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ひとりぼっちの最終防衛線(ラストライン)  作者: 輝夜
その後のエピソード
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宇宙一の卒業旅行


桜のつぼみが、ふっくらと膨らみ始めた、うららかな春の日。

無事に、第一志望の「王立中央高等学院」への合格を果たした雫たちは、中学生活最後の思い出作りに、胸を躍らせていた。


「――というわけで! 題して! 『祝・高校合格! 私たちの友情は永遠だ! 遊び倒しメモリアルウィーク』の、開催を宣言しまーす!」


夏川海の、元気いっぱいな号令が、オアシス・ネオ・トーキョーの、アミューズメントエリアに響き渡った。

集まったのは、雫、海、そして科学部の翔くん、もちろん朝日くんもいる、いつもの仲良し四人組だ。

彼らは、この春休み、カラオケ、ボーリング、映画、そしてファンタジーゾーンの低レベルダンジョン探索まで、やりたいことリストを全部詰め込んだ、怒涛の遊び計画を実行に移していたのだ。


もちろん、その、娘(と、そのボーイフレンド候補)の、青春の総決算とも言うべき、一週間を、あの三人の「神様保護者」が、見逃すはずもなかった。

彼らは、今日もまた、完璧な認識阻害を施し、**「街角の風景画を描いている、やたらと画材のレベルが高い、謎の芸術家三人組」**に扮して、少し離れた場所から、その全てを、愛情深く(そして過保護に)記録していた。


【オペレーション・センター:街角のオープンカフェ(イーゼルを立てて)】


「…ふむ。『カラオケ』か。音波の振動を用いて、感情を表現する、原始的だが、実にエモーショナルな文化活動だな。…しかし、雫の選曲、少しキーが合っていないようだ。…私が、こっそりと、マイクの周波数と、彼女の声帯の振動を、完璧にシンクロさせてやるべきか…」

ゼノンパパは、パレットの上の絵の具を混ぜるふりをしながら、娘を、銀河一の歌姫にするための、壮大な計画を、練り始めている。


「まあ、善さん。音程よりも、楽しむことが、一番ですわ。それよりも、見てくださいまし、あちらの『ボーリング』。あの重い球を投げて、ピンを倒すのですわね。…雫の、あの華奢な腕では、少し、大変そうですわ。わたくしの『慈愛の念動力』で、そっと、ボールの軌道を、ストライクコースへと、導いてさしあげましょうか」

アリアおば様は、すでに、娘を、パーフェクトゲーム達成へと導く準備を、万端に整えていた。


「二人とも、まだるっこしいわねぇ!」

レイおば様が、キャンバスに、大胆なタッチで、なぜか爆発するボーリングのピンを描きながら、呆れたように言った。

「青春の思い出作りと言えば、やっぱり『プリクラ』じゃない! そこで、いかにして、雫と朝日くんを、ツーショットで撮らせるか! そして、最高の『落書き』をさせるか! そのための、完璧な『状況』を、私が、演出してあげるのよ!」

彼女は、もはや、ただの保護者ではなく、最高の思い出をプロデュースするための、敏腕ディレクターと化していた。


【Day 1:カラオケ&ボーリングの奇跡】


カラオケボックスにて:

雫が、少し恥ずかしそうに、流行りのラブソングを歌い始めた、その瞬間。

ゼノンパパの「神のオートチューン」が発動。

彼女の、素朴で可愛らしい歌声は、まるで、銀河の歌姫ローレライのように、人々(主に朝日くん)の心を、鷲掴みにする、奇跡の歌声へと変貌した。

朝日くんは、その歌声に、完全に聴き惚れてしまう。


ボーリング場にて:

雫が、重いボールを、よろよろと、両手で投げた、その瞬間。

アリアおば様の「神のコントロール」が発動。

ありえないほどの、美しいカーブを描いたボールは、全てのピンの、ど真ん中へと、吸い込まれるように、突き進んでいく。

ガシャーン!という、爽快な音と共に、表示される「STRIKE」の文字。

その日、雫は、初心うぶ者にも関わらず、パーフェクトゲームを達成するという、伝説を打ち立てた。


【Day 2:映画館とプリクラの魔法】


映画館にて:

四人が観に来たのは、今、話題の、ファンタジー恋愛大作『君と僕とを繋ぐ、エンシェント・ドラゴン』。

クライマックス、主人公とヒロインが、夕日を背に、キスをする、という、最高のシーン。

雫と朝日くんが、お互いを意識して、ドキドキしている、その瞬間。

レイおば様の「風」が、そっと、二人の座席の間の、ポップコーンの箱を、倒した。

床に散らばるポップコーンを、拾おうとして、二人の手が、偶然、触れ合う。

暗闇の中で、顔を見合わせ、真っ赤になる二人。


プリクラコーナーにて:

映画の興奮も冷めやらぬまま、一行はプリクラへ。

海ちゃんと翔くんが「あ、俺たち、ちょっとトイレ!」と、絶妙なタイミングで、気を利かせて、ブースの外へ。

残されたのは、雫と、朝日くん、二人きり。

気まずい空気が流れる中、レイおば様の「最後のひと押し」が発動。

プリクラ機が、突然「カップルにおすすめ! 超ラブラブポーズを、撮影してね!」という、やかましい音声ガイダンスを、大音量で流し始めたのだ。

二人は、顔を見合わせ、そして、観念したように、ぎこちなく、しかし、最高の笑顔で、ツーショットの写真を、撮った。


その日、撮られた一枚のプリクラ。

それは、彼らの中学時代の、最高の思い出として、そして、二人の恋の物語の、新しい始まりを告げる、大切な宝物となった。


その、あまりにも完璧な、青春の光景を、少し離れた場所から、三人の保護者たちが、それぞれの想いを胸に、見つめていた。

アリアおば様とレイおば様は、その微笑ましい光景に、満足げに、うんうんと頷いている。

そして、ゼノンパパは――。


「……………(ギリギリギリギリ…)」

彼が、スケッチブックに描いていた、美しい風景画の、その太陽の部分だけが、なぜか、全てを焼き尽くす、超新星爆発の絵に、変わっていた。

彼の、父としての、長くて、そして少しだけ、切ない「娘の門出を見守る」という試練は、まだまだ、続きそうである。


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