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ひとりぼっちの最終防衛線(ラストライン)  作者: 輝夜
第九章 神の箱庭、星々の対話
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【Side Story】星空のティールームの後で


【ギャラクシー・ギルドニア銀河:辺境の隠れ神殿】


「慈愛の星神」エルダが、ルナ・サクヤとの不可思議な会談から戻った時、彼女の隠れ神殿には、同志である数柱の「善神」たちが、固唾をのんでその帰りを待っていた。

風を司る壮年の神「疾風のゼピュロス」。

大地と鉱物を司る頑固だが実直な女神「鋼鉄のガイア」。

そして、知識と星の運行を司る、若く聡明な神「星詠みのソラリス」。


「エルダ様! ご無事で…!」

エルダの姿を認めるや否や、ゼピュロスが駆け寄った。その力強い腕が、思わずといった様子でエルダの肩を掴む。彼の顔には、安堵と、それ以上の、彼女の身を案じる切実な想いが浮かんでいた。

「して、いかがでしたか、あの天の川銀河の女神との会談は…? 我々の声は、本当に届いたのでしょうか?」


エルダは、仲間たちの不安げな視線と、そしてゼピュロスの熱を帯びた視線を受け止め、静かに、しかし確かな声で語り始めた。

星空に浮かぶ、不可思議なティールーム。

フードで顔を隠した、しかし宇宙の法則すら支配するほどの、圧倒的な存在感を放つ月の女神、ルナ・サクヤ。

そして、その傍らに控えていた、神々しいほどに美しく、そして計り知れないほどの「慈愛」のオーラを放つ、銀髪の少女、アリア。

彼女が語る言葉の一つ一つに、ゼピュロスたちは息を飲んだ。


「…信じられん。我らの頭上に、何の気配もなく、あのような空間を顕現させただと…? それは、我らの知るいかなる神力とも次元が違う…」

ゼピュロスは、腕を組み、唸るように言った。その声には、未知の力への警戒と、そして何よりも、エルダをそのような危険な存在と一人で対峙させてしまったことへの、自責の念が滲んでいた。


「それだけではありませぬ」ガイアが、重々しく口を挟む。「ドン・ヴォルガ様ですら、その手にかかれば赤子同然。あまつさえ、その力を奪い、監獄惑星で『再教育』を施しているなどと…! 我々が束になってかかっても、勝ち目など万に一つもないでしょうな」

彼女の言葉には、ルナ・サクヤの底知れない力への、純粋な畏怖が滲んでいた。


「だが、お話を聞く限り、その月の女神は、ドン・ヴォルガ様のように、ただ力で我らを支配しようとしているわけではないように思える。むしろ、我々の『自主性』を重んじ、新たな秩序の構築を促している…そうではありませんか、エルダ様?」

星詠みのソラリスが、その知的な瞳を輝かせながら、的確な分析を口にした。

「ええ、その通りです、ソラリス」

エルダは、静かに頷いた。「彼女は、我々の未来を、我々自身に委ねようとしています。ただし、彼女の定める『絶対的なルール』――不当な搾取や理不尽な暴力を許さないという、彼女の『美学』に反しない限りは、ですが」


「美学、ですか…」

ゼピュロスは、その言葉の意味を測りかねるように、眉をひそめた。だが、彼の視線は、常にエルダの横顔から離れない。


「そして何より…」エルダは、言葉を続ける。「彼女の傍らにいた、あのアリアと名乗られた御方…あの方から感じた『慈愛』の力は、私の力を遥かに凌駕する、どこまでも純粋で、温かいものでした。まるで、この銀河の全ての悲しみを、その身に受け止め、癒やそうとしているかのような…」

エルダの瞳には、アリアとの出会いを思い出すかのように、深い感動と、そして共鳴の色が浮かんでいた。


「では、エルダ様。我々は、どうすべきだとお考えですか? あの月の女神の招待に応じ、天の川銀河へと赴くべきなのでしょうか? それとも…」

ガイアが、真剣な表情で問う。それは、彼ら全員が抱いている疑問だった。

ドン・ヴォルガの支配は崩壊した。だが、その代わりに現れたのは、さらに強大で、そして得体の知れない「神」。彼女の掌の上で、自分たちの未来を決断しなければならない。その重圧は、計り知れないものがあった。


