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ひとりぼっちの最終防衛線(ラストライン)  作者: 輝夜
第九章 神の箱庭、星々の対話
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第五話:二つの銀河の盟約と慈愛の旅立ち


【ルナ・サクヤの神域:草原のティールーム】


エルダとゼピュロスの間に流れる、どこか生暖かい空気に、ひとり勝手に悶絶していたルナ・サクヤだったが、神としての威厳(と、ほんの少しの虚勢)を総動員して、なんとか平静を取り戻した。

彼女は、咳払いを一つすると、改めて、エルダたち四柱の神へと向き直った。


「…さて、と。あなたたちの覚悟は、よく分かりました。ドン・ヴォルガたちの無様な姿を見て、なお、その決意が揺るがないというのなら、私も、あなたたちの未来に少しだけ協力いたしましょう」

その言葉は、もはや交渉ではなく、絶対的な上位者からの「許諾」だった。


エルダたちは、ルナ・サクヤの圧倒的な力を前に、ギャラクシー・ギルドニア銀河の新体制を、彼女の「監督下」で構築することを、改めて、そして正式に誓った。

それは、事実上の「属国化」あるいは「フランチャイズ加盟」に近いものだったかもしれない。だが、ドン・ヴォルガの圧政と、それに続く混乱に疲弊しきっていた彼らにとって、この月の女神がもたらす「秩序」と「安定」は、何物にも代えがたい希望の光に思えた。


「よろしい。では、これより、ギャラクシー・ギルドニア銀河は、私の『保護観察対象』とします」

ルナは、満足げに頷くと、続けた。

「ただ、言っておくけれど、私はあなたたちの銀河の統治に、いちいち直接手を下すつもりはないわ。あなたたちが、私の美学に反しない、効率的で、公平な統治を行う限りはね。ドン・ヴォルガのような、非効率で、搾取するだけの支配は、二度と繰り返させない。そのための最低限のルールは、後でシロ(システム)を通じて通達させるけど、それ以外は、あなたたちの『自主性』を重んじるつもりよ」


彼女はそこで一度言葉を切り、エルダたちの瞳の奥を、試すように見つめた。

「…ですが、この広いギャラクシー・ギルドニア銀河には、まだドン・ヴォルガの残党や、あるいは彼に匹敵する、あるいはそれ以上の力を持つ、表に出てこない『古狸』のような神々もいることでしょう。あなたたちの力だけでは、全ての星々をまとめ上げ、新たな秩序を築くのは、難しいはず」

その言葉に、エルダたちの顔に緊張が走る。彼女の言う通りだった。ドン・ヴォルガという強大な「蓋」が外れた今、各地で燻っていた火種が、一斉に燃え上がる可能性は十分に考えられた。


「だから、もし、あなたたちの手に余るような事態が発生した時は、プライドなど捨てて、すぐに私に『報告』しなさい。その問題が、この銀河の安定にとって、本当に『解決すべき障害』だと私が判断したなら、手助けをしてあげなくもないわ。もちろん、最終的な判断と、その『お掃除』の方法は、私が決めるけどね。…頑張って、私を退屈させないような、面白い銀河を創ってみせてね」


その言葉は、彼らの力量を試すと同時に、絶対的な上位者としての「セーフティネット」を提示するものでもあった。エルダとゼピュロスは、その言葉に込められたルナ・サクヤの真意――単なる支配者ではなく、ある種の「後見人」としての役割をも担おうとしていること――を感じ取り、改めて、その計り知れない器の大きさに畏敬の念を抱いた。


会談が、新たな時代の幕開けを告げる形で終わろうとした、その時だった。

これまで、ルナの傍らで静かに成り行きを見守っていたアリアが、ふと、その小さな一歩を前に踏み出した。そして、ルナを見上げ、澄み切った、しかし強い意志を宿した瞳で、こう告げたのだ。


『……お姉さま。私、エルダ様たちと、一緒に行ってもよろしいでしょうか』


その場にいた全員が、アリアの言葉に息をのむ。

ルナ・サクヤもまた、一瞬、その完璧な表情を崩し、言葉を失った。


『ギャラクシー・ギルドニア銀河には、まだ、癒やしを必要としている人々がたくさんいます。私のこの力が、少しでもその助けになるのなら…私は、行きたいのです。』

アリアの声は、静かだったが、その響きには、これまでにないほどの、確かな自立心と、そして「慈愛の神」としての使命感が込められていた。彼女は、もう、ただ守られるだけの存在ではない。自らの足で立ち、自らの力で、誰かを救いたいと、強く願っていたのだ。


ルナの胸に、複雑な感情が渦巻いた。

寂しさ。

誇らしさ。

そして、愛しい妹を、危険な場所へ送り出す姉のような、心配と不安。

まだ早いと言う気持ちもある。経験も足らないのでは、とも思った。でも、それを言うなら振り返って私はどうだろう。経験豊富...とは、言えないだろう。

彼女には、アリアには、もう二度と辛い思いをさせたくないと、強く思っていた。この安全な「神域」で、ずっと、穏やかに過ごしてほしかった。

だが、アリアの瞳に宿る、その揺るぎない決意の光を見て、ルナは、その願いを飲み込んだ。この子の成長を、自分が妨げてはいけない、と。


ルナは、アリアから(見えないように)顔をそむけ、一瞬だけ、唇を噛みしめた。

そして、すぐにいつもの不敵な、しかしどこか優しい響きを帯びた声で、こう言った。

「……ふん、いいでしょう。いつまでも私のそばにいるだけじゃ、あなたのためにもならないわ。ただし!」

彼女は、アリアの目を真っ直ぐに見つめ返す。

「ギャラクシー・ギルドニア銀河の『統治者』としてではないわ。あなたは、あくまで私の『代理人』、そして、この私が直々に任命する『特別監査役』として行くのよ。エルダたちが、ちゃんと私の言いつけ通りに、良い銀河を創っているか、その純粋なあなたの目で、しっかり見届けてきなさい。もし、何かおかしなことがあったら、すぐに私に報告すること。いいわね?」


それは、あまりにも不器用で、そしてあまりにも愛情に満ちた、彼女なりの「激励」の言葉だった。

アリアを一人で行かせたくない。でも、その成長を喜び、応援したい。その二つの感情が綯い交ぜになった、最高にツンデレな「神託」。


『……はい! お姉さま!』

アリアは、ルナの真意を全て理解したかのように、満面の、そして最高の笑顔で頷いた。その笑顔は、まるで太陽のように、神域全体を明るく照らし出した。


こうして、二つの銀河の間に、新たな盟約が結ばれた。

そして、アリアは、「慈愛の神」として、自らの意志で、新たな世界へと旅立つことを決意した。

それは、彼女にとって、真の自立への第一歩。

そして、ルナ・サクヤにとっては、ギャラクシー・ギルドニア銀河に、最も信頼できる、そして最も愛おしい「目」を置くことで、間接統治の体制を盤石にするための、最も効率的で、そして最も「人間らしい」采配となったのだった。

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