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マリオット  作者: 古村あきら
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第95話

 週末の休みを利用して、彩羽は涼太の実家へ行ってみることにした。レンタカーを借り、涼太と行った道を辿る。景色が開け、窓から気持ちの良い風が入る。しかし、近づくにつれ彩羽の気持ちは重く沈んだ。

 涼太の実家は玄関に鍵がかかっており、人のいる気配はなかった。記憶をたどり、 涼太の幼馴染である山本龍一の家を訪ねてみたが既に引っ越した後で、やはり鍵のかかった家と、荒れた庭だけが残されていた。

 樹海の入り口に立つと、自殺防止の看板があった。他にも借金返済の手助けを謳った、電話番号が書かれた看板が目についた。ガードマンに声を掛けられる前に一旦立ち去り、見つからないよう目立たない場所に車を止めた彩羽は、バリケードが切れていた場所を探して樹海の周囲を歩いた。灰色の板が視界を隠す。遠くで風が鳴った。

 不思議なことに、いくら歩いても、あの建物どころか火事の跡にさえ辿り着けなかった。同じ道を歩いている筈なのに、見える景色は何故か違って見えた。彩羽はやみくもに歩き続け、涼太の名を呼んだ。

 結局ガードマンにつかまり、説教されて帰される。無力感に打ちのめされながら、彩羽は帰途に就いた。


 その後何度か、彩羽は樹海に足を運んだ。レストハウスの展望台から双眼鏡を覗いても建物の影も形もない。まるで綺麗さっぱり消えてしまったようだった。迷わされている、そんな気がした。人が入らなくなった樹海は、いつしか迷いの森の本性を取り戻したのか。

 情報が欲しかった。彩羽は毎日仕事から帰ると深夜までサイトを検索した。内容に引っ掛かるものがあればコメントを送る。サイトはすぐに閉じられ、いたちごっこが続いた。

 寝不足が祟ってか、彩羽は体調を崩した。なんとか一日を乗り切って自宅に戻った彩羽は、熱っぽい身体をベッドに投げ出した。手探りでスマホを掴む。「出来なかった」は言い訳だ。過去の出来事はすべて彩羽自身が招いたことだ。同じ轍は踏まない。必ず探し出して見せる。彩羽はスマホを握ったまま意識を失った。

 夢の中で涼太からラインが来ていた。「どこにいるの?」という彩羽の問いに返って来た答えは、「file not found」。

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