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ひとりぼっちの最終防衛線(ラストライン)  作者: 輝夜
【第十一章】天下一冒険者大会と、祭りのあと
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第一話:神様プロデューサーと、賭けの対象


【月詠朔:神域(旧六畳間)】


「……もうっ! じれったいわね!」


ルナ・サクヤは、神域の玉座で、巨大なクッションを相手にパンチを繰り出しながら、憤慨していた。

メインコンソールには、月詠さくとアサヒくんの、じれったすぎる恋の行方が映し出されている。


「このままじゃ埒が明かないわ! 私が、最高の『舞台』を用意して、無理やりにでもくっつけてあげるんだから!」

神としての威厳も何もない、完全に「推しカップルを成立させたいオタク」の思考である。

彼女は、すぐさまシステム(シロ)を呼びつけた。


「シロ! 小野寺さんに通達! 近いうちに、オアシス・トーキョーで『第一回・天下一冒険者大会』を開催します! 実行委員長は、もちろん彼よ!」

『……了解しました。企画概要の策定を開始しますか?』

「当然でしょ! 開会式には、私がファンタジーゾーンから捕まえてきたワイバーンの子供(無害で可愛いやつ)を飛ばして、花火も『サンクチュアリ・ゼロ』のエネルギーで超ド派手にやるわよ! そして、優勝賞品は…そうね…」

ルナは、顎に手を当て、悪戯っぽく口の端を吊り上げた。

「『この大会の謎の主催者・・・・・と、その神域のティールームで、秘密のお茶会ができる券』でどうかしら! もちろん、『ただし、世界一美味しいケーキを持参のこと』っていう、大事な一文も忘れずにね! にひひっ」


その、あまりにも突飛で、そして挑戦的な賞品内容は、即座に小野寺拓海の元へと転送された。

『――な、謎の主催者様とのお茶会券!? しかもケーキ持参で!? そ、そんなものを賞品にしたら、世界中の冒険者や権力者たちが、その正体を暴こうと、目の色を変えて殺到してしまいます…! 色々な意味で危険すぎます、ルナ様!』

彼の悲鳴に近い問い合わせが、神域に虚しく響いた。


【深淵の観測所:ゼノンの玉座】


その様子を、遥か彼方から「観測」していたゼノンは、楽しげに微笑んだ。

(…実に、彼女らしい、大胆で、そして無邪気な計画だ。だが、これだけでは、あの二人の心を動かすには、少しばかり『演出』が足りないな)

彼は、愛らしい月の女神の、健気な「推し活」を、最高の形でサポートすることを決意した。

ゼノンは、すかさずルナの神域に、紳士的な、しかしどこか悪戯っぽい思念波を送る。


『――月の女神よ。実に素晴らしい催しだ。聞いているだけで、胸が躍る。だが、君の愛する「さく」と「アサヒ」の物語を、最高の形で成就させるには、もう少しだけ『スパイス』が必要ではないかな?』


【月詠朔:神域(旧六畳間)】

「なっ…! ゼノン!? また勝手に…! …で、でも、『スパイス』ですって…?」

まんまと、その言葉に興味を惹かれるルナ。


『例えば、ただの大会では、二人の距離は縮まらない。大会の最中に、参加者の中からランダムで選ばれた二人がペアを組み、挑まなければならない『特別緊急クエスト』が発生する、というような『ハプニング』を用意してみてはどうかね? もちろん、そのペアが『偶然』、あの二人になるように、私が少しだけ『運命の糸』を調整して差し上げよう』


「な、なるほど…! 二人きりの、特別クエスト…! あなた、良いこと言うじゃない! さすがね!」

ルNAは、ゼノンの提案に、完全に心を奪われてしまった。

(これなら、最高の吊り橋効果が期待できるわ! さすが、何十億年も生きてるだけあるわね、ゼノンってば…!)

こうして、ゼノンは、大会の共同脚本家兼・演出家として、ルナの「推し活」に、自然な形で潜り込むことに成功したのだった。


そんな、地球での新たな「お遊び」の計画に夢中になっていたルナの元に、システム(シロ)から、監獄惑星に関する定例報告が届いた。

『報告します、ルナ・サクヤ。監獄惑星にて開催中の『第一回ルナ・サクヤ杯・宇宙植物バレーボール・チャンピオンシップ』ですが、ドン・ヴォルガ(ボール役兼応援団長)の情けない声援もあり、大盛況です。この大会の映像データが、娯楽の少ないギャラクシー・ギルドニア銀河の神々の間で、非公式ルートを通じて、高値で取引されている模様です』


「なんですって!? 私の『お仕置き』を、勝手に海賊版で流して、ビジネスにしてる不届きな神がいるの!?」

ルナは、一瞬、眉をひそめた。だが、次の瞬間、彼女の瞳が、商売人のようにキラリと輝いた。

「……面白いじゃない。それ、もっと大規模に、そして公式でやれば、かなりの『収益』が見込めるわね…」


彼女は、再び小野寺に「神託」を下した。

『小野寺さん、追加案件よ。天下一冒険者大会の公式イベントとして、「宇宙植物バレーボール」の地球初公開、及び、その勝敗を対象とした『公式神域ギャンブル』の運営を、日本政府に委託します』

『もちろん、運営を断っても構わないわよ? でも、その収益の一部は、地球の復興資金として還元するし、何より、この銀河初の公式スポーツの『胴元』になれるチャンス、逃すのは惜しいんじゃないかしら? 胴元は私だけど。にひひっ』


その通達を受けた小野寺は、受話器を握りしめたまま、しばらくの間、遠い目をして動けなくなったという。

「こ、公式ギャンブル!? しかも宇宙人(植物)のバレーで!? そ、そんな、日本の法律では…いや、もう、法律とかそういう次元の話じゃない…!」

彼の胃痛は、もはや限界を知らなかった。しかし、その提案が、莫大な観光資源と経済効果をもたらすことも、彼は理解していた。

日本政府は、神が持ちかけた、前代未聞の「スポーツビジネス」という、究極の選択を迫られることになる。

神様プロデューサーによる、壮大で、混沌とした「お祭り」の準備は、こうして、着々と進んでいくのだった。


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