第85話
「僕が五年生の時、両親は消えてしまったんだ」
緩くハンドルを切りながら、涼太は言った。
「三人で樹海の散策に行って……。樹海って怖そうなイメージがあるけど、実は観光用の遊歩道なんかもちゃんとあってね。あった、って言うべきなのかな、今は封鎖されてるから」
「ご両親は」
「一週間経って、僕だけが戻って来たらしい。病院で目を覚ました時、記憶がすっぽり抜け落ちていて、おまわりさんに何を聞かれても全く答えられなかった」
カーブを曲がり、真っ直ぐな道に出る。
「日本の行方不明者は一年で八万人発生するんだってね。警察の人が言ってた。父さんと母さんは、その中の二人になってしまった」
涼太は感情を高ぶらせるでもなく、淡々と続けた。
「立ち退きの関係で相続の手続きが必要になって、先日裁判所に失踪宣告の申請をしたんだ。言わないでおこうと思ってたんだけど。ごめんなさい」
何で涼太が謝るのよ。彩羽は唇を噛んだ。取り残された者の行き場のない思い。彩羽のそれと、同じと思っていいのだろうか。
「楽しいドライブになるはずだったのになあ」
涼太はそう言って、少しスピードを上げた。