第四話:やっぱりあなたは、そういう神様(ひと)でした(大団円)
宇宙が新生の光に満たされ、仲間たちの悲しみが、安堵と、そして愛しさに満ちた笑いの涙に変わった、あの気まずい帰還から、数日。
ルナ・サクヤの神域は、かつてないほどの、賑やかで、そして温かい空気に包まれていた。
「――だから! 私の『在宅勤務計画』は、理論上、完璧だったのよ! みんながあんなに悲しんで、しんみりした空気になっちゃうなんて、それこそが計算外だったんだから!」
テラスカフェの中心で、ルナは、顔を真っ赤にしながら、巨大なモンブランを頬張りつつ、必死に弁解していた。
彼女の周りには、彼女が心から信頼する、世界の垣根を越えた「家族」が集まっている。
「あはは! でも、本当に心臓が止まるかと思ったよ、朔ちゃん! もう、二度とあんなことしないでよね!」
隣では、レイお姉さんが、彼女の頭をわしゃわしゃと撫でている。その瞳は、心からの安堵に潤んでいた。
「お姉さま…。でも、無事で、本当によかったです…」
アリアもまた、ルナの腕にそっとしがみつき、その温もりを確かめるように、幸せそうに目を細めている。
「しかし、朔さん。宇宙の法則そのものを、書き換えてしまうとは…。私の理解を、遥かに超えています…」
小野寺さんは、頭を抱えながらも、その表情はどこか、誇らしげですらあった。隣では、ひかりが「でも、そういうところが、ルナ様の素敵なところですよね!」と、目を輝かせている。
その、賑やかで、幸せな光景の全てを、ゼノンは、少し離れた場所から、ただ、穏やかな笑みを浮かべて見守っていた。
彼の手には、いつもの紅茶。
その、あまりにも完璧な「家族団らん」の光景。
それは、彼が、何十億年という孤独の中で、ずっと夢見ていた、しかし、決して手に入らないと諦めていた「物語」そのものだった。
宴もたけなわとなった頃、シロ(システム)が、いくつかのホログラムを、テーブルの上に投影した。
そこには、それぞれの世界の「その後」が映し出されている。
『報告します。ドン・ヴォルガ、及び、ギデオンを始めとする旧『力ある者たちの連合』のメンバーは、地球のファンタジーゾーン、及び、ギャラクシー・ギルドニア銀河の開拓事業において、新人冒険者、あるいは一兵卒として、それぞれの『第二の人生』を歩み始めています。特に、ドン・ヴォルガは、ゴブリンにすら苦戦する日々に悪態をつきながらも、どこか楽しげであるとの報告が…』
「ふん、まあ、せいぜい頑張ることね。たまに、抜き打ちで『レベルチェック』してあげなくもないわ」
ルナは、満足げに鼻を鳴らした。
『また、貴殿が構築された『宇宙管理AIルナ・マキナ』は、極めて安定して稼働中。宇宙全体のエネルギーバランスは、観測史上、最も理想的な状態を維持しています』
「当然でしょ。私が作ったんだもの」
全ての「後始末」が、完璧に完了した。
宇宙は、救われた。そして、平和が訪れた。
ルナ・サクヤは、神としての、全てのお仕事を、最高の形で終えたのだ。
彼女は、仲間たちの、心からの笑顔を見渡し、そして、隣で静かに微笑むゼノンへと、視線を向けた。
その瞳には、感謝と、信頼と、そして、ほんの少しの、はにかみが浮かんでいる。
「どうだい、朔。君が創り、守り抜いたこの世界は。君の『壮大な夢』は、叶ったかな?」
ゼノンの、優しい問いかけ。
ルナは、少しだけ、考える素振りを見せた。
そして、これまでにないほど、穏やかで、そして心の底から、幸せそうな笑みを浮かべた。
「…ふん。まあ、まだまだ、改善の余地はあるけどね。この宇宙も、この家族も、まだまだ手のかかることばっかりなんだから」
彼女は、そう言うと、仲間たちの、温かい笑顔に包まれながら、続けた。
「……でも…悪くないわ。全然、悪くない。…最高の、私の『居場所』よ」
彼女の「ひとりぼっち」は、終わった。
いや、彼女が守るべき「最終防衛線」が、この、温かくて、ちょっと騒がしい「家族」の笑顔そのものになったのだ。
宇宙を救った神様は、今日もまた、大好きな人たちに囲まれて、六畳間(神域)で、最高の引きこもりライフを、謳歌するのでした。
物語は、もう少しだけ続きます。
最後までお付き合い、宜しくお願いします。
〜かぐや〜