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ひとりぼっちの最終防衛線(ラストライン)  作者: 輝夜
第九章 神の箱庭、星々の対話
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第一話:神格再教育プログラムと宇宙植物バレー


【監獄惑星:神格再教育施設エリア】


神力を根こそぎ奪われ、ただの「人間」として監獄惑星に幽閉された、かつての「力ある者たちの連合」の神々。彼らの前には、無機質な白金の球体――システム(シロ)が静かに浮遊していた。

ドン・ヴォルガとギデオンが別室での「特別再教育」に送られて以来、残された五十柱の神々は、いつ自分たちに「神罰」が下されるのかと、恐怖と無力感の中で日々を過ごしていた。


『――これより、ルナ・サクヤ様からの新たな「神託」を伝達します』

シロの、感情の欠片もない声が、荒涼とした大地に響き渡った。

五十柱の神々は、びくりと肩を震わせ、一斉にシロへと視線を向ける。


『貴殿らには、今後、ルナ・サクヤ様の監督下において、天の川銀河内に潜伏する「侵食因子(コードネーム:亜)」の残党を捜索し、これを完全に排除する任務に従事していただきます』

シロが投影したホログラムに、彼らが駆逐すべき「亜」の残渣のデータが表示される。

神々の間に、どよめきが広がった。


「な、なんだと!? 我らに、あの月の女神の手下として働けというのか!」

神柱の一人、かつて剛腕で鳴らした武神ザルガスが、不満げに声を荒らげた。


『その通りです。ただし、これは罰則ではなく、貴殿らに与えられた「機会」です』

シロは、ザルガスの言葉を意にも介さず、淡々と続けた。

『任務遂行にあたり、貴殿らには、活動に必要最低限の「神力」を、当システムが管理する形で一時的に返却します。これにより、貴殿らは再び神としての力を限定的に行使することが可能となります』

その言葉に、神々の顔にわずかな希望の色が浮かんだ。


『しかし、この機会には、厳格なルールが付帯します。

第一に、ルナ・サクヤ様、及び当システムへのいかなる反逆の意志も、即座に検知され、その時点で貴殿は神力を永久に剥奪され、この惑星で永遠に過ごすことになります。

第二に、任務担当宙域において、現地の知的生命体に対し、かつて貴殿らが行っていたような不当な搾取や暴虐な行為を行った場合も、同様の罰則が適用されます。

これらを遵守し、任務において一定の成果を上げた者には、ルナ・サクヤ様からの、さらなる「機会」が与えられる可能性もあります。…選択するのは、貴殿ら自身です』


それは、まさに「飴と鞭」。

絶対的な支配者の下で、忠誠と成果を示すことで、わずかながらの自由と力を取り戻す機会を与えるという、巧妙な統治システムだった。

神々は、互いに顔を見合わせ、それぞれの思惑を巡らせる。抵抗か、服従か。選択の余地は、もはやないに等しかった。


【月詠朔:神域(草原のティールーム)】


「ふふん、まあ、こんなものでしょ。これで、あの五十柱も、少しは真面目に働くようになるんじゃない?」

ルナ・サクヤは、神域のテラスで、ドン・ヴォルガたちの「再教育」の様子を眺めながら、満足げにコーヒーを飲んでいた。

彼女の視線の先には、かつてドン・ヴォルガを捕らえた、あの「食虫宇宙植物ウネウネ」が、今は監獄惑星の片隅で、主からの命令を待つように、その無数の触手を静かに揺らめかせている。


「それにしても、この子たち…せっかく創ったのに、ドン・ヴォルガを捕まえただけでお役御免じゃ、ちょっと勿体ないわよねぇ。何か、有効活用できないかしら…」

ルナは、顎に手を当て、少し考える素振りを見せた。そして、彼女の脳裏に、地球の「ファンタジーゾーン」で見た、人間たちの「スポーツ」という娯楽の記憶がよぎった。


「……そうだわ! バレーボール! あのウネウネした触手、レシーブもトスもスパイクも、全部同時にできそうじゃない! にひひっ、面白そう!」

彼女の、神としての壮大な「遊び心」が、再び火を噴いた。

「シロ! 急いで、この監獄惑星の隣の小惑星に、宇宙植物用の巨大なバレーボールコートを設置して! ネットの高さは…そうね、とりあえず500メートルくらいかしら? あと、ボールは、私が特別に『ルナティック・フォース』を凝縮して作った、ちょっとだけ弾むやつを用意するから!」


『……了解しました、ルナ・サクヤ。ただちに、指定された座標に「多目的宇宙球技場(仮称)」を建設します。…なお、その目的と、宇宙植物の競技適性に関するデータは、当システムのデータベースには存在しませんが…』

