第8話
人気のなくなった夜の商店街に美紀は立っていた。灯りは消え、その輪郭さえもはっきりしない。
「ご満足いただけましたか」
狐面をつけた着流し姿の男が尋ねる。美紀は男に向かって軽く頭を下げた。
「ええ、とても。有難うございました」
「では、行きましょうか」
美紀は、ぽつぽつと灯りの点いている小学校の校舎に目をやった後、ゆっくり男に向き直り、微かに笑みを浮かべた。
「了解」
※
山口先生は転勤になりました。
夏休み明けのその一言が、つばさ達四人と美紀の別れだった。理科室には新しい男性教師が入り、ビーカーのコーヒーも試験管のジュースも姿を消した。子供たちは日常に飲み込まれ、再び変わらぬ毎日が繰り返される。商店街は一時的に活気を取り戻したが、やがてまた十年一日の寂れた景色に戻っていった。
「山口先生、どこ行っちゃったんだろうね」
屋上の柵にもたれ、りりが呟いた。クリスタルの髪留めが光を弾く。
「さあな、元気だといいけど」
先日から声変わりが始まり、かすれ声のつばさが答えた。
「きっと、また会えるよ」
掛けはじめたばかりの眼鏡の位置を直しながら、あんじゅが笑う。
長い髪を風に揺らし、ひまりが振り返った。
「うん。みんなで会いに行こうね」
屋上から赤い鳥居が見える。長く続く階段の下から、二つに分かれて延びる商店街。その先の地平線に、夕日が沈もうとしていた。
Shoutengai no Himitsu