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ひとりぼっちの最終防衛線(ラストライン)  作者: 輝夜
第八章:神々の激突、星屑の果て
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第四話:月の女神の逆襲と、消えゆく栄光


ディープ・エコーの艦隊が、ルナ・サクヤからの「歓迎プロトコル」によって強制的に異銀河へと送り還されてから数日。

天の川銀河の入り口宙域に停止していた「力ある者たちの連合」の大艦隊は、突如として総帥のドン・ヴォルガからの連絡が途絶したことに、一瞬の動揺を見せた。


グラビトン・リーパーの艦橋には、若頭ギデオンが、冷静な、しかしその瞳の奥に微かな焦りを宿しながら、ホログラムに映し出される状況を睨んでいた。

「総帥との通信が途絶したか……。月の女神め、何をしてくれた……」

彼の脳裏に、ディープ・エコーが持ち帰った「奇妙なノイズ」と、ドン・ヴォルガが単独跳躍を敢行した際の不穏な神力パターンが駆け巡る。ドン・ヴォルガほどの存在が、何の音沙汰もなく姿を消すなど、常軌を逸している。


ギデオンは、すぐさま艦隊の状況を把握した。

「全艦、神力レベルを報告せよ!」

彼の声に、剛の五十柱の神柱たちから、次々と報告が上がる。

「艦長! 我が神力レベル、微量ながらも継続的に低下しています! 原因不明です!」

「我々の艦を覆う空間に、奇妙な『歪み』を感じます! まるで、見えない網に絡め取られているかのようです!」

神柱たちの声には、動揺と困惑が滲む。彼らの肌は、僅かに蒼白になり始めていた。


ギデオンは、ホログラムに映し出される艦隊周囲の空間を凝視した。微細なエネルギーの揺らぎが、艦隊全体を、まるで巨大な蜘蛛の巣のように包み込んでいる。それは、天の川銀河に侵入する際に開いたワームホールから、ルナが仕込んだ「徐々に神力を奪う」不可視の罠が、本格的に稼働し始めた兆候だった。

(月の女神め……! 神力吸収フィールドが、こんなにも巧妙な形で仕込まれていたとは……! このままここに留まれば、総帥の二の舞になるやもしれぬ……!)

ギデオンの冷静な思考が、危機を明確に認識した。この状況で、ドン・ヴォルガの安否を気遣い、艦隊を停止させたまま留まるのは愚策だ。


「全艦に告ぐ! 総帥の安否は不明だが、この宙域に留まるのは危険と判断する! 月の女神の真の狙いは不明だが、この銀河の防衛網は、我々の神力を削ぎ、動きを封じるためのものだ!」

ギデオンの声が、艦隊中に響き渡った。

「各艦隊、十に分かれ、それぞれ異なる方向へ進出せよ! 各々の神力吸収システムを最大展開し、手近な星系のエネルギーを確保せよ! 進軍を開始する!」

ギデオンは、即座に、しかし大胆な決断を下した。彼の目的は、ドン・ヴォルガの捜索よりも、艦隊の現状維持と、天の川銀河のエネルギー確保へと切り替わっていた。それは、撤退ではなく、より広範囲への「侵略」の開始を意味する。


ドン・ヴォルガを欠いたまま、剛の五十柱を擁する「力ある者たちの連合」の大艦隊は、十の船団に分かれ、天の川銀河へと本格的な進軍を開始した。彼らは、個々の星系の防衛網を突破し、手当たり次第にエネルギーを吸収し始めた。


天の川銀河内の防衛拠点は、異銀河からの侵攻を察知し、応戦を開始した。

「警告! 未知の艦隊が接近! 銀河防衛プロトコルを起動!」

ルナが構築した観測ステーションや、自動防衛プラットフォームが、ルナ・サクヤからの指示が途絶えた中で、自動的に攻撃を仕掛ける。しかし、それは散発的で、組織的な連携を欠いていた。個々の防衛プロトコルがバラバラに発動しているに過ぎない。


その頃、ルナ・サクヤの神域では。


ルナは、ジュピター・ライトでのドン・ヴォルガとの激戦に集中し、神域のメインコンソールは、その戦闘のリアルタイムデータを映し出していた。ルナの全意識が、ドン・ヴォルガの神力解析と、彼の「絶対排斥」を破るための術式構築に注がれている。

膝に座るアリアは、ルナの腕にそっとしがみつき、その瞳は、ジュピター・ライトの戦況を映し出し、微かに揺らいでいた。ルナの苦悶、ドン・ヴォルガの猛攻……アリアは、その全てを共有し、無意識のうちに、ルナの思考の補助を試みている。


『警告! ルナ・サクヤ! 天の川銀河、広範囲における神力低下を確認! 複数の防衛プロトコルが過負荷状態! エネルギーバランスが……』

シロ(システム)の報告が、ルナの脳内に響く。しかし、その声は、ドン・ヴォルガとの激戦の合間に、まるで遠いこだまのようにしか聞こえなかった。

(……シロ……今は、ドン・ヴォルガとの決着が最優先。彼らの艦隊が『神力吸収フィールド』に入った影響でしょう。時間稼ぎしておいて……)

ルナは、シロの警告を、ドン・ヴォルガとの戦いによる「余波」だと判断し、深くは気に留めなかった。彼女の意識は、目前の絶対者ドン・ヴォルガをいかに攻略するか、その一点に集中している。システムも、そのルナの意図を汲み取り、ドン・ヴォルガとの戦いに必要なリソースを最大限に集中させていた。


剛の五十柱の神柱たちは、天の川銀河の防衛網からの散発的な攻撃をものともせず、意気揚々と各々の攻略対象へと突き進む。彼らの瞳には、ドン・ヴォルガの安否よりも、目の前の未開のエネルギーと、功を焦る野心が燃え盛っていた。

ディープ・エコーは、その様子を、内心で悪寒を感じながら見ていた。彼には分かっていた。この「月の女神」が、こんな状況を放置するはずがない、と。だが、彼自身もまた、ドン・ヴォルガからの命令により、艦隊の先頭に立たされ、神力を奪われる恐怖と、故郷の銀河への恐怖の間で、身動きが取れずにいた。


天の川銀河の宙域は、ルナとドン・ヴォルガの激戦の影響で、奇妙なほど歪み、その中で、異銀河からの侵略の波が、静かに、しかし確実に広がっていった。

ルナ・サクヤの神としての全意識が、目の前のドン・ヴォルガという「一点」に集中している間、彼女の掌からは、知らぬ間に銀河の広大な領域が、わずかに、しかし着実に「手放され」始めていた。


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