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ひとりぼっちの最終防衛線(ラストライン)  作者: 輝夜
第十四章 宇宙の黄昏と、神様の在宅勤務
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第二話:神様の「私理論」と、最後の"お茶会"


宇宙の終焉に、たった一人で立ち向かう。

その、あまりにも途方もない決意を固めたルナ・サクヤの神域は、しかし、悲壮な覚悟とは裏腹に、不思議なほどの静けさと、そしてどこか晴れやかな空気に満ちていた。

もう、迷いはない。

やるべきことは、決まった。

ならば、あとは、それを最も「私らしく」、そして最も「効率的に」実行するだけだ。


「…さて、と」

ルナは、テラスカフェの椅子に深く腰掛け、ぱん、と一つ、手を叩いた。

「ゼノン。あなたには、これから、ちょっとだけ、私の『わがまま』に付き合ってもらうわよ。私が、心置きなく『お仕事』に取り掛かるための、最後の『準備』だから」

「…何なりと、言うといい。君の望みは、全て私が叶えよう」

ゼノンの声は、彼女の覚悟を受け入れた、静かな決意に満ちていた。


彼女は、最後の「お茶会」を開いた。

自分が、心から信頼する、大切な「家族」たちを、この神域に招いて。

テラスカフェには、ゼノンの他に、小野寺拓海、慈愛の御子アリア、そして、大精霊レイ(霧島怜)の姿があった。

彼らは、ルナが、何か、とてつもなく重要な決断を下そうとしていることを、その場の張り詰めた、しかしどこか穏やかな空気から、感じ取っていた。


ルナは、いつものように、テーブルの上に、最高に美味しいケーキと紅茶を並べた。

しかし、誰も、それに手をつけようとはしない。ただ、黙って、彼女が口を開くのを待っている。


「…みんな、今日は集まってくれて、ありがとう」

ルナは、静かに、そしてゆっくりと、語り始めた。

彼女は、包み隠さず、全てを話した。

この宇宙が、今、「大静寂グレート・サイレンス」という、避けられない「終わり」に向かっていること。

そして、それを止めるための唯一の方法が、彼女自身が、この宇宙の「新しい核」となること。


「……朔さん…それは…あなたが、消えてしまうということですか…?」

小野寺の声は、震えていた。

「お姉さま…! そんなこと、させません! わたくしたちが、何か、別の方法を…!」

アリアの瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちる。

そして、レイが、椅子から立ち上がり、テーブルを叩かんばかりの勢いで、叫んだ。

「朔ちゃん、あんた、馬鹿なこと言わないでよ! この間、なんて言ってたか覚えてる!? 『神様やめて、普通の女の子として、楽しい生活を送るんだ!』って、そう言ってたじゃない! あの約束は、どうなるのよ!」

その声は、悲しみよりも、裏切られたような、姉としての、そして親友としての、愛情に満ちた「怒り」だった。

仲間たちの、心からの制止。

その、温かい想いが、ルナの心を、優しく、そして少しだけ、痛く締め付けた。

彼女は、ふっと、これまでに見せたことのないほど、穏やかで、そして少しだけ寂しげな笑みを浮かべた。


「…ありがとう、みんな。でも、私は、もう決めたの」


彼女は、テーブルの上に、壮大な宇宙のホログラムを浮かび上がらせた。

「これから、私が何をしようとしているのか、見ていてほしいの。そして…」

彼女の瞳が、仲間たち一人一人を、真っ直ぐに見つめた。


「もし、私が失敗したら…ごめんね。その時は、あとを、みんなに任せることになっちゃうけど…。この宇宙に残された、ほんの少しの時間だけでも、さくたちが、みんなが、笑っていられるように、頑張ってほしいの」

それは、彼女なりの、精一杯の「遺言」であり、そして「お願い」だった。


仲間たちは、もう、何も言うことができなかった。ただ、固唾をのんで、彼女の、神としての、最後の「お仕事」を、その目に焼き付けることしか。


「…さて、と。じゃあ、始めましょうか、ゼノン」


ルナは、深呼吸を一つすると、これまでに見せたことのないほど、穏やかで、そして澄み切った表情で、彼に微笑みかけた。

「私が、この宇宙の『新しい核』になるための、最後のお仕事よ。ちゃんと、エスコートしてよね?」

「…ああ。君の、その晴れやかな門出を、この私が、最後まで見届けよう」

ゼノンもまた、彼女の覚悟に応えるように、その巨大な手を、そっと、彼女の小さな手へと差し伸べた。

二人は、神域の中心――サンクチュアリ・ゼロの、さらにその中枢に位置する「創生の祭壇」へと、ゆっくりと歩を進める。


そこは、宇宙の全ての法則とエネルギーが、純粋な形で渦巻く、神々の領域。


ルナは、祭壇の中央に立つと、静かに目を閉じた。

そして、仲間たちに向かって、最後に、こう告げた。


「心配しないで。私には、私の『やり方』があるから」


その口元には、いつもの、不敵で、悪戯っぽい笑みが、確かに浮かんでいた。

彼女の、最後の「お遊び」が、今、始まろうとしていた。


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