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ひとりぼっちの最終防衛線(ラストライン)  作者: 輝夜
その後のエピソード
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宇宙一の遊園地デート


(夏休み)


抜けるような青空に、白く輝くジェットコースターのレールが映える。

夏休み真っ只中の、オアシス・ネオ・トーキョーに新設された、巨大テーマパーク「ファンタジー・ドリームランド」。そこは、地球の技術と、ファンタジーゾーンの魔法が融合した、まさに夢の国だ。


その日、雫は、朝日くんとの、初めての「二人きりのデート」に、朝から、心臓が口から飛び出しそうなほど、ドキドキしていた。

お気に入りの、白いワンピース。少しだけ編み込んだ髪。

鏡の前で、何度も、何度も、自分の姿をチェックする。


「……い、行ってきます!」

リビングで、そわそわと待っていた三人の保護者に、深々と頭を下げ、逃げるように玄関へと向かう。


「…う、うむ! 行ってまいれ、雫! …もし、あのアサヒという小僧が、君に何か、無礼な真似をしたら、即座に、この私に連絡するのだぞ! 1秒以内に、駆けつけて、彼を、小惑星の彼方へと、放り投げてくれるからな!」

ゼノンパパは、腕を組み、父親としての、最大限の威嚇(と、心配)の言葉を、娘の背中に投げかけた。


「まあ、善さん。あまり、脅しては、お可哀想ですわ。…雫、楽しんでいらっしゃいね。もし、ハンカチを忘れても、大丈夫ですわよ? わたくしの『慈愛の涙』は、どんな汚れも、清らかに落としますから」

アリアおば様は、優雅に微笑み、少しだけズレた、母性溢れるアドバイスを送る。


「雫! 楽しんでおいで! あ、でもね、もし、あのお化け屋敷とかで、朝日くんが、どさくさに紛れて、手を握ってきたりしたら…それは、ちゃんと、お姉ちゃんに報告するように! 恋愛相談なら、いつでも乗るんだからね!」

レイおば様は、ニヤニヤと、しかし、その瞳は真剣に、姪の恋の行方を、応援している。


三者三様の、過剰な愛情のこもった「お見送り」を受け、雫は、顔を真っ赤にしながらも、駆け足で、待ち合わせ場所へと向かうのだった。


【ファンタジー・ドリームランド:待ち合わせ場所】


「ご、ごめん! お待たせ、朝日くん!」

「ううん、俺も、今来たとこだから。…わ、雫。その服…すごく、似合ってる」

朝日くんの、ストレートな褒め言葉に、雫の心臓が、また、大きく跳ねる。

二人の、ドキドキのデートが、始まった。


もちろん、その、初々しい二人を、三人の「神様保護者」が、ただ家で、指をくわえて待っているはずもなかった。

彼らは、今日もまた、完璧な認識阻害を施し、少し離れた場所から、娘(姪)の、人生初のデートを、固唾をのんで、ストーキング…いや、**「守護」**していた。


【第一のアトラクション:絶叫ジェットコースター『ドラゴンスカイ・ダイブ』】


ファンタジーゾーンの本物のワイバーン(もちろん、安全訓練を受けた、おとなしい個体だ)の背中に乗って、大空を駆け巡る、このパークで一番人気のジェットコースター。

「きゃあああああああああっ!!」

雫の、楽しげな悲鳴が、青空に響き渡る。

隣では、朝日くんが、少しだけ顔を引きつらせながらも、必死に、彼女の手を握りしめている。


その、遥か上空を、三人の神々が、並んで、浮遊していた。

「…ふむ。なかなか、スリリングな乗り物だな。だが、我が娘の安全を考えると、このワイバーンの飛行ルート、もう少し、G(重力加速度)が、緩やかになるように、調整すべきでは…」

