第二話・けんか《問題編》
探偵事務所のドアをそっと開き、いつも我が物顔で読書をしているはずの人物がいないのを確認すると、私、橘 愛良は深い溜息をついた。
これで10日目…。
一緒に買い物に行った時に喧嘩をしてから、横溝 匠は毎日来ていた事務所に顔を出さないばかりか、学校でもさりげなく私をさけていた。
素直に謝れない私が悪いんだけど、そこまでしなくたって…。
私は鞄から携帯を出して、匠からのメールがないのを確かめると再び溜息をついた。
今朝『まだ怒ってる?』とメールを出したのに、夕方の今になっても返事がないなんてやっぱり怒ってるのかなぁ…。
「ふふっ」
思わずこぼれたといった笑い声に私が目を向けると、事務員のマミさんが私を見て微笑んでいる。
「匠君なら、さっき応接室に何か置いてでかけたわよ」
「ほんと!?」
ダッシュで応接室に駆け込むみ、部屋を見回すと、テーブルの上に一枚の紙があるのが見えた。
私はソファーに腰をかけ、その紙を手に取った。
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愛良ヘ
次の暗号を解読せよ
りかいつくかえのいかしたいをかみかりよ
ヒントは「メールの返事」
匠
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「なに。これ…」
10日ぶりのコミュニケーションが暗号って……匠らしいけどね。
しかし、意味不明の言葉の羅列を見ても、なんのことだかさっぱりわからない。
メールの返事がヒント…。
「今日のメールの返事だよね…」
「そうだよ」
思わず言った独り言に返事がかえってきて、私は驚いて振り返る。
不敵な笑みを浮かべて、応接室の入り口に匠が佇んでいた。
「まだ解けてないの?簡単なのに」
「もう解けそうよっ!」
全然わからないけれど、挑戦的な匠の視線に思わず意地をはる。
本当は久しぶりに話せて嬉しいのに、私ってほんとに素直じゃない。
「へぇ。じゃあ、お手並み拝見」
匠は推理小説を取り出すと、入り口で立ったまま読み始めた。
もうっ、小説読めるくらい時間がかかるといいたいわけねっ!
私はぷうっと頬を膨らましながら、再び手紙とにらめっこし始めた。