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ひとりぼっちの最終防衛線(ラストライン)  作者: 輝夜
第十三章 神々の判決と、最後の茶会
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第四話:星々の彼方へ、最後の神託


ドン・ヴォルガたちの「後始末」を終え、ルナ・サクヤは、自らの神としての役割に、完全にけじめをつけた。

彼女の心の中では、もう、あの決意が、固まっていた。

神様をやめる。そして、普通の女の子として、生き直す。

だが、その前に。

どうしても、会って、自分の口から、きちんと伝えなければならない人たちがいた。

自分が、この宇宙で、初めて「守りたい」と心から願い、そして、家族のように愛おしいと感じた、二人の大切な存在。


「……ゼノン。最後に、二つの場所にだけ、付き合ってくれるかしら」

ルナの声は、静かで、そして、どこか決然とした響きを帯びていた。

「もちろんさ、我が女神よ。君が望むなら、宇宙の果てまででも」

ゼノンは、彼女の決意の全てを察した上で、ただ、穏やかに頷いた。


最初に、二人が向かったのは、ギャラクシー・ギルドニア銀河の中心、慈愛の御子アリアが治める、新生の神殿だった。

しかし、ルナは、いきなり玉座の間に現れるような、無粋な真似はしなかった。

彼女は、システム(シロ)を通じて、アリアにだけ、そっと「お茶会のお誘い」を送ったのだ。

『――アリア。久しぶりに、お姉さまと、お話ししませんか? とびきり美味しいケーキを用意して、待っています』


その招待に、アリアは、公務も何もかも放り出して、喜び勇んで、姉の待つ「星空のティールーム」へと駆けつけた。

久しぶりに再会した姉妹は、まず、たわいもない話に花を咲かせた。

「まあ、エルダとゼピュロス、まだそんなじれったい関係を続けてるの? …しょうがないわねぇ。私が、こっそり『キューピッド・ストライカーズ』を増員してあげようかしら」

「お姉さま、おやめください。お二人は、お二人なりのペースというものが…。それよりも、聞いてくださいまし。最近、ドン・ヴォルガ様の残党が、辺境星系でまた悪さをしようとしていたのですが、わたくしが、少しだけ『お説教』をいたしましたら、皆さん、泣いて謝って、今では星系の緑化活動に、誰よりも熱心に取り組んでくださっていますのよ? うふふ」

アリアの、どこか物騒な、しかし慈愛に満ちた活動報告に、ルナとゼノンは、顔を見合わせて、微笑んだ。


一通り、ギャラクシー・ギルドニア銀河の近況を聞き終えた後、ルナは、ふと、真剣な表情になり、本題を切り出した。

「…アリア。私ね、神様、引退しようかなって、思ってるの。ゼノンっていう、すごく頼りになる人を見つけちゃったから、もう、私が宇宙の心配をしなくても、大丈夫そうだしね」

「えっ…」

アリアの、ティーカップを持つ手が、ぴたりと止まる。

「まあ、だからって、すぐにどうこうなるわけじゃないけど…。でも、もし、私が普通の女の子として生まれ直して、その…何か、人間として、どうしようもなくなっちゃった時は…」

ルナは、アリアの手を、そっと握った。

「その時は、アリア。あなたが、『お姉ちゃん』として、私のこと、護ってくれる?」


姉からの、初めて見せる「弱さ」。そして、自分を対等な存在として頼りにしてくれているという、絶対的な信頼。

アリアの瞳から、大粒の涙が、ぽろぽろとこぼれ落ちた。

「…もちろんです、お姉さま! このアリアが、命に代えても、お姉さまをお護りいたします! だから…だから…!」


「ありがとう、アリア」

ルナは、泣きじゃくる妹を、優しく抱きしめた。

「…大丈夫。私たちは、たとえ離れていても、ずっと、ずっと『家族』よ。だから、泣かないで」

彼女は、そう言うと、アリアの額に、そっと、口づけを落とし、そして、光の中へと、その姿を消した。


次に、彼女が訪れたのは、異世界「ドラゴニア・クロニクル」。

『月影の爪』が拠点とする、辺境の街の宿屋。

フィリアの頭の上で、うたた寝をしていたレイ(霧島怜)は、ふと、懐かしい気配を感じて、意識を覚醒させた。

(…この感じ…朔ちゃん?)

『お姉さん、ちょっとだけ、いいかしら?』

脳内に直接響く、妹の声。

レイは、フィリアたちに「ちょっと野暮用!」とだけ言い残すと、魂体となって部屋を抜け出し、人気のない屋根裏部屋へと、瞬間移動した。

そこには、既に、あの黒コート姿の朔ちゃんが、待っていた。


「朔ちゃん、何か用かな? その顔は、何か重要なことを決めたみたいだけど?」

レイは、妹のただならぬ雰囲気を察し、単刀直入に尋ねた。


朔ちゃんは、少しだけ俯きながらも、自分の決意を、正直に、そして全て、打ち明けた。

神様をやめること。普通の女の子として、生き直したいこと。そして、その「お父さん」役を、ゼノンに頼んだこと。

「……だから、お姉さん。私がなんとかするって言ったけど、ごめん。ゼノンに、全部、任せちゃった。でも、彼は、きっと信用できる人だから。もし、何かあったら、そっちを頼ってね」


レイは、その、あまりにも壮大で、そしてあまりにも「朔ちゃんらしい」決意を、ただ、黙って聞いていた。

そして、全てを聞き終えると、彼女は、昔、孤児院でそうしていたように、妹の頭を、わしゃわしゃと、優しく撫でた。

「…そっか。あんたも、やっと、心から頼れる人、見つけられたんだね。よかった。本当に、よかったよ、朔ちゃん」

その声には、姉としての、心からの喜びと、安 dudaが込められていた。ずっと一人で、無理して全てを背負い込んできた妹が、ようやくその重荷を分かち合える相手を見つけられた。そのことが、レイにとっては、何よりも嬉しかったのだ。

「でも、まあ、あの朴念仁そうな神様が、あんたの『お父さん』ねぇ…。前途多難そうだけど、面白そうじゃない! 私も、時々、そっちに遊びに行ってもいいかな? 新しい『お父さん』の、お手並み拝見、ってね!」


「……うん!」

朔ちゃんは、涙と、そして最高の笑顔で、力強く頷いた。


残すは、自らの未来を決める、最後の「儀式」だけだった。

彼女は、隣で静かに微笑むゼノンの手を、そっと、しかし力強く握り返すと、最後の目的地――自らの「神域」へと、その一歩を踏み出した。


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