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ひとりぼっちの最終防衛線(ラストライン)  作者: 輝夜
その後のエピソード
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宇宙一の討伐訓練


じりじりと太陽が照りつける、夏。

雫たちは、夏休みを前に、学校行事の一環として開催される「ファンタジーゾーン初期エリア・安全討伐訓練講習会」に参加していた。

これは、将来、冒険者を目指す生徒や、自衛のための知識を身につけたい生徒を対象とした、ギルド公認の体験学習だ。

もちろん、引率の先生や、ギルドのベテラン教官が常に付き添い、安全性は完璧に確保されている…はずだった。


「いいか、ひよっこども! ファンタジーゾーンを舐めるなよ! たかがゴブリンと侮っていると、痛い目を見るからな!」

ギルドマスターの健太郎が、生徒たちの前で、檄を飛ばしている。

雫は、親友の海ちゃん、翔くん、そして朝日くんと同じ班になり、少しだけ緊張しながらも、訓練用の、軽くて安全な模造剣を握りしめていた。


もちろん、その、娘が、人生で初めて「魔物」と対峙するかもしれない、一大事を、あの三人の「神様保護者」が、見逃すはずもなかった。

彼らは、今日もまた、完璧な認識阻害を施し、「訓練エリアの、ひときわ見晴らしの良い、巨大な岩の上で、優雅にピクニックをしている、謎の美形ファミリー」に扮して、固唾をのんで、その様子を見守っていた。


【オペレーション・センター:ゴブリンの森を見下ろす、絶景の岩の上】


「…ふむ。ゴブリンの動き、精彩を欠いているな。これでは、我が娘の、戦闘における潜在能力を、引き出すための『的』としては、不十分だ。…私が、こっこりと、このゴブリンたちに『闘争本能を1.5倍に高める』神の祝福を、与えてやるべきか…」

ゼノンパパは、腕を組み、娘の「成長」のためなら、魔物のドーピングすら厭わない、スパルタ教育者のような顔つきになっている。


「まあ、善さん、おやめなさい。雫を、危険な目に合わせるわけにはいきませんわ。…それよりも、見てくださいまし。あの子たちの、連携が、少し、ぎこちないようですわね。わたくしの『慈愛のテレパシー』で、そっと、最適なフォーメーションを、彼らの心に、囁いてさしあげましょうか」

アリアおば様は、すでに、完璧なチームワークを演出するための、準備を始めていた。


「二人とも、まだるっこしいわねぇ!」

レイおば様が、岩の上で、なぜかチアリーダーのようなポーズを取りながら、呆れたように言った。

「こういうのはね、理屈じゃないのよ! 『友情・努力・勝利』! これが、ジャンプの三原則なのよ! 私が、雫と朝日くんの間にだけ、こっ-そりと『絆パワーが3倍になる』聖なるオーラを、発生させてあげるわ! そうすれば、どんな敵だって、愛の力で、打ち破れるはずよ!」

彼女は、どこで仕入れてきたのか分からない、地球の少年漫画の知識を、今まさに、実践しようとしていた。


【第一の試練:VS ゴブリン・チャンピオン】


雫たちの班の前に、一体の、ひときわ体の大きなゴブリンが現れた。

ケンジが「よし、あれは、ゴブリン・チャンピオンだ! 訓練には、ちょうどいい相手だ! 班で協力して、倒してみろ!」と、少し離れた場所から指示を出す。


「よし、行くぞ! 俺が前に出る! 海は側面から! 翔は、援護を!」

朝日くんが、リーダーとして、的確な指示を出す。

だが、ゴブリン・チャンピオンは、訓練用の個体とは思えぬほど、強く、そして狡猾だった。

もちろん、それは、ゼノンパパが「これでは、ぬるすぎる!」と、こっそり、そのゴブリンのステータスを、5段階ほど、不正に引き上げた結果である。


「ぐわっ!」

朝日くんの剣が、弾き飛ばされる。海ちゃんの素早い攻撃も、簡単に見切られてしまう。

万事休すか、と思われた、その瞬間。


『――天野さん! 奴の弱点は、左膝の、古い傷だ! そこに、魔力を集中させれば…!』

翔くんの脳内に、どこからともなく、アリアおば様の、極めて的確な、戦術アドバイスが、直接、響き渡った。


「…分かった! 天野さん、朝日くん! 奴の、左膝を狙って!」

翔くんの、閃き(という名のカンニング)による指示。

朝日くんと海ちゃんが、必死に、チャンピオンの注意を引きつける。

そして、その一瞬の隙を突き、雫が、震える手で握りしめた模造剣の先に、ほんのわずかな、しかし、純粋な光の魔力を、集中させた。


【クライマックス:愛と友情の、奇跡の一撃】


雫の、小さな体から、信じられないほどの、温かいオーラが、溢れ出した。

もちろん、それは、レイおば様が「今よ!」とばかりに発動させた「絆パワー3倍オーラ(朝日くん限定・ロックオン機能付き)」である。


「――はあああああっ!」

雫の、渾身の一撃が、ゴブリン・チャンピオンの、左膝に、クリーンヒットした。

その瞬間、ゼノンパパによって強化されたはずのチャンピオンは、なぜか、その巨体を、大げさなくらいに、のけぞらせ、

「ギ…ギエピーーーーーッッ!!!!(訳:参りましたー!)」

と、情けない悲鳴を上げながら、その場に、白目を剥いて、倒れ込んだ。

その倒れ方は、まるで、往年の名優のような、完璧な「やられっぷり」だった。


「「「やったー!!!」」」

班の全員が、手を取り合って、歓声を上げる。

雫は、自分の起こした「奇跡」に、きょとんとしていたが、朝日くんから「すごいじゃないか、雫! さすがだ!」と、頭をわしゃわしゃと撫でられ、顔を真っ赤にするのだった。


遠くで見ていたケンジも、その光景に、目を丸くしていた。

(…なんだ、今の…? あの嬢ちゃんの、あの一撃…。ただの魔力じゃねえ。何か、とんでもねえ『何か』が、乗っかってたような…)


岩の上で、三人の保護者たちは、それぞれの「アシスト」の成功に、満足げに頷いていた。

「ふむ。我が娘の、リーダーとしての片鱗、確かに見たぞ」(ゼノン)

「まあ、素晴らしいチームワークでしたわね」(アリア)

「やっぱり、最後は『愛』よねぇ!」(レイ)


彼女の、普通の、しかし、神々の、過剰な愛情と、壮大な「やらせ」によって支えられた討伐訓練は、こうして、忘れられない「勝利」の思い出と共に、幕を閉じたのだった。

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