プロローグ 前編
閲覧ありがとうございます。
この物語は、古代エジプトを舞台にしています。(現代の日本やエジプトも出てはきますが短めです)作中にて実際に活躍した古代エジプトの人物も出てきますが、完全に作者の妄想であり、実在しないキャラクターも出てきます。
ゆえに、この物語はフィクションですのでご了承ください。
また、他の小説投稿サイトにてキャラクター設定及びストーリー展開を少し変えた物語を掲載中です。
少しでも多くの方に読んで頂けたら幸いです。
* * *
「………き__柚月ってば私の話、聞いてた!?」
ある日の下校途中のこと____。
少し大きな親友の声で、ハッと我にかえる。
考え事をしていたせいで上の空になっていたため、親友の内の一人である《星野美紀》の声が聞こえてこなかった。
「ごめん、美紀……ちょっと考え事してて聞いてなかった」
「もうっ……そういうところは昔から変わってないんだから。まあ、私は慣れっこだから平気だけど……まあ、いいや。あのね、私が話したかったのは進路希望の話で柚月は将来どうすんのってこと!!」
「え……っ………!?」
唐突な美紀の言葉に、思わずびっくりして言葉が詰まってしまう。ちょうど考え事をしてた内容というのがそれに関連することだったからだ。
「ゆっきーは、もう決まってるでしょ?だから、あたし達みたいに考える必要なんてないんじゃないかな。美紀ちゃんだって、それは分かってるんじゃない?」
すかさず、美紀の隣にいるもう一人の親友の《月峰汐織》が代わりに答えてくれる。
「そっか。そうだよね……もちろんさ、私だって柚月の将来が既に決まっていることなんて知ってたよ?でも、私が言いたいのはそういうことじゃなくて___」
美紀は、動揺を誤魔化しつつも再び進路希望についての会話をし始める。
しかし、突然会話を止めてしまい黙り込んでしまったため、柚月は美紀が凝視している方向へ目線を向ける。
そこには、禍厄地蔵が祀られているが、異様な程に熱心な老人達が毎日お祈りを捧げに通っているため村の中でも《近寄り難い場所》とされている場所だ。
ただ、中には罰当たりな輩もいる。
「げっ……あれって、相馬家の箱入り娘じゃんか」
「うわっ、やっべえ!地蔵に悪戯しようとしてたのバレちまったかなぁ。あいつん家の父親にバレたらやばいって村中の噂だもんな」
「はぁ〜……何だよ、それ。あんなお嬢様のイメージとは程遠い気の強そうな奴が何だってんだよ……だったら、もう一人の清楚系お嬢様の亞夜子さんの方がよっぽどイイっつーの!!」
三人の罰当たりな男子学生が、賑やかに話していたが、やがて柚月の容姿を馬鹿にした一人に他の二人が「馬鹿なこと言ってんじゃねえよ」「相馬の娘を侮辱したら、おっかねえ父親がこの村からお前達一家を追放しちまうからな?」などと激しく言いながらそそくさと去って行った。
そんな様子を見て、ため息をつく柚月。
柚月にとっては、昔から村に鎮座する《禍厄地蔵》という存在よりも《相馬家の一人娘》という肩書きの方がよっぽど厄介だ。
《禍厄地蔵》には、意図的に近付かなければいい。
だが、自分が《相馬家の一人娘》ということは逃れようがない運命だ。ましてや、まだ高校二年生でお金は湯水の如くあるけれども、世間知らずで完全に自立してるとはいえない。
つまり、今親元から離れても自由にはなれない。
柚月の将来は、生まれながらにして決められている。
村の中でも屈指の名家である金守家――さっき学生達が話していた【もう一人のお嬢様】である亞夜子の兄の《金守祐人》と結婚して絵に描いたかのような良妻賢母になることだ。
(いけない……何か別の話題は____)
このままだとメンタルがドン底にまで落ち込んでしまい、日頃から抱えている自己嫌悪が更に酷くなってしまう。
そして、それだけで済めばまだいいが最悪の場合、大切な親友にまで迷惑をかけてしまい兼ねない。
さりげなく他の話題へと移すべく美紀の方へ視線を向けた時に――ふと、あることに気がついた。
少し茶色がかったポニーテールがチャームポイントの彼女がいつも付けているのは赤いリボンだ。
しかし、今日付けているのは二番目にお気に入りだという黄色いリボンであり、とある事情によってこだわりの強い彼女にしては珍しい。
「あのさ、美紀……今更だけど、いつも付けてるお気に入りの赤いリボンはどうしたの?」
「ああ、白石さん家のおばあちゃんから貰ったやつね。それがさあ、どっかにいっちゃったんだよね。きっと今日の体育の授業で外した後だと思うんだけど、あれからずっと探してるのに見当たらないの。ロッカーのいつもの場所に、きちんと置いといた筈なのになぁ……」
几帳面な彼女にしては、やはり珍しい。
今は亡き白石さんのおばあちゃんに幼い頃から良くしてもらっていた美紀は赤いリボンだけは失くさないようにしないと――と常日頃から気をつけていた。
(それが急に失くなるなんて……まるで____)
「美紀ちゃん、それってきっと何か特別なことが始まる前触れってやつじゃない?あたし、この間オカルト番組のラジオで似たような話しを聞いたんだよね〜」
柚月の思っていることを汐織が代弁してくれた。それも、少々興奮気味に____。
汐織は根っからのオカルト好きで、クラスメイトの一部の男子達や先輩と後輩に至るまで虜にしている癖に変わった趣味があるためハートを射止めるには中々敷居が高いと評判なのだ。
「そういえばね、あたしにも変だなって思うことがあったんだ。あたしは触ってないのに箱に保管してあるタロットカードが一枚だけキレイに真っ二つに破れちゃったんだ。ねえ、ゆっきーはどう思う?これも何か起こる前触れだと思う?」
「う〜ん、そういったオカルトなことはちょっと分かんないなあ。そういやさ、世界史のサカセンもオカルト好きじゃん?明日の授業で聞いてみれば?」
「も〜、柚月ってば……。また適当なこと言っちゃって!!確かにオカルト好きだけど鬼のサカセンなんかに言ったって無駄でしょ。余計なこと考えず勉強しろって説教くらうのが目に見えてるって____」
三人の楽しげな会話は、夕暮れ時の蝉しぐれに紛れて徐々に小さくなっていく。
そして、やがて三人は各々の帰路へとつくのだった。
* * *
次の日____。
それは、鬼のサカセンが行う世界史の授業中に起こる。
あれだけ、美紀から忠告を受けていたにも関わらず鬼のように恐ろしいサカセンの授業中に、あろうことか居眠りをしてしまったのだ。