表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ひとりぼっちの最終防衛線(ラストライン)  作者: 輝夜
その後のエピソード
176/197

宇宙一の小学校卒業式


(3月:旅立ちの季節)


春の光が、体育館の窓から、キラキラと差し込んでいる。

市立ひだまり小学校の、卒業式。

厳かで、しかし、どこか温かい空気が、会場全体を包み込んでいた。

壇上では、校長先生が、卒業生たちへのはなむけの言葉を、少しだけ涙声で、語りかけている。


卒業生席の一番前の列。

天野雫は、少しだけサイズの大きい、真新しい中学校の制服に身を包み、背筋をぴんと伸ばして、その言葉に耳を傾けていた。

隣には、同じく、少しだけ緊張した面持ちの、朝日くんがいる。


(…もう、卒業なんだな…)


雫の脳裏に、この小学校で過ごした、たくさんの思い出が、まるで走馬灯のように、駆け巡る。

初めて、朝日くんと、この校庭で出会った日。

二人で、ドキドキしながら挑んだ、天下一冒-険者大会(という名の、学園祭)。

運動会で、みんなの応援を背に、必死でゴールテープを切った、あの瞬間。

林間学校の、キャンプファイヤーの炎。

そして、何でもない、ただの日常。教室での、他愛ないおしゃべり。帰り道の、夕焼け。


その全てが、キラキラと輝いて、胸の奥を、ぎゅっと締め付ける。

嬉しい。でも、少しだけ、寂しい。

そんな、甘酸っぱい気持ちで、胸がいっぱいだった。


保護者席の、一番後ろの隅。

今日もまた、三人の「神様保護者」が、その光景を、固唾をのんで、見守っていた。

だが、今日の彼らは、いつもとは、少しだけ、様子が違った。


ゼノンパパは、その手にした、超高性能ビデオカメラのファインダーを、何度も、何度も、ハンカチで拭っている。その瞳は、誇らしさと、そして、娘が自分の手から巣立っていくことへの、どうしようもない寂しさで、潤んでいた。

「…むぅ…。あんなに、小さかった雫が…。もう、こんなに、立派になって…。…いかん。レンズが、歪んで見える…」


アリアおば様は、その美しい瞳から、大粒の涙を、ぽろぽろと、こぼしていた。

「…まあ、なんて、感動的なのでしょう…。子供たちの、その輝かしい未来への門出…。わたくしの『慈愛』の心が、共鳴して、止まりませんわ…うぅっ…」


そして、いつもは元気いっぱいのレイおば様も、今日ばかりは、魂体のまま、静かに、そして、どこか寂しげに、その光景を見つめていた。

「……行っちゃうんだねぇ、二人とも。…まあ、めでたいことなんだけどさ。…なんだか、お姉ちゃんとしては、ちょっとだけ、寂しいわねぇ…」


三人の神々は、今日だけは、いつものような「お節介」は、一切しなかった。

ただ、静かに、そして、心からの愛情を込めて、子供たちの、その晴れやかな門出を、見守ることに、徹していた。

それは、彼らが、雫の「成長」を、本当の意味で、認め、そして信頼した、証でもあった。


「――卒業生、退場」


式が終わり、卒業生たちが、在校生たちの拍手と、歌声に送られて、体育館を後にしていく。

雫と朝日くんも、二人並んで、その列の中を歩いていた。


体育館を出て、満開の桜が咲き誇る、校門へと続く道。

「…終わっちゃったね、小学校」

雫が、ぽつりと呟いた。

「…ああ。でも、終わりじゃない。始まりだ」

朝日くんが、力強く、そして、少しだけ照れながら、答えた。


「俺たち、中学生になっても、ずっと、一緒だからな」

彼は、そう言うと、卒業証書の筒を握りしめていない方の手で、雫の、その小さな手を、ぎゅっと、力強く握った。

「…うん!」

雫は、満面の、そして、最高の笑顔で、頷いた。


その、あまりにも眩しく、そして希望に満ちた二人の姿。

それを、物陰から、涙でぐしゃぐしゃになった顔で、見守る、三人の保護者たち。


「うぅぅ…! 我が娘が…! あんな、男の子と、手を…! …しかし、あの笑顔…! あんなに、幸せそうな顔をするなんて…! …許す! 今日だけは、特別に、許してやろう…!」

ゼノンパパは、父親としての嫉妬と、娘の幸せを願う気持ちの間で、感情がぐちゃぐちゃになっていた。


雫の、人生における、一つの、大きな、大きな節目。

その門出は、宇宙一、過保護で、そして、宇宙一、愛情深い「家族」に見守られながら、最高の形で、祝福されるのだった。

彼女の、新しい「物語」は、今、まさに、始まろうとしていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