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ひとりぼっちの最終防衛線(ラストライン)  作者: 輝夜
その後のエピソード
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宇宙一のお泊まり会


「――というわけで! 明日は、うちで『中間テスト対策・お泊まり勉強会』を開きまーす!」


文化祭も終わり、秋も深まった、ある日の放課後。

夏川海が、教室で、高らかに宣言した。

その声に、雫をはじめ、いつもの仲良し女子グループから「おー!」という、歓声が上がる。

もちろん、その「お勉強会」という名の、本当の目的が、夜通しの恋バナと、お菓子の食べ放題、そして、深夜のホラー映画鑑賞会であることは、言うまでもない。


その、吉報(?)を、もちろん、三人の「神様保護者」が、聞き逃すはずもなかった。

彼らは、今日もまた、完璧な認識阻害を施し、校庭の、大きな銀杏の木の、その枝の上から、娘たちの、キラキラとした青春の一ページを、固唾をのんで、見守っていた。


【オペレーション・センター:ひだまり中学校の校庭(銀杏の木の上)】


「…『お泊まり会』だと…? 我が娘が、私の目の届かぬ場所で、夜を明かすというのか…!? 断じて、許さん! 今すぐ、夏川海という少女の家に、半径10キロに及ぶ、絶対防御結界を展開し、あらゆる脅威(特に、男子生徒の、いかなる形での接近)を、完全に遮断せねば…!」

ゼノンパパは、早くも、過保護と嫉妬のオーラを、バチバチと迸らせている。


「まあ、善さん、落ち着いてくださいまし。女の子同士のお泊まり会、素敵ではございませんか。友情を育むための、大切な儀式ですわ。…あら、でも、夜更かしは、お肌に良くありませんわね。わたくしが、彼女たちの寝室にだけ、安眠と、美肌効果のある『慈愛の月光』を、そっと、注いでさしあげましょうか」

アリアおば様は、すでに、娘たちの、美容と健康のサポートプランを、練り始めている。


「二人とも、分かってないわねぇ!」

レイおば様が、呆れたように、しかし、その瞳は「待ってました!」と、爛々と輝きながら、二人を制した。

「お泊まり会の醍醐味と言えば、何と言っても『深夜の、ドキドキ・ハプニング』じゃない! 私が、こっそり、海ちゃんの家のテレビの電波に干渉して、ホラー映画の、一番怖いシーンで、突然、部屋の電気が消える、っていう、古典的だけど、最高の演出をしてあげるわ! きっと、盛り上がるわよ!」


三者三様の、壮大で、過剰で、そして愛情に満ちた「お節介」が、静かな住宅街の一角で、今まさに、火花を散らそうとしていた。


【夜:夏川家、海ちゃんの部屋】


パジャマ姿の少女たちが、ベッドの上で、クッションを抱きしめながら、キャッキャと、おしゃべりに花を咲かせている。

テーブルの上には、ポテトチップスと、ジュース、そして、なぜか、アリアおば様が「差し入れよ」と、こっそり雫に持たせた、食べると髪がサラサラになるという「星屑のポップコーン」が、山盛りになっている。


「でさー! 朝日くん、絶対、雫のこと、好きだって!」

「そうそう! この前の文化祭の時なんて、目が、完全にハートだったもん!」

友人たちの、容赦ない追及に、雫は、顔を真っ赤にして、クッションに顔をうずめた。

「ち、違うってば…!」


そんな、甘酸っぱい恋バナが、最高潮に達した、深夜0時。

いよいよ、メインイベントの、ホラー映画鑑賞会が始まった。

部屋の明かりが消され、テレビ画面だけが、青白く、少女たちの顔を照らし出す。

画面の中では、血まみれのゾンビが、ゆっくりと、こちらに迫ってくる。

「「「きゃああああああああああっ!!!」」」


少女たちの、悲鳴が、部屋に響き渡った、まさにその瞬間。

――バチンッ!

レイおば様の、完璧なタイミングでの「演出」により、部屋の電気が、テレビもろとも、完全に消えた。

そして、窓の外では、ゼノンパパが「娘を怖がらせる悪霊は、私が浄化する!」と、余計な勘違いで放った、小さな雷が、ピカッ!と光り、ゴロゴロ…と鳴り響く。

さらに、アリアおば様が「まあ、怖いですわね。皆を、癒してさしあげなければ」と、部屋の中に、どこからともなく、聖歌のBGMを、うっすらと流し始めた。


真っ暗闇、突然の雷鳴、そして、どこからともなく聞こえてくる、神々しいコーラス。

その、あまりにも完璧すぎる、心霊現象のフルコースに。

「「「「ぎゃあああああああああああああああああああっ!!!!」」」」

少女たちの悲鳴は、もはや、ホラー映画の比ではなかった。


結局、その夜。

雫たちは、怖さのあまり、全員で、一つのベッドに潜り込み、震えながら、朝を迎えることになったという。

もちろん、そのおかげで、彼女たちの友情の絆は、これまでで一番、強く、固く、結ばれたのだが。


翌朝。

寝不足で、少しだけ目の下にクマを作った雫は、家に帰るなり、リビングで、何食わぬ顔で、しかし、どこか誇らしげな顔で出迎えた三人の保護者に、今日こそは、今日こそは、という顔で、じとーっとした視線を向けた。

「……ねえ、お父さんたち。昨日の夜、海ちゃんの家、なんか、すごかったんだけど…」

「さあ? 知らんな。若い娘たちの、感受性が、豊かなだけではないかな?」(ゼノン)

「まあ、友情が深まって、何よりでしたわね」(アリア)

「へえー、そうなんだー。ホラー映画って、本当に怖いんだねぇ!」(レイ)


その、あまりにも白々しい(そして、絶対に、楽しんでやったと確信できる)三人の態度に、雫は、もう、ため息をつく気力すら、残っていなかった。

彼女の、普通の、しかし、宇宙で一番、賑やかで、そして心霊現象(?)に満ちたお泊まり会は、こうして、忘れられない思い出と共に、幕を閉じたのだった。

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