ゼノンパパが、真剣な顔で、コースの安全基準について、考察を始めている。


「まあ、善さん。見てくださいまし。雫の、あの楽しそうな笑顔。きっと、朝日くんが、そばにいてくれるから、安心しているのですわ」

アリアおば様は、うっとりと、その光景を見つめている。


「…いや、違うわね、アリアちゃん!」

レイおば様が、専門家のような顔で、解説を始めた。

「あれはね、心理学で言うところの『吊り橋効果』よ! ドキドキを、恋のときめきと錯覚させる、高等テクニック! …よし、あそこの急降下ポイントで、私が、もうひと押し、『無重力空間』を、一瞬だけ、創り出してあげようかしら!」

「「待て、レイ!」」

ゼノンとアリアの、必死の制止が、空に響いた。


【第二のアトラクション:恐怖のお化け屋敷『怨霊の古城』】


次に二人が入ったのは、真っ暗な、不気味なお化け屋敷。

雫は、少しだけ怖がりながらも、朝日くんの腕に、ぎゅっと、しがみついている。

その、あまりにも理想的な展開に、壁の中から、その様子を「霊体化」して見守っていたレイおば様が、満足げに、ガッツポーズをした。


お化け役の、リアルなゾンビ(もちろん、特殊メイクをした役者さんだ)が、うめき声を上げながら、二人に近づいてくる。

雫が「きゃっ!」と、小さな悲鳴を上げた、その瞬間。

「――下がりなさい、不浄なる者よ」

どこからともなく、荘厳で、神々しい、アリアおば様の声が、お化け屋敷全体に、響き渡った。

その声に含まれた、あまりにも純粋な「聖なる波動」に、お化け役のゾンビが「ひぃっ!」と、素の悲鳴を上げ、その場に、へたり込んでしまった。

「…あれ? お化けさん、大丈夫…?」

雫が、不思議そうに、首を傾げる。


【クライマックス:夜のパレードと、観覧車】


日が暮れ、パークが、何百万ものイルミネーションで彩られる頃。

二人は、パレードの光の中、最後の乗り物、大観覧車へと、乗り込んだ。

ゴンドラが、ゆっくりと、夜空へと昇っていく。

眼下には、宝石を散りばめたような、美しい夜景が広がっていた。


「…きれい…」

「…ああ」

二人だけの、静かで、ロマンチックな空間。

朝日くんが、意を決して、雫の方へと、向き直った。

「…あのさ、雫」

「…うん」

彼の顔が、ゆっくりと、近づいてくる。


その、最高の瞬間を、隣のゴンドラから(もちろん、認識阻害で、ただの空のゴンドラに見えている)、三人の神々が、息をのんで、見守っていた。


「「「…………(ゴクリ)」」」


だが、その時だった。

ゼノンパパの、娘を想うあまりの、過剰な「心配」の念が、ついに、暴走した。

彼が、無意識のうちに放った、あまりにも強大な「守護のオーラ」が、二人が乗るゴンドラの、制御システムに、微細なエラーを、発生させてしまったのだ。


ガコンッ!

ゴンドラが、頂上付近で、大きく揺れ、そして、ぴたり、と、停止してしまった。

「えっ!?」「うわっ!」

突然のことに、二人は、バランスを崩し、いい雰囲気も何もかも、吹き飛んでしまう。


「あ…ああ…! わ、私が…! 私が、二人の、最高の瞬間を…!」

隣のゴンドラで、ゼノンパパが、頭を抱え、この世の終わりのような顔で、絶望に打ちひしがれていた。

アリアとレイは、そんな、あまりにも不器用で、ポンコツな「父親」の姿に、深いため息をつくしかなかった。


結局、その日、二人の間に、キスシーンが訪れることはなかった。

だが、頂上で、30分間も、二人きりで閉じ込められたゴンドラの中で、彼らは、これまでで一番、たくさんの、そして、他愛のない話をして、心の距離を、また、一歩だけ、縮めることができたという。

雫の、普通の、しかし、宇宙一、ハプニングに満ちたデートは、こうして、忘れられない思い出と共に、幕を閉じたのだった。


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