エルダは、仲間たちの顔を一人一人見渡し、そして、最後にゼピュロスの瞳を真っ直ぐに見つめ返すと、静かに、しかし揺るぎない決意を込めて言った。

「…私は、行こうと思います。彼女の『庭』へ」

その言葉に、三柱の神は息をのむ。


「確かに、彼女の力は我々の想像を絶するものです。彼女の気まぐれ一つで、このギャラクシー・ギルドニア銀河の運命が左右されることもあるでしょう。しかし…」

エルダは、窓の外に広がる、ドン・ヴォルガの圧政によって輝きを失った星々を見つめた。

「このまま、ドン・ヴォルガが遺した負の遺産の中で、我々が互いに疑心暗鬼となり、新たな争いを始める未来を選ぶよりは、私は、彼女が示す『新しい秩序』の可能性に賭けてみたい。そして、あのアリアという御方と共に、この銀河に真の平和と癒やしをもたらすことができるのなら…私は、いかなる困難も受け入れる覚悟です」


「エルダ様…」

ゼピュロスが、感嘆の声を漏らす。そして、彼は一歩前に出ると、エルダの手を、力強く、しかし優しく握った。

「…ならば、私も共に行きましょう。エルダ様。あなたがどこへ行こうとも、私が必ずお側でお守りします。それが、私の…いや、我々の総意です」

その言葉には、同志としての忠誠だけでなく、一人の男神としての、エルダへの深い想いが込められていた。彼の熱い視線に、エルダの頬が、ほんの少しだけ赤く染まったように見えた。


「…私も、エルダ様とゼピュロス殿と共に行きましょう」ガイアが、二人の様子を、どこか微笑ましそうに(そして少しだけ呆れたように)見ながら、力強く頷いた。「ドン・ヴォルガ様の時代は終わったのです。我々は、新しい道を切り開かねばなりませぬ」

「星々の運行も、新たな時代の到来を告げています。月の女神の出現は、この銀河にとって、破壊ではなく『再生』の兆し。私も、その結末を、この目で見届けたい」ソラリスもまた、静かに同意した。


「皆さん…そして、ゼピュロス…」

エルダは、仲間たちの覚悟と、そしてゼピュロスの真っ直ぐな想いに、目頭を熱くした。

「ありがとう。では、参りましょう。我らギャラクシー・ギルドニア銀河の未来を、そして、我ら自身の運命を賭けて。月の女神が待つ、天の川銀河へ」


こうして、ドン・ヴォルガの圧政に苦しんできた「善神」たちは、一つの覚悟を決めた。

それは、未知なる神への、一方的な服従ではない。

自分たちの手で、新しい銀河の未来を築き上げるための、勇気ある一歩。



ルナ:「…ねえ、シロ。あのエルダとゼピュロスって神、なんかこう、見ててちょっと…ムズムズしない?」

シロ:『ルナ・ドミニオン。対象の二柱間の生体エネルギー反応及び、精神的波動に、地球人類が「恋愛感情」と呼称するパターンとの高い類似性を確認。観測データとしては、非常に興味深いものですが…』

ルナ:「そういうことじゃなくて! もっとこう、じれったいじゃない! 私が、ちょっとだけ『キューピッド・ストライカーズ』を派遣して、二人の仲を『支援』してあげようかしら! にひひっ!」

シロ:『…それは、外交問題に発展する可能性が極めて高い、過剰な内政干渉です。また、貴殿の精神負荷が増大する危険性も…。当システムとしては、静観を強く推奨します』

ルナ:「むー! シロは固いんだから! ちょっとくらい、いいじゃない!」

シロ:『...貴殿は、さくちゃんとアサヒ君の恋愛に悶絶し、枕に顔を埋めているではないですか。』

ルナ:「......」

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