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ひとりぼっちの最終防衛線(ラストライン)  作者: 輝夜
その後のエピソード
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宇宙一の学芸会


秋も深まり、市立ひだまり小学校は、年に一度の「ひだまり祭(学芸会)」の準備で、活気に満ち溢れていた。


4年2組の演目は、古典的な童話『シンデレラ』。

配役決めの結果、天野雫は、その物静かで、少しミステリアスな雰囲気が「役にぴったりだ」という、クラスの女子たちの、半ば強引な推薦により、なんと、物語の鍵を握る「魔法使い」の役に、大抜擢されてしまった。


そして、王子様役は、もちろん、クラスで一番人気の、朝日くんだ。

「わ、私が、魔法使い…? 無理だよ、そんな、目立つ役…」

雫は、頭を抱えた。人前に出るのは、あまり得意ではない。

その、娘の一大事を、もちろん、三人の「神様保護者」が見過ごすはずもなかった。

彼らは、雫の学芸会を「宇宙の歴史に残る、最高の舞台にする」という、壮大な(そして迷惑な)目標を掲げ、秘密裏に「ひだまり祭・総合プロデュースチーム」を結成した。


【衣装・小道具担当:アリアおば様】


「まあ、雫が魔法使いですって? それならば、衣装も、本物の『魔法』がかかっていなければ、失礼にあたりますわ」

アリアおば様は、その日から、夜な夜な、雫の衣装作りに没頭した。


彼女が、ギャラクシー・ギルドニア銀河の「星の絹」を紡ぎ、ドラゴニア・クロニクルの「妖精の涙」で染め上げたドレスは、ただ美しいだけではない。着た者の魅力を最大限に引き出し、観客に、微かな「幸福感」を与えるという、強力なチャーム効果まで付与されていた。


そして、魔法の杖。これも、世界樹の、ほんの小さな枝を削り出し、杖の先端には、サンクチュアリ・ゼロのエネルギーを、ほんの僅かに凝縮した、小さな宝石がはめ込まれている。


【舞台装置・大道具担当:ゼノンパパ】


「ふむ。『カボチャの馬車』か。ただの張りぼてでは、我が娘の魔法の偉大さを、表現するには、力不足だ」

ゼノンパパは、舞台の大道具担当を買って出た。

彼が、分子構造を再構築して作り上げた「カボチャ」は、雫が魔法の杖を振ると、本当に、光り輝く「馬車」へと変形する、という、とんでもないギミックが仕込まれていた。


もちろん、その変形プロセスは、地球のいかなる科学技術でも説明不可能な、オーバーテクノロジーの塊である。


【演出・特殊効果担当:レイおば様】


「魔法使いが登場するなら、やっぱり、派手な登場シーンがなくっちゃね!」

レイおば様は、演出担当として、その能力を、遺憾なく発揮した。


雫が「現れよ!」と杖を振るうと、舞台上に、本物の霧が立ち込め、その中から、スポットライトに照らされて、彼女が登場する。

そして、魔法を唱えるたびに、舞台袖から、レイおば様が操る、無数の、キラキラと輝く光の精霊たちが舞い踊り、その場の雰囲気を、最高にファンタジックに盛り上げるのだ。


【学芸会、当日】


そして、運命の学芸会、当日。

4年2組の『シンデレラ』は、始まった。

物語は、順調に進む。いじわるな姉たち、健気なシンデレラ。そして、王子様役の朝日くんの、少し照れた、しかし凛々しい演技に、客席の保護者たち(特に女子生徒の母親たち)は、うっとりとしていた。

そして、ついに、魔法使いの登場シーン。

雫が、緊張しながらも、舞台の袖から、一歩、足を踏み出した。

「さあ、シンデレラ。舞踏会へ、お行きなさい」

その、か細い、しかし、芯のあるセリフと共に、彼女が、アリア特製の杖を、ふわり、と振った、その瞬間。


神々の、過剰な愛情が、大爆発した。


まず、レイおば様の「特殊効果」が発動。舞台上に、幻想的な霧が、もくもくと立ち込め、同時に、天井から、何百という光の精霊たちが、キラキラと舞い降りてくる。

客席から「おお…!」という、どよめきが起こる。

次に、雫が「ご覧なさい! カボチャの馬車よ!」と叫ぶと、舞台の隅に置かれていた、ただの張りぼてのはずのカボチャが、ギゴガゴゴ…!と、SF映画のような効果音と共に、光り輝く、クリスタルの馬車へと、本当に、変形した。

客席は、もはや、どよめきを通り越して、静まり返っている。


そして、最後に、アリアおば様の「衣装」の魔法。

スポットライトを浴びた雫のドレスが、内側から、後光が差すかのように、七色の、神々しい光を放ち始めたのだ。その光は、あまりにも神聖で、あまりにも美しく、観客たちは、思わず、その場で、ひれ伏しそうになるほどの、謎の感動に包まれた。


「……………」


王子様役の朝日くんは、目の前で起きている、あまりにも規格外な「魔法」の数々に、完全に、セリフを忘れて、立ち尽くしている。

舞台監督の先生は、腰を抜かし、音響係の生徒は、泣きながら、どこからともなく聞こえてくる、荘厳なBGM(もちろん、ゼノンが流している)に合わせて、必死に機材を操作していた。


雫は、その、あまりにもやりすぎな「演出」に、顔を真っ赤にしながらも、もはや、ヤケクソで、最後のセリフを叫んだ。

「さあ、これで、あなたも、お城の舞踏会へ行けるわ!」

その一言で、我に返った観客たちから、これまで、この小学校の歴史上、誰も聞いたことのないような、割れんばかりの、スタンディングオベーションが、巻き起こった。


その日の学芸会は、「伝説の学芸会」として、ひだまり小学校の歴史に、永遠に語り継がれることになったという。

そして、雫は、「伝説の魔法使い」として、しばらくの間、クラスメイトたちから、遠巻きに、そして畏敬の念のこもった目で見つめられることになるのだった。


本人は、ただただ、恥ずかしさで、家に帰ってから、三人の保護者たちに、一週間、口をきいてあげなかった、ということである。


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