第3話
『蝶は一頭二頭って数えるのよ』
誰が言ってたんだろう。
『どうして?あんなに小さいのに』
これは私の声。
『そうね、不思議ね』
暗闇に光の鱗粉を散らしながら蝶が舞う。
カーソルを叩いてスクリーンセーバーを消し去り、美紀は目頭を押さえた。
「山口先生、気にしてないかな」
心配そうに、りりが言う。
「大丈夫だって。それに最近残業で疲れてるみたいだから、少しでも休めるんじゃね?」
そう返したつばさは軽くあたりを見回し、声をひそめた。
「よし、作戦会議だ」
場所は八百屋と魚屋の間、時間は深夜零時ちょうどに、それは現れるらしい。
「いきなり突入はマズいよな」
「偵察は必要だ」
「夜中に散歩するふりして見てこようか」
そう言ったつばさに、三人が揃って首を振る。
「危ないよ」
「小学生が夜中に散歩なんてバレバレじゃん」
「安全第一でいこうよ」
四人はそれぞれに頭に手を置き、押し黙った。
「窓から見えたらいいんだけど、つばさの家からは遠いし、ひまりん家は反対側だしなあ」
真向いの時計店は子供嫌いの頑固じじいが結構遅くまで灯りを点けている。
「隠しカメラでも仕掛けられたらいいんだけど」
「探偵七つ道具みたいな?」
茶化しかけたあんじゅが急に真顔になった。
「その手があったか」
皆の視線を集めたあんじゅがポケットから取り出したものを見て三人が頷く。
「それで行こう」