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ひとりぼっちの最終防衛線(ラストライン)  作者: 輝夜
最終章:神様、お仕事やめるってよ
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第三話(エピローグ):新しいひだまりと、過保護な神々


悠久の時が流れ、光の揺りかごの中で、温かい愛情に育まれた「魂のタマゴ」から、一人の、元気な赤子が生まれた。

ゼノンは、その小さな命を、震える手で、しかし、これ以上ないほどの優しさで、抱き上げた。

そして、人間の姿(どこからどう見ても、知的で、優しげで、そして娘にだけは滅法甘そうな、超絶ダンディなイケオジだ)となって、100年の時を経て、新たな文化と文明が花開いた、懐かしい星、地球へと降り立った。


彼は、この子に、新しい名前を授けた。

天野あまの しずく

天から舞い降りた、恵みの一滴。


【数年後:地球、オアシス・ネオ・トーキョー、天野家】


「雫ー! 朝ごはん、できたぞー!」

キッチンから聞こえるのは、ゼノンパパ――天野 ぜんの、少しだけ不器用な、しかし愛情のこもった声だ。

「はーい、今行くー!」

階段を、タタタッ、と元気よく駆け下りてきたのは、幼稚園の制服に身を包んだ、天野雫。


しかし、今日の食卓は、いつもと少しだけ、様子が違った。


「おはよう、雫。今日のパンケーキ、お父様がまた少し焦がしてしまったから、わたくしが『慈愛のヒーリング』で、完璧に再生しておきましたわ。さ、アーンしてさしあげます」

雫の隣には、なぜか、優雅なエプロン姿の、銀髪の絶世の美女――アリアが、にこやかに座っている。彼女は、雫の「叔母」ということになっている。


「あらアリアちゃん、善さんをあまり甘やかさないの。雫、こっちの『大精霊の祝福ブレッシングサラダ』も食べなさい。栄養バランスが偏るわよ」

反対側の席には、活発で、しかしどこか面倒見の良い、黒髪の美女――レイお姉さんも、なぜか当然のように座っている。彼女は、雫の、もう一人の「叔母」ということになっている。


そう。

新米パパ・ゼノンは、育児という、宇宙の法則以上に難解なミッションに、早々に音を上げてしまったのだ。

ある日、神域の定例会談で、彼が「…すまない。私には、母親の役割までは、どうにも……」と、珍しく弱音を吐いたのが、運の尽きだった。


『なんですって!?』

『そうよね。お姉さま(朔)を、ゼノン一人で育てるなんて、無理に決まってるじゃない!』

アリアとレイは、即座に、そして猛烈な勢いで、地球への「長期出張」を決定。

ゼノンパパの奮闘を見守るという名目で、天野家に、半ば強引に「同居」を始めてしまったのである。

ルナ・サクヤ(宇宙の法則そのもの)は、その様子を「あらあら、まあ、楽しそうだからいいか」と、温かく(そして面白がって)見守っている。


「アリアおば様、レイおば様、おはよう! それに、お父さん、また焦がしたの?」

「むっ…! これは、フランス料理で言うところの、絶妙な『ビヤンキュイ』というもので…」

「はいはい、分かったから。でも、ありがとう、おば様たち! いただきまーす!」


食卓を囲む、一人の不器用な父親と、二人の過保護すぎる叔母、そして、その愛情を一身に受けて育った、一人の女の子。

その、奇妙で、しかし最高に賑やかで、温かい日常。


雫は、パンケーキを頬張りながら、ふと、窓の外の青空を見上げた。

なぜか、分からない。でも、時々、ただ空を見上げているだけで、胸の奥が、じんわりと、温かくなるのだ。

まるで、この世界そのものが、自分を優しく抱きしめていてくれているような、そんな、不思議で、心地よい感覚に包まれることがあった。


(…うん。私、今、すっごく、幸せだよ)


彼女は、誰にともなく、心の中で、そっと、そう呟いた。


【小学校の入学式】


季節は巡り、雫は、小学校の門をくぐった。

その入学式には、もちろん、三人の「保護者」が、ビデオカメラ(もちろん、システム製の超高性能なやつだ)を手に、駆けつけていた。

「おお…! 我が娘が、こんなに立派に…!」(ゼノンパパ)

「雫、綺麗ですわ…! まるで、銀河に咲く一輪の花のよう…!」(アリアおば様)

「よーし、雫! もし、変な男がちょっかい出してきたら、このお姉ちゃんが、聖剣ビームで…!」(レイおば様)

その、明らかに浮いている、しかし愛情に満ちた応援団に、雫は、少しだけ、恥ずかしそうに、でも嬉しそうに、手を振った。


そして、桜並木の下で、彼女は、一人の少年と、運命的な再会を果たす。

「俺、朝日あさひ。よろしくな」

「…私、天野雫。よろしくね、朝日くん」


その光景を、物陰から、三人の保護者たちが、鋭い(そして心配そうな)眼差しで、見つめていた。

「「「(…あの少年…一体、何者だ…!?)」」」

朝日くんの、これからの受難は、想像に難くない。


ひとりぼっちだった少女は、全てを成し遂げ、全てを手放し、そして、本当に欲しかった、何でもない、しかし、かけがえのない「普通の日常」と「新しい始まり」、そして、最高に賑やかで、過保護な「家族」を手に入れた。




(ひとりぼっちの最終防衛線 了)



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