第二話・けんか《解答編》
暗号の薀蓄は匠に散々聞かされている。
「この手の問題は、言葉を並び替えるとか、いらない言葉を取り除く…」
私の独り言に、匠は小説を読みながら頷いている。
「ヒントがメールの返事ってことは、怒ってないかの返事なんだから、『怒ってる』か『怒ってない』って事でしょ?
で、言葉を取り除く暗号だとしたら、何かがないって言葉がヒントになるから返事は『怒ってない』…」
そう言ってちらっと匠を見ると、満足気に微笑んでいる。
小説に対してじゃなく、今の言葉の肯定ととっていいのかな?
「でも、暗号に『おこって』って言葉はないしなぁ…」
「日本語は同じ意味でもいろんな表現があるよな」
あくまで小説に対しての独り言のように、ヒントをくれる匠。
怒るの別の表現…。腹を立てる…むかつく…。
いやいや、暗号の中にある言葉で構成されているはずだから、その中の言葉を使わなきゃ。
『りかいつくかえのいかしたいをかみかりよ』
この中にある言葉で、おこると同じような意味の言葉…。
「あっ!わかった!!」
匠がパタンと小説を閉じた。
「で?暗号の答えは?」
「えーっと、ちょっと待って。怒ってない、つまり『怒り(いかり)はない』ってことよね。
『りかいつくかえのいかしたいをかみかりよ』から『い』と『か』と『り』をぬくと…『つくえのしたをみよ』??」
私はしゃがんで手紙が置いてあったテーブルの下をのぞく。
そこには可愛く包装された小さな小箱…。
「ハッピーバースデー。愛良」
背後で、いつもより少し優しい匠の声。
振り返った私の顔を見て、匠は笑い出す。
「何?自分の誕生日も忘れてたわけ?」
驚きと嬉しさで、顔が真っ赤になっているのが自分でもわかった。
「だって…匠がずっと私の事さけてるからっ!」
「へぇ、そんなに寂しかったんだ」
からかうような視線に、いつもなら言い返すところだが今日は思わず目が潤む。
嫌われたんじゃないかって不安だったから、匠らしい演出がものすごく嬉しかった。
匠はそんな私をみてくすっと笑う。
「ちょっとは反省した?」
「すっごく反省した」
「よろしい」
満足気に頷いて、匠は私のほうへ歩み寄ってきた。
「開けてみなよ」
「…うん」
中から出てきたのは、この間の買い物で私が見とれていたネックレス。
匠は興味なさそうに他のものを見てたから、気付いてないと思ったのに…。
「俺の観察力を甘く見るなよ」
そう言いながら、匠は私にネックレスをつけてくれた。
「ありがと、匠」
「いつもそれだけ素直だといいんだけどね」
「それはお互い様でしょ!」
顔を見合わせて、思わず笑い出す。
やっぱり、こうやって匠と言い合ってるのが落ち着くな。
「じゃ、お客さんが来ないうちにここでケーキ食べるか」
「わーい!!」
暗号をおいた後に買いに行ったらしいケーキを、匠は応接室の外から持ってきてくれた。
ちょっと意地悪もするけど、やっぱり匠は優しいんだよね。
私の事も、ちゃんと見ててくれるしさ。
匠の誕生日、私も匠が喜んでびっくりする演出、考えてみようかな?