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ひとりぼっちの最終防衛線(ラストライン)  作者: 輝夜
【第十一章】天下一冒険者大会と、祭りのあと
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第五話:神の怒りと、聖女の奇跡


【神域】


月詠さくの、魂からの慟哭。

それは、天下一冒険者大会の、じれったい恋の行方を、どこか楽しげに、そしてやきもきしながら「観測」していたルナ・サクヤの意識を、まるで氷水を浴びせられたかのように、一瞬で覚醒させた。

玉座に座っていた彼女の体が、音もなく立ち上がる。

その瞳から、いつもの余裕や、悪戯っぽい光は、完全に消え失せていた。

代わりに宿るのは、絶対零度の、静かで、そして底知れない怒りの光。


彼女の周囲の空間そのものが、その神威に耐えきれず、ミシミシと、宇宙の法則が軋む音を立て始めた。

サンクチュアリ・ゼロのエネルギー出力が、危険域を遥かに超えて急上昇し、システム(シロ)の管制AIたちが、一斉に悲鳴に近い警告を発する。

ゼノンですら、その深淵の観測所から、彼女のただならぬ気配を感じ取り、その楽しげだった表情を、厳しいものへと変えた。


彼女は、何も言わない。

言葉は、もはや不要だった。

彼女の存在そのものが、「怒り」という概念の化身と化していた。


【次元の裂け目】


次元喰いが、ぐったりと動かなくなったアサヒくんを、そして絶望に打ちひしがれるさくを、まるでデザートを味わうかのように、ゆっくりと「喰らおう」とした、その瞬間。

さくの体が、突如として、眩いばかりの、しかしどこか悲しみを帯びた黄金色の光に包まれた。

その光は、まるで太陽そのものが、この歪んだ空間に凝縮されたかのようだ。次元喰いですら、そのあまりにも純粋で、強大なエネルギーの奔流に、一瞬、その動きを止めた。


薄れゆく意識の中、アサヒくんが見たのは、神々しい光を放ちながら、涙を流し、しかし、絶対的な意志を宿した瞳で、自分に手をかざす、さくの姿だった。

その姿は、もはや、彼が知る、少しだけ内気で、優しい後輩の女の子ではない。

この世の全ての悲しみと、そして全ての希望をその身に宿した、気高く、そして美しい「聖女」そのものだった。

(…さく…ちゃん…? きみは、まるで…)


さくが、その小さな手を、アサヒくんの胸に、そっと置く。

すると、奇跡が起きた。

彼の、止まりかけていた心臓が、再び力強く鼓動を始め、折れていたはずの手足が、傷ついていたはずの内臓が、まるで時間を巻き戻すかのように、瞬時に、そして完全に、再生していく。

それは、アリアが持つ「慈愛」の力とも、ゼノンが操る「因果律」の力とも違う。

ルナ・サクヤが持つ、生命の根源そのものを「再定義」し、「再創造」する、究極の権能の一端だった。


そして、光をまとったさくが、ゆっくりと立ち上がり、次元喰いへと向き直った。

その瞳には、もはや涙はない。

ただ、静かな、そして絶対的な「拒絶」の意志だけが、宿っている。

彼女は、ただ、その小さな手を、静かに、次元喰いへと向けた。

そして、ただ一言。

宇宙の法則そのものに、そして、その外にある「無」にすら、絶対的な命令を下すかのように、呟いた。


「――『在ってはならない(デリート)』」


その言葉が、響いたのか、響かなかったのか。

次の瞬間。

次元喰いは、悲鳴を上げる間もなく、その不定形の影が、まるで最初から、この宇宙のどこにも存在しなかったかのように、光の粒子となって、完全に、そして跡形もなく、消滅した。

後に残されたのは、静寂と、そして、呆然と立ち尽くす、さくの姿だけだった。

彼女を包んでいた黄金色の光は、すぅっ、と、まるで役目を終えたかのように、彼女の中へと収束していった。

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