第7話
提灯の灯りが消え、あたりが真っ暗になった。黒い箱が微かなうなりを上げ、路地の闇に光の粒が出現した。
八百屋と魚屋の間、真っ暗な路地から何頭もの蝶が現れ、光の鱗粉を散らしながら左右に広がり飛んでいく。店のシャッターが瞬く間に姿を変え、賑やかな縁日の風景が現れた。その前を風鈴を載せた大八車が通り抜け、笛や太鼓を吹き鳴らすチンドン屋が観客に手を振る。
一瞬、視界が暗転した。
「あ、あれ!」
あんじゅが指さす。そこには狐の面をつけた着流しの男がいた。男の口が耳まで裂ける。
「キャーッ!」
叫んだりりの背中を、美紀が受け止める。
「プロジェクションマッピングよ。凄いでしょう」
「プロジェクション……」
マッピングというところで、四人の声が揃った。テレビで見たことがある。壁や建物に映像を映し出すやつだ。子供たちの目が輝く。
怪しげな妖怪が次々と出現し、ろくろ首がこちらに向かって飛んでくる。足を縺れさせ転びそうになったつばさを、また美紀が支えた。
無数の光の玉が転がり、それぞれが形を変える。狸が化けたようなコミカルな妖怪が多数現れ、巨大化して通りを練り歩く。少々怯えていた子供たちに笑顔が戻り、身を乗り出してそれを見詰める。
巨大な龍が身体をうねらせ、奇怪な鳥が羽ばたく。百鬼夜行。それは楽しくもあり、おどろおどろしくもあり、美紀が子供の頃、暗闇の中に見た来訪神の姿でもあった。
ふと、笙の音が聞こえた。
路地の中にぼんやりと提灯の灯りが見えた。それは一つ二つと増えていき、列となった。いつの間にか妖怪たちが姿を消した薄闇の中、狐の面を着けた者たちの行列が現れる。聞きなれない笙の音が響き、観客たちは固唾をのんだ。
狐の行列の後方に輿があった。
「嫁入りだ」
誰かが言った。
狐の嫁入り行列は静々と通りを進み、神社の石段に姿を消した。
突然、神社の方向に光が見えた。それは真っ直ぐに上へ向かい、夜空に大きな花を咲かせた。
「トリは花火だよな、やっぱり」
時計屋のおやじが言う。子供たちは空を見上げ、口々に歓声を上げた。
次々と花火が上がる。人々の歓声と拍手に送られて、夏祭りは大成功のうちに幕を閉じた。