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ひとりぼっちの最終防衛線(ラストライン)  作者: 輝夜
【第十章】神々の日常と、星々の囁き
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其の十四:二人だけの秘密と、理想の剣(わたし)のカタチ


朔ちゃんとの、夢の中での再会から数日。

私――大精霊(仮)のレイは、相変わらずフィリアちゃんの頭の上を定位置としながら、『月影の爪』の冒険に同行していた。

朔ちゃんからの、そして、どこかの不器用な神様ゼノンからの、こっそりとしたエネルギー支援のおかげで、私の存在は以前よりもずっと安定し、今では、フィリアちゃんが望めば、短時間ながらも、あの黒コート姿で実体化することも可能になっていた。

…まあ、その事実を、まだフィリアちゃんたちに打ち明ける勇気は、私にはなかったのだけれど。


その日の夜。

依頼を終えた一行は、いつもの宿屋「風見鶏の亭」に戻っていた。

リズとミラは、明日の準備があると言って、それぞれの個室へと戻っていき、部屋には、フィリアと、そして見えない私だけが残された。


フィリアは、ベッドに腰掛け、窓から見える満月を、ぼんやりと眺めていた。

その横顔は、どこか物憂げで、何かを深く考えているようだった。


(……どうしたのかな、フィリアちゃん。何か、悩み事でもあるのかしら…)

私が、そっと彼女の隣に漂い、その顔を覗き込もうとした、その時だった。


「……あの…」

フィリアが、小さな、しかし確かな声で、誰もいないはずの空間に向かって、話しかけてきたのだ。

「…そこに、いますよね? いつも、私のそばにいてくれる…なにか。たぶん、レイさん…」


(――!?)

私は、息を…いや、気配を飲んだ。

(ば、バレてる!? なんで!? 私、完璧に気配を消してたはずなのに!)


フィリアは、続ける。

「私、変なこと言ってるって、分かってます。でも…いつも感じるんです。私が嬉しい時も、悲しい時も、そして、戦いで危ない時も…いつも、すぐそばで見守ってくれてるって。それは、頭の上だったり、肩のあたりだったり…。そして、その感じは、あの時、私を助けてくれた、黒いコートのお姉さんから感じたものと、すごく、すごく似ているんです」

彼女は、ぎゅっと自分の手を握りしめ、そして、意を決したように、私(がいるであろう空間)を、真っ直ぐに見つめた。


「だから、聞きます。……いつも近くにいてくれているのって、あの時のレイさん?ですよね!?」


その、あまりにも純粋で、真っ直ぐな瞳。

私は、もう、誤魔化すことなんてできなかった。

(……朔ちゃん。ちょっとだけ、力を貸して)

心の中で、遠い銀河にいる妹(神様)にお願いする。


次の瞬間、私の体は、ふわりと光に包まれ、フィリアの目の前に、あの黒コートとサングラスの姿で、そっと舞い降りた。


「……気づいてたんだ。ごめんね、ずっと黙ってて」

私は、少しだけ気まずそうに、サングラスの奥からフィリアを見つめた。


「やっぱり…! レイさん!」

フィリアは、驚きと、そしてそれ以上の喜びで、目を輝かせた。


「えっとね、フィリアちゃん。色々、説明したいことは山ほどあるんだけど…」

私は、頭を掻きながら、何から話すべきか、必死に考えた。

「…私ってば、まあ、なんていうか、精霊?みたいなもので、この度めでたく、大精霊に任命されたのよ!」

(意味不明よね! 誰に任命されたのよって話よね! 私にもよく分からない!)


そして、私は、最も重要な誤解を解くために、必死に言葉を続けた。

「あ、あと! 当然だけど、あの時、ダンジョンであなたを助けてくれた、あの黒コートのすごい人! あれは、私じゃないからね! まったくの別人だから! 絶対に違うから!」

私は、力強く、そして少しだけ食い気味に否定した。


「え…? でも、レイさんと同じ格好を…」

フィリアが、不思議そうに首を傾げる。

「た、たまたまよ! この世界のファッションの流行が、たまたま被っただけ! そうに決まってるわ! だから、あの巨大な影みたいな人と、あんな、こ、恋人同士みたいな、甘酸っぱーーい空気を出してたのは、断じて、この私じゃないんだからねっ! 私は、もっとこう、クールで、孤高な存在なんだから!」


私の、あまりにも必死で、しどろもどろな言い訳に、フィリアちゃんは、きょとん、と目を丸くしている。

そして、私は、ええい、ままよ!とばかりに、本題のつもりを切り出した。


「と、とにかく! そんなことより、フィリアちゃん! 私、あなたの剣になりたいの! だから、教えてほしいの! どんな剣になってほしい!?」


「……………は?」


フィリアちゃんの、いぶかしげな、そして「この人、大丈夫かな?」と、心の底から心配しているような視線が、私に突き刺さった。

しまった。完全に、話の順番を間違えた。


「い、いや、だからね!? 私、大精霊として、フィリアちゃんの力になりたいなって! それで、剣に宿るのが一番、効率的かなって思っただけで…!」

私が慌てて弁解すればするほど、フィリアちゃんの目は、ますます「可哀想な人を見る目」に変わっていく。


「……レイさん。疲れてるんですね。今日は、もう、ゆっくり休んでください」

フィリアは、そう言うと、ベッドから立ち上がり、私の肩に、そっと毛布をかけてくれようとした(もちろん、実体のない私にはかからないのだが)。

その、あまりにも純粋な優しさが、逆に私の心を抉る。


(うぅ…違うの…そうじゃないのよ、フィリアちゃん…!)


こうして、私とフィリアちゃんの、初めての「二人だけの秘密」の共有は、私の完全なコミュニケーションミスによって、なんだかとても、あらぬ方向へと進み始めてしまったのだった。

最強の精霊武器への道は、どうやら、想像以上に険しいらしい。そして、私の「別人だ」という主張も、フィリアに全く信じてもらえていないことにも、私はまだ気づいていなかった。


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