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マリオット  作者: 古村あきら
Sleeping Beauty
55/109

第52話

「何をしている!」

 誰何する声と共に複数の足音が押し寄せ、鋭い目つきの男達が日下部の前に立ちはだかった。

「仕方ねえ。悪く思うなよ」

 飛び掛かってくる男の首に手刀を叩きこむ。一人、また一人。騒ぎが大きくなるにつれて足音が増えてくる。早くしろと扉に目をやった時だった。人波が二つに割れた。

 遠くに白い影が見えた。

「あいつ」

 暗がりに一本の線を引くように、姿勢を低くした一色が廊下を駆け抜け、日下部に迫る。

「引っ込んでな」

 首根っこを捕まえようとした手がするりと躱された。壁を蹴った白装束が宙を舞う。次の瞬間、鳩尾に強烈な蹴りが入った。床に崩れた日下部がげえげえとえずくのを、一色が能面のような顔で見下ろした。拳が握られ、まさに振り上げられようとしたとき、後ろの扉が開く音がした。

「逃げろナンブツ」

 こいつ、マジでやばいぞ。

 再び白装束が跳ぶ。振り向く間もなく、日下部は伊佐坂が倒れる音を聞いた。

「サーシャやめて!」

 悲鳴のような声がした。ようやく体の向きを変えると、倒れている伊佐坂を庇う様に膝をつく後藤美咲の姿があった。

「母が病気なの。お願い、家に帰して」

 懇願する美咲の前に立つ一色の肩から力が抜け、握った拳が開かれる。呆然とした表情で立ちすくむ一色を押しのけ、信者たちが美咲の両腕を掴み引き立てた。一色が手を伸ばす。

「離せ」

 掠れた声だった。伸ばされた手を、暗い目をした男が撥ね退ける。

「引っ込んでろ!」

 先程の日下部と同じセリフだった。信者の一人が一色に殴りかかろうとした途端、白い影が翻り、男たちがバタバタと倒れた。

「凄え」

 追い切れなかった。

「自分が何をしたのか分かっているのか」

 低い声が響き、大勢の男たちが華奢な体を取り囲む。中には棒状の武器を手にしている者もいた。

 すうーっと息を吐き、一色が体勢を整える。

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