表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ひとりぼっちの最終防衛線(ラストライン)  作者: 輝夜
【第十一章】天下一冒険者大会と、祭りのあと
144/197

追加エピローグ:『星屑のミルフィーユと、初めての"お願い"』


【深淵の観測所:ゼノンの玉座の隣のソファ】


ルナ・サクヤは、ゼノンにからかわれ、顔を真っ赤にしながらも、結局、彼が差し出した「星屑のミルフィーユ」の誘惑には勝てなかった。

「べ、別に、あなたのケーキが食べたいわけじゃないんだからね! ただ、このまま帰るのも癪だから、味見くらいはしてあげるだけよ!」

そんな、誰が聞いてもバレバレなツンデレな言い訳をしながら、彼女はソファの端にちょこんと腰掛け、出されたミルフィーユを、おそるおそる一口、口に運んだ。


その瞬間、彼女の星々を宿した瞳が、これ以上ないほどに、大きく、そしてキラキラと輝いた。

(な…なに、これ…! 美味しすぎる…! サンクチュアリ・ゼロの概念素材から錬成した私のケーキが、霞んで見えるくらいに…! くっ…! 悔しいけど、認めざるを得ないわ…!)


彼女の、あまりにも素直で、分かりやすい反応に、ゼノンは、影の奥で、満足げな笑みを深めた。


しばらくの間、二人の間には、気まずい、しかしどこか穏やかな沈黙と、ミルフィーユを咀嚼する、さくさく、という小さな音だけが流れていた。


やがて、ケーキを綺麗に平らげたルナは、ふぅ、と満足げなため息をつくと、意を決したように、ゼノンに向き直った。その顔の赤みは、まだ完全には引いていない。

「……ねえ、ゼノン」

「なんだい、月の女神よ」

「…その…一つだけ、お願いがあるんだけど…」

彼女が、誰かに、それも自分よりも上位の存在かもしれない相手に「お願い」をするなど、神になって以来、初めてのことだった。


ゼノンは、少しだけ驚いたように、しかし興味深そうに、彼女の次の言葉を待った。


ルナは、俯き、もじもじと指先を弄びながら、か細い声で言った。

「……あのさ…その…今日みたいに、私が、その…取り乱したりして、危なっかしかったり…その…こんな事したいなってお願いしたら…」

彼女は、一度言葉を切り、そして、潤んだ瞳で、ゼノンを上目遣いに見つめた。

「……また、今日みたいに…助けてくれる…?」


それは、彼女の、なけなしの勇気を振り絞った、精一杯の「お願い」。

全知全能の神でありながら、その内面は、まだ、誰かの支えを必要としている、孤独で、不器用な少女。

その、あまりにも健気で、愛らしい「弱さ」の告白に、ゼノンは、何十億年という時の中で、初めて、自分の心の奥底が、どうしようもなく揺さぶられるのを感じた。


彼は、玉座から静かに立ち上がると、彼女の前に跪き、その小さな手を取った。

そして、その手の甲に、まるで最も尊い宝物に触れるかのように、そっと、自らののイメージを寄せた。


「――喜んで、我がまもるべき月の女神マイ・ディア・ルナよ」

その声は、どこまでも優しく、そして、揺るぎない誓いの響きを帯びていた。

「君が望むなら、私は、いつでも、どこへでも駆けつけよう。君のその輝きを、君が愛する全てを、このゼノンの永遠を賭けて、まもると、ここで誓おう」


それは、宇宙の深淵で交わされた、たった二人だけの、絶対的な「契約」。

そして、ひとりぼっちだった神様が、初めて、誰かに自分の「弱さ」を預け、そして、その温もりを受け入れた、記念すべき瞬間だった。


ルナは、その言葉と、手の甲に残る感触に、もう、何も言い返すことができなかった。

ただ、顔を真っ赤にして、再び、ぽすん、とソファに顔をうずめることしか。

その小さな背中が、ほんの少しだけ震えているのを、ゼノンは、心の底から愛おしそうに、見つめていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