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ひとりぼっちの最終防衛線(ラストライン)  作者: 輝夜
第八章:神々の激突、星屑の果て
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第五話:智略の誤算と、神の怒り


惑星「ジュピター・ライト」での神々の激突の裏側で。

天の川銀河へと侵攻を開始した「力ある者たちの連合」の艦隊は、十の船団に分かれ、それぞれが選定した目標へと突き進んでいた。グラビトン・リーパーの艦橋に、若頭ギデオンの冷徹な声が響き渡る。

「各船団、状況を報告せよ!」

「こちら第一船団! 目標星系の防衛網を突破! エネルギー吸収を開始します!」

「第三船団、完了! 順調に神力を吸い上げています!」

次々と上がる戦果報告に、ギデオンの表情はわずかに緩んだ。ドン・ヴォルガ総帥との連絡は依然として途絶しているが、艦隊の任務は着実に遂行されている。このままいけば、天の川銀河のエネルギーは、彼らの手中に収まるだろう。


しかし、その喜びは束の間だった。

ギデオンは、ホログラムに映し出される艦隊全体の神力レベルに、目を凝らした。微量ながらも継続的に低下していた神力は、今や、予想を上回る速度で減少し始めていた。まるで、艦隊全体が、目に見えない巨大な吸血鬼に血を吸われているかのようだ。

「バカな! この神力吸収効率は……! 我々の吸収システムが、逆に何かに吸い取られているのか!?」

彼の冷静な思考が、激しく軋む。この天の川銀河に仕掛けられた「罠」は、ドン・ヴォルガが単独跳躍で回避した「神力吸収フィールド」だけではなかった。彼らの侵入と同時に起動した、銀河全体を覆う、より広大で巧妙な「神力剥奪フィールド」が、彼らの神力を根こそぎ奪い始めているのだ。

「全艦に告ぐ! 神力レベルの急激な低下を確認! このままここに留まるのは危険だ! 各艦、神力吸収を停止し、直ちにワームホールを再展開、帰還せよ!」

ギデオンは、焦燥に駆られ、撤退命令を下した。しかし、時すでに遅し。


【月詠朔:神域(旧六畳間)】


ルナ・サクヤの脳内に、シロ(システム)からの淡々とした報告が響く。

『ルナ・サクヤ。対象:ギデオン率いる『力ある者たちの連合』艦隊、撤退行動を確認。しかし、神力レベル低下により、ワームホール再展開は困難と判断。』

ルナの口元に、冷徹な笑みが浮かんだ。

(ふふん。ようやく気づいたようね、ギデオン。だが、もう遅い。この天の川銀河に足を踏み入れた時点で、あなたたちはもう、私の掌の上なのよ)


彼女の瞳が、ホログラムに映し出される、ギデオン率いる艦隊を冷徹に捉える。そして、その艦隊を包み込むように、銀河全体に展開された「神力剥奪フィールド」を、さらに最大出力へと引き上げた。


『シロ。計画通り、銀河全体に展開済みの『神力剥奪フィールド(ルナ・エナジー・ドレイン)』を全域で起動。彼らが吸い上げたエネルギーは、全て回収。そして、彼らが持つ神力も、根こそぎ吸い上げてちょうだい。容赦はいらないわ』

ルナ・サクヤの瞳が、ホログラムのGG艦隊を冷徹に捉える。

膝に座るアリアが、ルナの腕に顔をうずめる。

『……お姉さま……。皆……消えていく……。』

アリアが、微かに首を傾げ、物憂げな声で呟いた。その瞳は、神々がその神力を失い、ただの人間に変貌していく様子を、どこか悲しげに見つめている。

ルナは、アリアの頭を優しく撫でた。

「ふふん。そうでしょう。私の『おもてなし』は、彼らにとっては最高の舞台だからね。神力を失った彼らは、もはや何の役にも立たないでしょうからね。まったく。私が手が取れなかったのを良いことに、結構好き勝手やってくれちゃったからねぇ。その見返りは、十分に受けてもらうわよ」

「アリアにも心配かけちゃったしね。ごめんね。予想していたよりは、大した奴だったわ」

ルナ・サクヤは、そう言って、アリアの頭を優しく撫でた。


その頃、天の川銀河の各宙域では。


ギデオンが撤退命令を下した、その直後。

艦隊を包む不可視のフィールドが、急激に神力を吸い上げ始めた。それは、微量な消耗などではなかった。まるで、肉体を内側から焼かれるような激痛。

「ぐあああああああああああああ!! し、神力が……力が抜けていく!?」

「うおおおおおっ!? 我が腕の力が……我が武具の輝きが……っ!?」

艦隊内部では、神力を誇っていた神々が、次々とその体から力が失われていくのを感じ、絶叫を上げた。彼らの神々しいオーラはみるみるうちに萎み、肌の色は蒼白になり、強靭だった肉体は細り、かつて神々しい輝きを放っていた武具は、光を失ったただの重い鉄塊と化していく。

(これは......!ドン・ヴォルガは敗れたという事か...命令無視してでも撤退するべきだった!こうなっては...くそ!)

ギデオンもまた、自身の神力が急速に失われていくのを感じ、膝から崩れ落ちた。彼の知略をもってしても、この現象は理解不能だった。この『神力剥奪フィールド』は、彼らがこれまで遭遇したどんな神力吸収技術とも異なり、神力そのものの『根源』から力を抜き去っていく。

(これが月の女神の真の力……!? 我々は、始めからこの罠に……ッ!)

彼の冷静な瞳に、絶望の色が滲む。ワームホールを再展開しようと試みるが、もはや神力をほとんど失った彼らには、その余力すら残されていなかった。


そして、艦隊内部では、コミカルなまでの混乱が勃発していた。

「うわあああ! 飛べない!? 俺の翼がただの飾りになってるぞ!」

「くそっ! 拳から炎が出ねえ! ただの殴り合いじゃねえか!」

「待て! その杖はただの木の棒だ! 魔法の詠唱など意味をなさぬ!」

剛の五十柱たちは、神力を失ったことで、自分たちの肉体が地球の「ただの人間」と同じになっていくことを理解できず、パニックに陥っていた。神力を失ったことで身体能力も低下し、彼らの間では、まさかの原始的な殴り合いが勃発。互いに、ただの拳や、もはやただの鉄塊となった武具で殴り合い、醜い争いを始めた。その姿は、先ほどまでの威厳ある神々とは、まるで別人のようだった。


【月詠朔:神域(旧六畳間)】


ルナ・サクヤは、メインコンソールに映し出される、ギデオン率いる艦隊の混乱ぶりを、満足げに眺めていた。

『ルナ・サクヤ。対象:ギデオン率いる『力ある者たちの連合』の神柱、99.8%が神力吸収フィールドによる脱神化を完了。残るは、若頭ギデオンのみ。彼の神力も、まもなく閾値に達します。』

シロ(システム)が、冷静に、しかし確信に満ちた声で報告する。

「ふふん、当然でしょ。人間を、いや、神を理解できない奴が、この銀河で好き勝手できると思ったら大間違いよ。それに、この『おもてなし』は、私にしか分からない『お遊び』の要素だもの。理解できるはずないわ」

ルナ・サクヤは、くすくすと笑った。


神力吸収フィールドの起動から、わずか数刻。

ドン・ヴォルガを欠いた「力ある者たちの連合」の大艦隊は、その全ての神力を吸い尽くされ、艦艇ごと、惑星の地表へと静かに降り立っていた。彼らの栄光は、今、天の川銀河の片隅で、無様に消え去ろうとしていた。

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