第19話
「安東、説明しろ。何がどうなった」
感情を抑えながらそう言った圭一に、安東がまたもや罪のない笑顔を向ける。
「だから意気投合したって言ったじゃないか。あのおっさん、悪い奴じゃないぜ」
氷を入れるついでに安東が向かいの椅子に移動し、ウィスキーの黒い瓶を手に取った。
「何者なんだ、あいつ」
トクトクと瓶が音を立てた。
「公務員だって言ってた。以前は毎日銃器を触るような部署にいたけど、別の所に異動になったとか」
「日常的に武器を扱うところっていうと」
「マル自とかマル機とか、あとアルファベット三文字のところとか?」
圭一のグラスにもウィスキーが注がれる。
「で、今は何を」
「知らねー」
陽気に言って、安東は笑った。
「八王子に家があるから遊びに来いって。手料理御馳走するからって言ってた」
日下部の風貌と、手料理という言葉がかみ合わない。
「ああ、奥さんの手料理ってことか」
それなら分かる。
「いや、あの人は独身だよ。っていうか女には興味が無いんだって」
「……へえ」
「ジルベールみたいな儚げな美少年が好みなんだって。そんなの現実にいるわけないだろって言ってやったら、『そうだよな』ってしょげてた」
何と言うか、知らない世界の話だ。もちろんジルベールは知っているけど。
「ふーん。で、山口美紀のことは」
「知らねー」
安東は背もたれに腕を置き、グラスを口に運んだ。
「お前、それだけデリケートな個人情報を聞き出しときながら、肝心なことは何も聞けてないのか」
呆れてものが言えない。圭一は溜息をついてグラスを空にした。
「しばらく時間をくれってさ。色々事情があるみたいだ。出来るだけのことはするからって言ってくれた」
安東はグラスを置き、真顔で圭一を見た。
「俺はあの人を信用していいと思う」
根拠のない言葉だった。けれど。
「そうか。お前がそう言うなら、きっとそうなんだろう」
圭一は肩の力を抜いてナッツに手を伸ばした。空きっ腹にウィスキーを流し込んだせいか、少し頭がくらくらする。
「よし、じゃあ二人で朝まで飲もう」
いや、俺は明日仕事なんだよ。それに民子が放ったらかしだ。
「ウィンナー茹でようか」
安東が立ち上がる。
「足元がふらついた状態で火を使うな。危ない!」
明日は二日酔いになりそうな気がした。




