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ひとりぼっちの最終防衛線(ラストライン)  作者: 輝夜
【Side Story:霧島怜編】一番星のレイ
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其の十:フィリア絶体絶命!~目覚めよ私、守りたいその笑顔!~


(これは……本気でヤバいのかも……!)


フィリアちゃんの頭の上で、私も「死」を意識するほどの恐怖を感じた。

今までの冒険とは、明らかに次元が違う。

絶体絶命のピンチが、すぐそこまで迫っていた。


黒竜は、巨大な口を開き、その喉の奥で、禍々しい紫色のエネルギーを収束させ始めた。

ブレス攻撃だ! あんなものをまともに喰らったら、いくらフィリアちゃんのもふもふ防具でも無事では済まない!


「フィリア、避けなさい!」

ミラが叫ぶが、もう遅い。

魔獣の口から放たれた極太の破壊光線が、フィリアちゃんめがけて一直線に迫る!


(フィリアちゃん!!!)


その瞬間、私の意識の中で、何かが弾けた。

恐怖よりも、フィリアちゃんを助けたいという強い想いが、存在の核から、まるでマグマのように噴き出したのだ。


(フィリアちゃんを、死なせたくないっ!!)


今まで、湖や魔石から吸収してきた膨大な「妖精パワー(仮)」が、その想いに呼応するように、私の内で激しく渦を巻く。

拡散して消えそうだった希薄な存在が、急速に凝縮され、確かな「形」を成していくのを感じる。

人間だった頃の、霧島怜としての記憶。炎の中で子供たちを庇った、あの頃の、誰かを守りたいという強い意志。

それらが渾然一体となり、私という存在を再構築していく。


【天の川銀河:ルナ・サクヤの神域】


『――警告! ルナ・サクヤ! 対象:霧島怜の魂のエネルギーレベル、急激に上昇! 自己の意志による、存在形態の強制的な再構築マテリアライズを開始しました! これは、極めて危険な兆候です! 失敗すれば、魂そのものが崩壊する可能性が…!』

神域で、優雅なティータイムを満喫していたルナの元に、監視チームからの切迫した報告が届いた。

「なんですって!?」

ルナは、ティーカップを取り落としそうになるのを、寸前で堪えた。

メインコンソールに映し出されたドラゴニア・クロニクルの映像。そこには、まさに黒竜のブレスに飲み込まれようとしているフィリアと、その前で、眩い光を放ちながら、人の形を取ろうとしている怜お姉さんの姿があった。

「ば、馬鹿! 無茶よ、お姉さん! そんなことをしたら…!」


【ドラゴニア・クロニクル:遺跡の広場】


気づけば、私はフィリアちゃんから離れ、上空にふわりと浮いていた。

そして、自分の「手」を見下ろしていた。

白く、ほっそりとした、けれど確かな実体を持つ手。

自分の身体がある。人間だった頃とよく似た、けれどどこか違う、軽やかで、力に満ちた身体が。


(……私、人になってる……?! って、服は?!)


そう、実体化したのはいいけれど、私、何も着ていない?!

いくら精霊のつもりでも、これはまずい!倫理的に!

慌てふためく私に、どこからともなく、呆れたような、でもどこか楽しげな声が聞こえた気がした。


『……お姉さん、裸はダメでしょ。まったく、見てるこっちが恥ずかしいじゃない。しかたないなぁ。よっ、と!』


その声と同時に、私の身体がふわりとした布に包まれた。

気づけば、私は身体にぴったりとフィットする黒いインナーの上に、深いフードのついたダークグレーのロングコートを羽織り、そしてなぜか大きな黒いサングラスまでかけていた。


(な、何これ?! この格好?! しかも、このサングラス、なんか見覚えが……?いや、気のせい? それよりも、なんだか……この身体、長くは保たないかも……?)


戸惑っている暇はない!

眼下では、フィリアちゃんが必死にブレスを避けようとしているが、間に合いそうにない!


私は咄嗟に、両手をフィリアちゃんの前に突き出した。

イメージしたのは、強固な「壁」。

すると、私の手のひらから、淡い光の障壁が展開され、迫りくる破壊光線と激突した!


ゴオオオオオオオオオッッ!!!


凄まじい衝撃と熱波が周囲を薙ぎ払う。

(くっ……! 重い……けど、いける!)

渾身の力を込めて障壁を維持し、やがて破壊光線は霧散した。


「フィリアちゃん! 大丈夫っ?!」

私はふわりと地上に降り立ち、衝撃で尻餅をついているフィリアちゃんに駆け寄った。


(まだだ……! あのドラゴンもどき、まだ息がある!)

一気に決める!

(イメージは……鋭く、強く、全てを断ち切る光の刃!)

私は右手を掲げ、そこに意識を集中させる。手のひらから眩い光があふれ出し、長大な光の剣――そう、心の中で私はそれを「怜ソード!」と名付けた――を形成した。


【天の川銀河:ルナ・サクヤの神域】


「…………怜ソードって、そのネーミングセンス……! もう少し、良い名前は思いつかなかったかなぁ!? あ〜、その構え! 全然なってないわ! もっと腰を落として、剣先がブレないように…!」

ルナは、神域の玉座から身を乗り出し、まるで自分のことのように、ハラハラしながら、そして的確な(?)ツッコミを入れながら、怜の戦いを見守っていた。その姿は、もはや神ではなく、格闘ゲームの応援に熱中する、ただのオタク少女だった。


【ドラゴニア・クロニクル:遺跡の広場】


「はあああああああっ!」

気合と共に、私は「怜ソード!」を振りかぶり、魔獣めがけて一気に跳躍!

ズバァァァァァァッッ!!!

閃光一閃。魔獣の首が、綺麗に宙を舞った。


「……ふぅ。……やった、かな?」

光の剣を消し、私は息をつく。

(あ……! やっぱりダメだ、この姿、もう維持できない! あ……もう、むり……っ)


フィリアちゃんは、目を丸くして私を見上げていた。

「あ……ありがとう、ございます……。あの……お姉さん、だれっ……!?」

リズとミラも、驚愕と畏怖の入り混じった表情で、私と倒れた魔獣を交互に見ている。


「えっと……! 大丈夫なら良かった! あのね、私、ちょっともう行かないと! あそこに倒れてる魔獣、すごい素材になると思うから、ちゃんと回収してね! それじゃあ……また……もし、本当に危なくなったら……呼んでくれたら、来る……かも!」

私は早口にまくし立て、三人が何かを言う前に、ありったけの意志を込めて告げた。

身体が急速に薄れていくのを感じながら、心の中でつぶやく。

(……ごめん、フィリアちゃん……)

パシュンッ! 音もなく、私の姿はコートやサングラスごと、その場から掻き消えた。


【天の川銀河:ルナ・サクヤの神域】


「……ふぅ~。まあ、初めての実体化にしては、上出来じゃないかしら。ちょっとヒヤヒヤしたけど。でも、最後の決め台詞、もうちょっとカッコよく言えなかったのかしらねぇ…。『来る…かも!』って、何よその中途半端な感じは…」

ルナは、安堵のため息をつきながらも、姉のヒーローとしての立ち居振る舞いに、厳しい(しかし愛情のこもった)ダメ出しを呟く。そして、最高級の紅茶を一口すすると、満足げに微笑んだ。

「まあ、いいわ。これで、お姉さんも、この世界の『イレギュラー』として、本格的に物語に絡み始めたわけだし。これから、どんな騒動を巻き起こしてくれるのか、楽しみじゃない。にひひっ」

彼女の「推し活」は、新たなステージへと突入したのだった。


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