館が、しんと、静まり返る。

誰もが、その、信じられない光景に、息をのんだ。


ボールを、しっかりと胸に抱いた雫は、顔を上げ、烈火くんを、真っ直ぐと、睨み返した。

その瞳には、もはや、怯えの色はない。

「――私たちのクラスは、キャプテン一人に、全部を任せたりしない!」

クラスの一員として、仲間と共に、勝利を掴み取りたいという、強い意志の光が、宿っていた。


そして、彼女は、振り返り、呆然としている朝日くんに、にこり、と、最高の信頼を込めて、微笑みかけた。

「――朝日くん。…パス!」

彼女が投げたボールは、美しい放物線を描き、朝日くんの手のひらに、すっぽりと、収まった。


その、あまりにも凛々しく、そして美しい「相棒」の姿に、朝日くんは、ハッと、我に返った。

(…そうか。俺は、一人で戦っていたんじゃない。みんなが、いたんだ。…そして、雫が、俺を信じてくれた)


彼の、キャプテンとしての責任感が、本当の「仲間への信頼」へと、昇華した瞬間だった。

「――おう!」

朝日くんは、力強く頷くと、雫からの、そして、クラス全員からの想いが込められたボールを、渾身の一撃として、烈火くんへと、叩き込んだ。


その日のクラスマッチは、2年B組の、劇的な逆転勝利で、幕を閉じた。

そして、雫と朝日くんの間には、新しい、そして、より強い「絆」が、確かに、結ばれたのだった。

烈火くんもまた、雫と、そして2年B組の、その「チームワーク」に、初めて、敗北を認め、少しだけ、清々しい表情で、コートを後にする。


天井裏で、三人の保護者たちは、その、最高の青春ドラマに、それぞれの想いを、胸に抱いていた。

レイおば様は、その完璧な「演出」の成功に、満足げに、ガッツポーズをしている。

アリアおば様は、子供たちの、その美しい友情に、涙ぐんでいる。

そして、ゼノンパパは――。


「…ふむ。あのアサヒという小僧、我が娘の『パートナー』として、少しだけ、認めてやらんでも、ない…か…!」

彼は、娘の、そして、彼女が信じる仲間たちの、その素晴らしい成長に、父親として、最高の、誇らしい気持ちで、胸をいっぱいにさせているのだった。



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