第三話・クリスマスイヴ《解答編》
恋人達で溢れかえっている待ち合わせ場所で、私は一人佇んでいた。
待ち合わせの時間まであと5分。
外は寒かったけど、なんだかわくわくしていて寒さは感じていなかった。
と、ふわっと背後から首に何かがかけられる。
「なんでこんな寒い時に、外で待ち合わせするかな」
匠が自分のマフラーを私に巻きながら、呆れたように呟いた。
「だって匠、こうでもしないと出かけてくれないじゃない」
「イルミネーションももう見たし、何も一番込んでる日じゃなくてもいいと思うけど?」
もうっ、ムードがわからない奴!!
でも、暖かい缶コーヒーをポケットから出して渡してくれる辺りが、相変わらず匠らしい素直じゃない優しさだと思う。
「暗号はすぐにわかった?」
「俺がわからないと思う?」
不敵に微笑むと、匠はポケットから暗号を取り出す。
「ヒントの愛良の名前から察すると、文字と星の数が同じで、星にも濁点があるということは、『☆』=『ひらがな』。
星の頂点が5つ、中の数字は10までって事は、
数字が『あかさたな』って横の列、
頂点の塗られた場所が『あいうえお』って縦の列。
で、あいらの『あい』の星が右回りに塗られてるって事は、一番上から右回りが順番。
で、それを元に訳すと、「こうえんのつりー、ろくじ」 だろ?」
「ご名答!」
必死に考えた暗号がものの見事に解かれて、悔しいような嬉しいような微妙な気分だ。
「ま、愛良のわりに、よく考えたよ」
小ばかにしているようにも聞こえるが、匠なりに褒めてくれているのがわかってちょっと嬉しくなる。
「匠のために、必死に考えたもの」
「そりゃ、どうも」
ふっと笑うと、匠は踵を返した。
「じゃ、帰るか」
「えーーー!!ここのツリーはこれからがいいんじゃない!!」
さっさと帰ろうとする匠の袖を思わず掴む。
この公園のツリーはクリスマスイヴにのみ行なわれるイベントがあった。
イルミネーションや飾りはだいぶ前から飾られているが、今日は特別。
オーナメントに綺麗な小さな宝石箱が飾り付けられる。
イルミネーションが点灯すると、その箱に飾られた宝石がキラキラ輝いてよりいっそう綺麗なのだ。
その点灯の時刻がもう少し…。
「もうちょっとでいいから、いよーよ」
「しかたないな。愛良がそう言うなら」
そう言って、匠はちょうどあいたベンチに腰掛ける。
「しかしよく考えるよな、こんなイベント」
「素敵じゃない!憧れちゃうけどな」
実はその宝石箱、中にプレゼントが入れられるのだ。
抽選で選ばれるとその宝石箱の中にプレゼントが入れられて、その箱に飾られた宝石と同じ宝石がついたキーがもらえる。
柄の部分がツリーになっていて、その先端に宝石がついているのだ。
恋人へのプレゼントをそこに入れて、鍵を恋人にわたし、オーナメントの中から同じ宝石がついた鍵のかかった小箱を見つける。
それが、このイベントだった。
だから、当日は傍に入れるのはその鍵をもった人のみ。
わたし達みたいなのは、遠くから眺めるだけ。
「寒いのに、みんなよくやるよ」
呆れたように呟きながら、周囲にいる恋人達を眺める匠。
ほんっとにミステリー以外興味が無いんだから…。
「あ…!」
時間になったのか、光が燈っていなかったツリーが輝きだす。
「確かに…いつもより綺麗かもな」
感心したように呟く匠。
宝石箱がキラキラと輝いて、幻想的な美しさだ。
鍵を持った恋人達が次々とツリーの傍に行き、楽しそうに宝石箱を探している。
羨ましいけど…でも、今年は一緒に見にこれただけいいかな?
しばらく、二人でクリスマスツリーを眺める。
「さ、寒くなってきたし帰ろうか?家にご馳走用意してきたんだ」
私がそう言って立ち上がろうとすると、匠は口元にちょっと笑みを浮かべた。
「じゃ、その前に手、出して」
「?」
首をかしげながら手を出すと、匠はずっとポケットに入れていた手を出す。
そして、私の手の上でそれを開くと何かが私の手に落ちてきた。
「…あ!?」
そこにあったのは、ツリーをかたどった鍵。
「匠っ!?これ…!!えぇ!!??」
「もうちょっと可愛く喜べよ」
慌てふためく私を見て、くくくっとおかしそうに笑う匠。
「だって、えぇぇ!!??」
「お前の考えそうな事なんて、お見通しなんだよ」
そう言って不敵に微笑む匠の瞳は、なんだかとても優しく見えた。
高鳴る胸で探し出した宝石箱の中には、小さな宝石のついた可愛い指輪。
驚きと嬉しさで目が潤む私を、匠はくすくす笑いながら見つめている。
そっけない態度をとりながら、いつも私に嬉しい驚きをくれる匠。
私も、いつか匠の上手をいく演出、考えなくっちゃ!