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ひとりぼっちの最終防衛線(ラストライン)  作者: 輝夜
その後のエピソード

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宇宙一の修学旅行


風に舞う桜が、歴史ある寺社の屋根を彩る。

中学3年生になった雫たちが、修学旅行で訪れたのは、地球統合政府によって、古の文化財が完璧な状態で保存されている、古都「オアシス・キョート」だった。

金閣寺の輝き、清水寺の舞台からの絶景、嵐山の竹林を吹き抜ける風。

生徒たちは、慣れない集団行動に、少しだけはしゃぎながらも、その美しい風景に、目を輝かせている。


雫もまた、親友の海ちゃんや、クラスの友人たちと共に、初めて訪れる古都の散策を、心の底から楽しんでいた。

もちろん、その隣には、いつもと変わらず、少しだけ大人びた朝日くんの姿がある。


「見て、雫! あの五重塔、すごいね!」

「うん。昔の人って、こんなにすごいものを、手で作ってたんだね…」

二人は、班別行動で、同じグループ。地図を片手に、お互いの顔を寄せ合いながら、次の目的地を相談している。その距離の近さに、お互い、少しだけドキドキしている。


その、甘酸っぱい青春の一ページを、もちろん、三人の「神様保護者」が、見逃すはずもなかった。

彼らは、今日もまた、完璧な認識阻害を施し、「京都の風景に、あまりにも馴染まない、超絶ダンディな外国人観光客と、その美しすぎる娘たち(?)」に扮して、生徒たちの行列の、少し後ろを、ウキウキとついてきていた。


【オペレーション・センター:清水寺の参道(お土産物屋の前)】


「ふむ…。この『ヤツハシ』という菓子、実に奥深い。ニッキの風味と、あんこの甘さが、絶妙なハーモニーを奏でている。…雫の、今日の『思い出』として、この店のヤツハシ、全ての在庫を、買い占めておくべきか…」

ゼノンパパは、すっかり観光客気分で、試食の八つ橋を、真剣な顔で吟味している。


「まあ、善さん。それよりも、あちらの『キモノ』をご覧くださいまし。なんて、繊細で、美しいのでしょう。…雫に、着せてさしあげたいですわ。きっと、天女のように、お似合いになるはず…」

アリアおば様は、レンタル着物屋の店先で、色とりどりの着物に、うっとりと目を細めている。


「二人とも、観光気分で浮かれすぎよ! 私たちの、今日の最重要ミッションを、忘れたわけじゃないでしょうね!」

レイおば様が、サングラスの奥から、鋭い視線を、二人(と、その背後でイチャイチャしている雫たち)に向けた。

「今日の夜! 旅館での『枕投げ』と『恋バナ』よ! そこで、雫と朝日くんの関係を、決定的なものへと導くための、最高の『お膳立て』をするの! 分かってる!?」

彼女は、なぜか、日本の修学旅行の「定番イベント」について、異世界の情報網(?)を駆使し、完璧に予習してきていたらしい。


【第一のハプニング:金閣寺と、金のシャチホコ】


金閣寺。

その黄金に輝く姿に、生徒たちから、感嘆のため息が漏れる。

「わー…! 本当に、金色なんだ…!」

雫が、その美しさに見とれていた、その時だった。

池の中から、ざばーん!と、水しぶきを上げて、本物の、巨大な、黄金のシャチホコが、姿を現した。

シャチホコは、口から、キラキラと輝く「幸運の水しぶき」を噴き上げ、生徒たちを祝福するかのように、空へと舞い上がっていく。

もちろん、それは、娘の感動する顔が見たい一心で、ゼノンパパが、金閣寺の概念そのものに干渉し、一時的に「具現化」させた、やりすぎなサービスである。

生徒たちは、パニックになりながらも、その神々しい光景を、必死にスマホのカメラに収めていた。


【第二のハプニング:縁結び神社と、神様の恋占い】


次に訪れたのは、縁結びで有名な「ひだまり神社(支社)」。

雫と朝日くんも、クラスの皆に冷やかされながら、二人で、おみくじを引くことに。

ガラガラと、出てきたおみくじ。

そこに書かれていたのは――。


『相性、宇宙一。未来、永遠に共にあり。…ただし、過保護な父親には、要注意』


あまりにも具体的で、そして最後の部分が、不穏すぎる神託。

もちろん、それは、アリアおば様が、二人の幸せを願うあまり、全てのおみくじの「運命」を、こっそりと、最高のものへと書き換えた結果である。

二人は、顔を真っ赤にしながらも、そのおみくじを、大切に、お互いの生徒手帳にしまった。


【クライマックス:旅館の夜と、枕の宇宙戦争】


そして、夜。

旅館の大部屋では、女子たちによる、枕投げと、恋バナの時間が、始まっていた。

「ねえねえ、雫! やっぱり、朝日くんのこと、好きなんでしょー!」

海ちゃんが、ニヤニヤしながら、枕を片手に詰め寄る。

「ち、違うってば!」

雫が、枕で顔を隠した、その瞬間。


部屋の襖が、スパーン!と、ありえない勢いで吹き飛んだ。

そこに立っていたのは、なぜか、鬼の形相をした、浴衣姿のゼノンパパだった。

「――貴様らか! 我が娘に、夜な夜な、色恋の、不純な話を吹き込んでいるというのは!」

彼の背後には、同じく浴衣姿の、アリアおば様とレイおば様が、「まあまあ、善さん、落ち着いて」「いやー、面白くなってきたじゃない!」と、それぞれ、全く違う反応を見せている。


そう。

レイおば様の「最高の『お膳立て』をする」という計画は、ゼノンパapaの「娘を不純な恋バナから守る」という、父親としての使命感によって、最悪の形で、上書きされてしまったのだ。


「「「きゃああああああああああっ!!!」」」

女子たちの、悲鳴。

そして、それを合図に、なぜか、男子部屋と女子部屋の境界の壁が、ガラガラと崩れ落ち、修学旅行の夜は、神々を巻き込んだ、壮絶で、そして最高にコミカルな「枕投げ(という名の、宇宙戦争)」へと、発展していくのだった。


枕(もちろん、中身は低反発の、安全な素材だ)が、光速で飛び交い、時折、ゼノンパapaの「重力弾枕」や、レイおば様の「竜巻枕」が、炸裂する。

その、カオスな光景の中心で、雫と朝日くんは、ただ、顔を見合わせて、呆れながらも、心の底から、笑い合うしかなかった。


彼女の、普通の、しかし、宇宙で一番、賑やかで、忘れられない修学旅行は、こうして、たくさんの伝説と、先生たちの、大量の始末書と共に、幕を閉じたのだった。


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