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ひとりぼっちの最終防衛線(ラストライン)  作者: 輝夜
その後のエピソード
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宇宙一の文化祭(ひだまり祭)


市立ひだまり小学校は、年に一度の大学園祭「ひだまり祭」の準備で、子供たちの熱気に包まれていた。各クラスが、展示や出し物の準備に、目を輝かせながら取り組んでいる。

4年2組の出し物は、クラス全員で作り上げる「未来のオアシス・ネオ・トーキョー」の巨大ジオラマと、保護者も参加する「手作りお菓子カフェ」に決まった。


雫は、その絵の才能を買われ、ジオラマの「コンセプトアート」と、カフェの「メニューデザイン」という、重要な役割を任されることになった。

一方、朝日くんは、クラスの実行委員長として、皆をまとめ上げる大役を担っている。


もちろん、この、子供たちの創造性と食欲が爆発する一大イベントに、あの三人の「神様保護者」が、黙って見ているはずもなかった。


【オペレーション・センター:天野家のリビング(夜な夜な開かれる、秘密の作戦会議)】


「ふむ…。『未来都市』のジオラマ、か。実に、素晴らしいテーマだ。だが、子供たちの想像力だけでは、真の『未来』を描き切るには、限界があるだろう。…私が、こっそりと、雫のスケッチブックに、500年後の、銀河標準都市の『設計思想』に関するヒントを、サブリミナル的に描き加えておいてやろうか…」

ゼノンパパは、腕を組み、娘のクリエイティビティを、宇宙規模で「支援」しようと、壮大な計画を練り始めている。


「まあ、善さん。それも素敵ですけれど、やはり、お祭りの華は『食』ですわ。『手作りお菓子カフェ』、わたくしたちも、腕によりをかけて、協力してさしあげなければ。…GG銀河の王室でしか食せないという、あの『星屑のトリュフ』のレシピ、少しだけ、アレンジして、提供いたしましょうか」

アリアおば様は、すでに、伝説級のスイーツで、小学生のカフェのレベルを、根底から覆す準備を始めていた。


「二人とも、分かってないわねぇ!」

レイおば様が、呆れたように、しかし、その瞳は爛々と輝きながら、二人を制した。

「文化祭の醍醐味っていうのは、『トラブル』よ! ちょっとしたハプニングがあって、それをクラス全員で、力を合わせて乗り越えるからこそ、最高の思い出になるんじゃない! 私が、当日の朝、カフェのオーブンの温度設定を、ほんの少しだけ、狂わせておいてあげるわ! そして、それを、朝日くんと雫が、協力して解決するの! 完璧なシナリオじゃない!」

彼女は、もはや、ただの保護者ではなく、最高の物語を演出するための「脚本家」と化していた。


【ひだまり祭、当日】


そして、ひだまり祭、当日。

4年2組の教室は、二つの奇跡で、来場者を驚愕させることになる。


一つは、展示された「未来のオアシス・ネオ・トーキョー」の巨大ジオラマ。

それは、もはや小学生の工作のレベルを、完全に超越していた。

空には、アークラインが立体的に走り、ビル群は、未知の、しかし美しい曲線を描いてそびえ立つ。公園には、見たこともない植物が植えられ、川には、虹色に輝く水が流れている。

その、あまりにも緻密で、そして未来的なデザインは、視察に訪れた本物の都市設計家たちを「…我々の、100年先を行っている…」と、唸らせ、頭を抱えさせるほどだった。

もちろん、そのデザインの大部分が、雫が「夢の中で、誰かに教えてもらった気がする」という、ゼノンパパのサブリミナル教育の賜物である。


そして、もう一つの奇跡、「手作りお菓子カフェ」。

レイおば様の「粋な計らい」によって、当日の朝、オーブンが謎の不調を起こし、生地がうまく焼けない、というトラブルが発生。

クラス中がパニックになる中、朝日くんが冷静に皆をまとめ、雫が、その天才的なひらめき(これも、アリアおば様の、ささやかなテレパシー支援によるものだ)で、「焼かないで作れる、冷たいお菓子」のレシピを提案。

クラス全員で、力を合わせ、危機を乗り越え、カフェは、なんとか開店にこぎつけた。

そして、そこで提供された「星屑のトリュフ(アリア風アレンジ)」や「慈愛のフルーツポンチ(アリアの祝福入り)」は、そのあまりにも神がかった美味しさで、食べた人々を、次々と幸福のあまり気絶させる、という、前代未聞の事態を引き起こした。


文化祭が終わる頃には、4年2G組は「伝説のクラス」として、学校中の尊敬と、少しの畏怖を、一身に集めることになった。

そして、トラブルを共に乗り越えたことで、雫と朝日くんの間の絆は、また一つ、強く、そして確かなものとなったのである。


家に帰った雫は、リビングで、満足げに、しかし何食わぬ顔で出迎えた三人の保護者に、少しだけ、じとーっとした視線を向けた。

「…ねえ、お父さんたち。今日の文化祭、なんだか、色々、すごかったんだけど…何か、知らない?」

「さあ? 知らんな。全ては、君たちの、若さと、情熱が起こした『奇跡』だろう」(ゼノン)

「まあ、素晴らしい文化祭でしたわね。わたくしも、感動いたしました」(アリア)

「へえー、そうなんだー。トラブルもあったみたいだけど、みんなで乗り越えるなんて、最高の青春ね!」(レイ)


その、あまりにも白々しい(そして、絶対に何かやったと確信できる)三人の態度に、雫は、またしても、深いため息をつくしかなかった。

彼女の、普通の、しかし、宇宙一、賑やかで、愛情深い文化祭は、こうして、たくさんの伝説と共に、幕を閉じたのだった。


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