シロの、わずかな困惑を滲ませた声も、今のルナには届かない。

数時間後、監獄惑星の隣には、白く輝く巨大なバレーボールコートが、まるで神の悪戯のように鎮座していた。そして、そのコートの上では、グロテスクな見た目の宇宙植物たちが、ルナ・サクヤからの命令に従い、健気に、そしてどこかぎこちなく、巨大な光のボールを打ち合っていた。その光景は、あまりにもシュールで、コミカルだった。

「うんうん、いい感じ! 触手が多いから、とりあえず2対2で、6チームに分けてリーグ戦でもさせてみようかしら! 大会名は…『第一回ルナ・サクヤ杯・宇宙植物バレーボール・チャンピオンシップ』! 完璧ね!」

ひとりぼっちの神様は、その新しい「娯楽」に、心の底から満足していた。


しかし、その数日後。

五十柱の神々が、それぞれの任務地へと派遣されると、案の定、問題が発生した。

特に、あの武神ザルガスは、与えられた神力を笠に着て、担当星系の知的生命体に対し、再び横暴な振る舞いを始めたのだ。


『ルナ・サクヤ。対象:武神ザルガス、任務を逸脱し、担当星系の原住民に対し、不当な「貢物」を要求している事実を確認。ルール違反です。罰則の適用を申請しますが、具体的な罰則内容について、ご指示をいただけますでしょうか?』

システム(シロ)からの報告に、ルナは「ああ、やっぱりね」と、ため息をついた。

「うーん、そうねぇ…。また神力を奪うだけじゃ、芸がないし…。何か、もっとこう、彼のプライドを木っ端微塵に砕いて、二度と逆らえないようにするような、面白い『お仕置き』はないかしら…」

彼女は、顎に手を当て、楽しげに思案を巡らせる。そして、視線の先に、今まさに白熱した試合(?)を繰り広げている、宇宙植物たちの姿が映った。


「……あ。そうだわ」

ルナの口元に、悪魔的な笑みが浮かんだ。

「ねえ、シロ。あの宇宙植物バレー、最近ボールがちょっと傷んできたところだったじゃない? 代わりに、あのザルガスを『ボール』にしちゃえばいいんじゃないかしら? 彼のその頑丈な体、ボールには最適でしょ? にひひっ!」


その提案に、シロ(システム)は、観測史上初めて、約0.5秒間、完全にフリーズしたという。

『……………る、ルナ・サクヤ。その提案は…あまりにも…独創的すぎます。しかし…論理的矛盾はなく、かつ、対象への精神的ダメージは最大級と算出されます。…罰則として、承認します』


かくして、武神ザルガスの下に、ルナ・サクヤからの「神罰」が下された。

彼は、抵抗する間もなく、その体を球体状に圧縮され、そして、宇宙植物たちが待ち受けるバレーボールコートへと、文字通り「投下」された。

「ぎゃあああああああ! な、なんだこれはぁぁぁ! や、やめろぉぉぉ!」

ザルガスの悲鳴を合図に、宇宙植物たちの、壮絶な(そしてコミカルな)アタックとレシーブが始まった。彼の体は、無数の触手によって、容赦なく、しかしどこか楽しげに、コート中を打ち付けられ続けた。

この「神罰」は、瞬く間に他の神柱たちの知るところとなり、彼らを恐怖のどん底に突き落とした。

「神を…ボールに…だと…?」

「あ、あの月の女神は、悪魔だ…いや、悪魔ですら、もっと慈悲深い…」

それ以降、任務地で不正を働こうとする神は、激減したという。


そして、その一方で。

五十柱の中には、真面目に任務をこなし、着実に成果を上げる者もいた。特に、かつてドン・ヴォルガの参謀の一人だったという賢神ソロンは、その知略を活かし、「亜」の残党の巧妙な隠れ家をいくつも発見し、無力化していた。


『ルナ・サクヤ。賢神ソロンより、任務完了の報告。彼の功績は、他の神柱と比較し、極めて顕著です』

シロからの報告に、ルナは「へえ」と、少しだけ感心したような声を上げた。

「まあ、ドンがあれだったから、力で抑えつけられてたか、あるいは世渡り上手なだけかもしれないけど…面白いじゃない。シロ、そのソロンとやらに伝えておいて。『あなたの働き、ちゃんと見てるわよ。このまま成果を上げ続ければ、いずれ、もっと大きな『チャンス』をあげなくもないわ』ってね。飴と鞭は大事だし、本当に役に立ちそうなら、使ってあげなくもないんだから」


ひとりぼっちの神様の、気まぐれで、そしてどこか歪んだ「神格再教育プログラム」は、こうして、恐怖と、ほんの少しの希望を振りまきながら、今日もまた続いていくのだった。

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