表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ひとりぼっちの最終防衛線(ラストライン)  作者: 輝夜
その後のエピソード
177/197

宇宙一の中学校入学


(4月:新しい世界の扉)


満開の桜が、別れの花びらを散らし終え、今度は、新しい出会いを祝福するかのように、若葉の緑を輝かせている。

市立ひだまり中学校の、真新しい校門の前。

少しだけぶかぶかな、セーラー服に身を包んだ天野雫は、期待と、それからほんの少しの不安で、胸をいっぱいにしながら、その門をくぐった。


「すごい…! 小学校より、ずっと大きい…!」

校舎も、グラウンドも、何もかもが、小学校とは比べ物にならないほど、広くて、大人びて見える。

すれ違う先輩たちの姿も、どこか、輝いて見えた。


「――雫!」

少しだけ、低くなった、聞き覚えのある声。

振り返ると、そこには、同じく、真新しい学ランに、少しだけ着られている感のある、朝日くんが、照れくさそうに立っていた。

「お、おはよう、朝日くん。…その制服、似合ってるね」

「…雫こそ。…すごく、可愛い」

「え…」

不意打ちの、ストレートな褒め言葉に、雫の顔が、カッと赤くなる。

二人の間に、甘酸っぱくも、どこか懐かしい空気が流れた。


その、初々しい二人を、もちろん、三人の「神様保護者」が、見逃すはずもなかった。

彼らは、今日もまた、完璧な認識阻害を施し、校門の、巨大な桜の木の、その一番高い枝の上から、固唾をのんで、その様子を見守っていた。


【オペレーション・センター:ひだまり中学校の桜の木の上】


「ふむ…。中学校の制服というのも、なかなか、どうして、良いものだな。我が娘の、その純真無垢な魅力を、最大限に引き出している。…しかし、あの朝日という小僧め。入学初日から、我が娘に、あのような、甘い言葉を囁くとは…。やはり、常に、厳重な監視下に置く必要があるな…」

ゼノンパパは、腕を組み、早くも、未来の「娘婿候補(?)」に対して、厳しい評価を下している。


「まあ、善さん。可愛らしいではございませんか。青春ですわ。それよりも、見てくださいまし。あちらに、とても、興味深い魂の輝きを持つ、お子さんたちが、いらっしゃいますわよ?」

アリアおば様の、慈愛に満ちた視線は、雫たちだけでなく、これから彼女の学友となるであろう、新しい顔ぶれへと向けられていた。


「へえー。どの子どの子? なになに…あの子、なんか、妙に運動神経が良さそうじゃない? それから、あっちの子は、すごい本の虫みたいね。将来、有望な魔法使いになるかも!」

レイおば様もまた、魂体(精霊モード)のまま、木の枝から、身を乗り出すようにして、新しい「キャラクター」たちの品定めを、楽しんでいた。


【1-B教室:新しい出会い】


雫と朝日くんは、運良く、同じクラスになることができた。

教室の中は、まだ、互いに様子を窺うような、緊張した空気と、小さなひそひそ話で満ちている。

雫が、自分の席を見つけて座ると、隣の席の女の子が、にこりと、人懐っこい笑顔を向けてきた。


「ねえ、あなた、天野雫さんでしょ? 小学校の時の、あの『伝説の学芸会』、私、見に行ったんだよ! すごかったー!」

太陽のように明るい笑顔で、そう話しかけてきたのは、短いショートカットがよく似合う、活発そうな女の子、夏川なつかわ うみだった。


「え、あ、うん…。ありがとう」

突然のことに、雫は、少しだけ戸惑いながらも、答えた。

「私、夏川海! 運動大好きで、将来は、ファンタジーゾーンの、最前線で戦う冒険者になるのが夢なんだ! よろしくね、雫!」

海は、ぐっと、親指を立てて見せる。その、裏表のない、真っ直ぐな明るさに、雫も、自然と、笑みがこぼれた。


「…あの…」

今度は、前の席から、小さな声がした。

振り返ると、そこには、大きな丸眼鏡をかけた、少し気弱そうな、しかし、その瞳の奥に、強い探求心の光を宿した男の子が、分厚い本を抱えながら、こちらを見ていた。

「…天野さん、ですよね? 僕、冬月ふゆつき かけるって言います。…あの、学芸会の時の、あなたの『魔法』…あれは、一体、どういう原理で…? もし、古代文明の、失われたエーテル物理学に関連する現象なのであれば、ぜひ、僕に、その一端を、ご教授願えないでしょうか…!」

彼は、早口で、しかし、熱に浮かされたように、そう語った。どうやら、彼は、あの学芸会の「奇跡」を、エンターテイメントではなく、純粋な「科学(魔術)的現象」として捉えている、天才肌の少年らしい。


活発で、明るい、海ちゃん。

知的で、少し変わっている、翔くん。

そして、優しくて、頼りになる、朝日くん。


雫の、新しい中学校生活は、個性豊かで、素敵な仲間たちとの出会いと共に、幕を開けた。

彼女の「ひとりぼっち」だった世界は、もう、どこにもない。

たくさんの、温かい「ひだまり」に囲まれて、彼女の、新しい物語が、今、色鮮やかに、紡がれていこうとしていた。

その、かけがえのない、青春の一ページ一ページを、三人の、宇宙一、過保護な神々が、今日もまた、ハラハラドキドキしながら、見守っている。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