第四話・バレンタイン《解答編》
「おかえり、愛良」
いつもの癖で父の経営する探偵事務所によると、いつものように匠が居座っていた。
応接室のテーブルの上には、これ見よがしに山積みのチョコレート…。
「…いっぱいもらってよかったね」
「そりゃどうも」
僅かに微笑む匠はからかうような眼差しだ。
やきもちを焼いているのを楽しまれている気がする。
「市販のチョコは食べないから貰わないんじゃなかったの」
「俺宛のチョコレートは、手作りでも貰わないけど」
「は?」
意味のわからない匠の発言に眉をしかめる私を、匠は楽しそうに見つめる。
確かに、今まではそうだった。
私以外のチョコを貰ってきたのを見たことがない。
でも、今目の前にあるチョコは何!?
「横溝くんにって渡してたの見たんだけどっ」
「知ってる」
「えっ?」
ぽかんとする私を見て、匠はこらえ切れないようにくっくっくっと笑い出した。
「な、何よーー!!」
「いやいや。愛良のリアクションってことごとく面白いな、と」
訳がわからなくて涙目になった私の頭を、立ち上がった匠はぽんぽんっとなでた。
「愛良が、あまりにもチョコが食べたそうだったからさ」
「だから、何?」
「さすがに男の俺が買うのもなんだから、女子からの報酬を『愛良にあげるから、女の子が食べたいチョコ』にしてもらったんだけど?」
「は?」
眉をしかめる私に、にやりと笑う匠。
「俺が得意な推理は何もミステリーだけじゃなくてね…。どの教師がどんなテスト範囲でどんな傾向の問題をだすか推理するのも得意なんだよ」
「まさか…」
「そう、見事に当てた報酬」
なんだか悪い笑みを浮かべた匠を見て、先生たちをちょっと哀れむ。
「俺宛に貰ったチョコは食べたくないだろうけど、愛良のために買ってきてくれたチョコなら食べるだろう?」
思わず山積みになったチョコレートに目をやる。
食べたかった銘柄の包みもたくさんある…。
「食べます」
「素直でよろしい」
微笑んでソファに座った匠の隣に腰を下ろす。
美味しそうなチョコレートの山。
でも、渡せなかったチョコを想うとなんだか素直に喜べない。
「先に言ってくれればよかったのに…」
「やきもち焼く愛良の顔を見てみたくってね」
「…いぢわる」
ぷうっとふくれる私を、匠は楽しそうに見つめている。
「それと、これが、俺の本当の報酬ってね」
「え?」
そう言って匠がどこかから取り出して口に放り込んだ不恰好なチョコレートを見て、驚いて目を見開く。
それは、どう見ても私が作ったチョコレート…。
「なんで!?それ!!」
「チョコレートの隠し場所をクイズにする女なんて、愛良しかいないだろ?」
くすりと笑う匠。
そして、ポケットから手紙を取り出す。
「『一番気持ちがこもった場所』がヒント。今日はバレンタイン。こめられる気持ちは一つ…『愛』」
そう言ってちらりと私を見る匠。
思わずかぁっと赤くなる。
「そして、3つの場所から愛が一番あるものを探すとなると…
『愛』=ローマ字の『I』とすると、クイズは成り立つ。
それぞれの場所をローマ字に直し、一番『I』が入っている所…。
3つ入っている1番の『図書室のミステリー小説の棚の上』だろ」
「…正解」
私がチョコを回収行く前にとりに行ったのだから、きっと一瞬で解けたのだろう。
ちょっとした悔しさも、匠が食べてくれているのをみて暖かなものに変わっていく。
わざとやきもち焼かされたのはむかつくが、結局は私のためを想ってやってくれた事。
ひねくれてはいるものの、匠はいつだって私の事を大切にしてくれている。
「ところで、愛良」
「何?」
机の上のチョコレートを一つ取り、包みを開いていた私に匠がおもむろに声をかけた。
手には、最後の一つのチョコレート。
「味見はした?」
「…してないけど」
ちらりと嫌な予感がする。
「ま、塩味のチョコってのも風変わりでいいけどね」
そう言って最後の一つを口に放り込む匠。
「え!?ちょっ…ほんとにっ!!??」
匠は慌てる私を楽しそうに見つめている。
からかわれているのか、本当なのかわからない。
チョコがなくなってしまったため、真相は闇の中…。
固まる私に、優しく微笑む匠。
「大切なのは気持ちだから味は関係ない。サンキュ、愛良」
「…うん」
その言葉に嘘はなさそうで、ちょっと照れる。
いっつも私の行動をよんで、からかったり喜ばせてくれる匠。
いつか、私が匠の上手をいって驚く匠の顔をみてやるんだから!