70/109
第67話
「本名は、一色・アレクサンドル・大輔といいます。サーシャは、アレクサンドルの愛称です」
ホーリーネームじゃなかったのか。
初夏の日差しが降り注ぐテラスで、真珠色の髪がキラキラと光った。言葉を無くしている日下部を見て、大輔はふと視線を下げた。
「やっぱり変ですよね」
寂しそうな声だった。
「先生は褒めてくださいますが、僕はあまり好きではなくて」
日下部は手を伸ばし、大輔の頬に触れた。半年前より少し丸くなった頬に赤味が差している。柔らかな感触に、つい笑みがこぼれた。
「綺麗だ」
思わず出た言葉だった。大輔が顔を上げる。その後なぜか、困った様に目が伏せられた。
睫毛もブロンドなんだな。
初めて気付いた。切れ長に見えたのはそのせいか。よく見ると大輔の眼は、ぱっちりした二重瞼だ。大きなアーモンド形の、猫を思わせる……。
嘘だろ。
愕然とする日下部を置いて、大輔は家の中に戻ってしまった。