第51話
当初予定されていた教主との顔合わせは何故か翌日に持ち越しとなり、参加者は 風呂に入った後、男女分かれて宿泊用に用意された部屋に落ち着いた。
九時という病院並みの消灯時刻を過ぎても、参加者達は和やかに交流を続けていた。興味本位で参加した者、深刻な事情を抱えている者、それぞれに自分の身の上を少し飾った言葉で伝え合っている。話し掛けられるのを避けて早々に狸寝入りを決め込んだ伊佐坂に倣って、日下部も布団に潜り込んだ。暖房のせいか、すぐに眠気が押し寄せてくる。大した間を置かず、日下部はいびきをかいていた。
「日下部さん。起きてください」
小さく身体を揺すられ、日下部は目を開けた。
「何時だ?」
「十二時です。行きましょう」
すっかり寝静まった参加者達を起こさないよう忍び足で部屋を出た二人は、あたりを伺いながら薄暗い廊下を通り突き当たりの扉に着いた。やはり施錠されている。
「任せるぜ、プロに」
旧式の鍵穴に針金を差し込み、伊佐坂はあっという間に解錠し扉を開けた。再び長い廊下が現れる。庭に面したガラス戸は壁になり、視界はより一層暗さを増した。
しばらくして暗闇に慣れた目に、学生寮のような扉の連なりが見えた。並んだ部屋の前を通り抜けると二階に続く階段があり、その向こう、廊下の突き当りの暗闇に、もう一つ部屋があった。扉の上の明り取りの窓に鉄格子がはまっているのが見えた。扉に張り付き、すぐさまピッキングを始めようとした伊佐坂の手が止まる。
「電子錠かよ」
カバーを外し、スマホから線を繋ぐ。明滅する光が眼鏡のレンズに移り込み、カーブに沿って流れていく。
十分が過ぎ十五分が過ぎ、伊佐坂の顔に焦りの色が浮かぶ。
「映画みたいには行かねえよな」
日下部が呟いた時だった。
「開いた」
ドアノブをそっと動かし、薄く扉を開ける。
「いました」
そう言って伊佐坂が部屋に入った時だった。