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ひとりぼっちの最終防衛線(ラストライン)  作者: 輝夜
幕間Ⅰ:星霜のアルバム
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幕間Ⅲ:星霜のアルバム ~50年後、そして100年後の、伝説の果てに~


ルナ・サクヤの神域に流れる、永遠とも思える時間の中で、メインコンソールが映し出すアルバムのページは、さらにゆっくりと、そして愛おしむように、めくられていく。



【50年後:円熟の輝きと、伝説の黄昏】


地球: 銀河交渉官として、数々の星間問題を解決に導いたアサヒは、今や、地球統合政府の、誰もが認める重鎮となっていた。彼の隣には、いつも、穏やかな笑みを浮かべるさくがいる。彼女の描く絵本は、今や地球だけでなく、アークラインを通じて、多くの星々の子供たちに愛され、心の故郷となっていた。二人の間には、たくさんの孫たちが生まれ、その賑やかな声が、かつて「ひとりぼっち」だった少女の夢を満たしていく。

小野寺拓海と陽気ひかりは、緑豊かな庭付きの家で、穏やかな引退生活を送っていた。時折、縁側で、ひ孫たちに、昔話をせがまれる。

「ねえ、おじいちゃん! あの、空飛ぶドラゴンを、素手で捕まえたっていう、伝説の『ドンさん』の話、して!」

「はっはっは。あれは、わしらの若い頃の、ちょっとした『お祭り』での出来事でのう…」

小野寺は、遠い目をして、かつての「神様とのドタバタな日々」を、懐かしそうに、そして少しだけ誇らしげに、語り聞かせるのだった。


ドラゴニア・クロニクル: 伝説の冒険者パーティー『月影の爪』は、その役目を、若い世代へと譲っていた。

リズは、ギルドの総帥として、その卓越した情報網と交渉術で、大陸の平和を守っている。

ミラは、大賢者として、王立魔術学院の学院長となり、多くの後進を育て上げていた。

そして、フィリアは――。

彼女は、故郷の村で、たくさんの孫やひ孫に囲まれ、いつも笑顔の絶えない、優しいおばあちゃんとなっていた。時折、子供たちに、昔の冒険譚をせがまれると、彼女は、いつも、空を見上げて、こう言うのだった。

「私の、一番の自慢はね。昔、私の頭の上に、いつも乗っかってた、小さくて、ドジで、でも、とっても優しい『妖精』さんがいたことなのよ」

その言葉を聞くたび、この大陸を見守る大精霊レイは、誰にも見えない場所で、少しだけ顔を赤らめ、そして、幸せそうに微笑むのだった。



【そして、100年の時が過ぎて…:それぞれの永遠】


ルナ・サクヤは、その全ての「物語」を、神として、永遠の時間の中で、ただ、静かに、見守り続けてきた。

メインコンソールに映し出される、仲間たちの、幸せに満ちた、しかし、有限の人生の、最後の輝き。

彼女は、その光が、一つ、また一つと、穏やかに消えていくのを、祝福と、そして、計り知れないほどの「寂しさ」と共に、その目に焼き付けた。


さくとアサヒくんは、たくさんの家族に見守られながら、手を取り合ったまま、同じ日に、穏やかに眠りについた。その最期の顔は、満足げな、幸せな笑みに満ちていた。

小野寺さんとひかりもまた、彼らの子供や孫に囲まれ、互いの手を握りしめながら、安らかに、その長い旅路を終えた。


そして、他の世界では――。


ドラゴニア・クロニクル:

大精霊レイは、もはや、特定の剣に宿る必要もなく、大陸そのものと一体化した、偉大な「土地神グラン・スピリット」として、人々の信仰を集めていた。彼女の気まぐれな風は、豊かな実りをもたらし、彼女の優しい光は、病を癒やす。

『月影の爪』の仲間たちが、その生を終えた後も、彼女は、彼らの子孫たちを、そして、この世界の全てを、永遠に、しかし、ほんの少しだけ寂しそうに、見守り続けている。もう、あの賑やかなツッコミを入れられる相手は、いないのだから。


ギャラクシー・ギルドニア銀河:

慈愛の御子アリアは、その圧倒的なカリスマと、揺るぎない平和への意志によって、銀河の全ての神々をまとめ上げ、「慈愛の最高神アガペー・プライム」として、その玉座に君臨していた。

銀河は、かつてないほどの平和と繁栄を謳歌している。だが、アリアは、どれほど偉大な神になろうとも、その心は、昔と少しも変わらなかった。

彼女は、公務の合間に、頻繁に、ルナの神域へと「お忍び」で遊びに来る。そして、やってくるなり、最高神としての威厳などかなぐり捨てて、ルナの膝の上にちょこんと座り、「お姉さま、聞いてくださいまし。今日、ゼピュロスがまた、エルダ様に無茶を言って、叱られておりましたのよ? うふふ」と、他愛のない報告をしては、姉に甘えるのだった。その時間だけが、彼女にとって、唯一、ただの「妹」に戻れる、かけがえのない瞬間だった。


愛する者たちが、自分を置いて、時の流れの向こう側へと、旅立っていく。

あるいは、自分と同じ「永遠」の側に立ちながらも、それぞれが、それぞれの世界で、それぞれの役割を、力強く生きている。

ルナは、そんな彼らの姿を、誇らしく思う。アリアが、こうして会いに来てくれることも、心の底から嬉しい。

でも、だからこそ、余計に、感じてしまうのだ。

彼らと自分との間にある、決定的な「違い」を。


自分だけが、何も変わらず、この「観測者」という場所から、動けない。

神としての、絶対的な孤独が、彼女の心に、再び、静かに、しかし深く、影を落としていた。


神域のテラスに、ゼノンが、いつものように、静かに現れる。

彼は、何も言わず、ただ、ルナの隣に立ち、彼女が見つめる、今はもう誰も映し出されることのない、空っぽになったコンソールを、共に眺めた。


「…良い、物語だったな。朔」

「……ええ。本当に…」


ルナは、空になったコンソールを見つめ、そして、ぽつりと、呟いた。

その声には、100年という歳月がもたらした、深い諦観と、そして、最後の、たった一つの、純粋な願いが込められていた。

「……ねえ、ゼノン。私、やっぱり、神様、やめるわ。…今度こそ、本当に」


彼女の瞳には、涙はなく、ただ、これから始まる、新しい「自分の物語」への、静かで、そして確かな決意の光だけが、宿っていた。


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